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日本総研ニュースレター 2014年1月号

広域機関の設立を機に新たな民間送電投資を

2014年01月06日 瀧口信一郎


広域機関の設立と送電網整備への懸念
 2013年11月13日に電気事業法改正案が成立し、地域間送電等を担う広域的運営推進機関(広域機関)が、国のガバナンスの下で設立されることが決まった。広域機関が発電地と消費地を柔軟に結べるようになれば、地域間の電力のやり取りや風力発電等の再生可能エネルギーの利用が活発化すると予想される。そのため、北海道と東北を結ぶ北本連系線、東西の50Hz-60Hzの周波数変換装置、東北と東京を結ぶ相馬双葉幹線などの地域間連系線、あるいは、北海道西岸や東北の日本海側など、各地で送電網の増強が必要となる。しかし、地域間送電線のほか、遠隔地にあることが多い再エネの発電所からの接続線の整備には、3兆円規模とも想定される投資が必要なのが厄介な点だ。
 というのも、今後必要な送電整備は個別電力会社の管轄外のため、電力会社の総括原価方式は、有効に機能しない。しかも、電力自由化を控えて、回収不能になる可能性のある送電投資に電力会社は消極的になる。従って、送電網が広がらない恐れがあるのだ。
 そこで経済産業省は、既存の送電網への接続線に補助を行う事業を北海道・東北で開始した。民間企業である三井物産・丸紅・ソフトバンクの企業連合、ユーラスエナジーが主体となり、固定価格買取制度を活用した利用料で送電を行うという、新たな事業形態だ。しかし、経済産業省の補助事業では、3兆円のコストの全てを賄うことはできない。

事業基盤を脅かすリスクには公的な対応が必須
 やはり送電網の整備は、競争原理によるコスト削減の構造も組み込みながら民間主導で進めたい。わが国の場合、地域開発という公共事業的な趣旨を踏まえると、広域機関が公的主体として事業を構想し、その実施は民間企業に委ねるPFI(民間資金主導)スキームが、今後の有力な方向性と言える。それには民間企業が安心して投資できる事業環境を用意することが欠かせない。民間企業は補助金で資金的なハードルを下げることよりも事業リスクを下げることに関心がある。巨額の資金が必要となる送電投資では、投資リターンはそれほど高くなくても、事業基盤を固められ、確実に投資資金を回収できる方が望ましいからだ。
 事業リスクを抑える際に必要なポイントは、広域運用を日本に先駆けて進めている欧州の事例が参考になる。例えば、EU委員会が広域運用制度を保証し、EU送電網協調機関(ENTSO-e)が送電網整備計画を公表することで、事業者が投資計画を立てやすくしている。また、リスクを無限には抱えられない民間企業のために、国による政策リスクや自然リスクという事業基盤を脅かすリスクには、EUの指示の下で各国が対応することが定められた。さらに、EUや各国規制機関が事業者に最低限の収入を保証することで収入リスクを軽減し、参入へのハードルを下げている。民間企業が負うリスクは、技術や建設、オペレーション関連に限る形とすることで、民間主導での送電投資が進むようになった。
 今では、電力の価格差がある国を結ぶ国際連系線で、価格設定が自由な送電線(マーチャントライン)による送電事業が大きな利益を生み出す事例も現れた。また、EUは同時に、域外の企業からの投資を受け入れることも許容し、送電投資に参加する企業を増やすことで、競争を促進している。三菱商事は英国やドイツなどで送電投資を行っており、既に欧州では重要な送電投資主体となっている。

送電網整備で地域資源開発等を
 このEUの仕組みは、日本でも大いに参考になる。新たな仕組みの導入に慎重な民間企業が多い日本では、例えば、当初は規制価格で参入ハードルを下げて開始し、参入企業が増えた段階で収入の上振れを狙える事業形態を取り入れることも考えられよう。
 EUとの違いにも注意が必要だ。国ごとの電力価格差が大きいEUでは、低価格の電力を他国で売る裁定取引が生まれやすく、これが新たな送電投資を促している。一方、日本では地域ごとの電力価格差が、巨額の送電投資を促すほど大きくはない。従って、工業団地と併せて道路を整備するのと同様に、地域経済を再興させる基盤整備として送電網整備を位置付け、特に北海道・東北・九州など風・火山の自然地帯の地域資源開発等の施策を進めることが必要となろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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