地域独占体制が阻む広域運用の実現
東日本大震災を契機に、従前からの電力システムの限界が明らかになった。特に東日本と西日本の周波数の違いや地域間連系の不足などが障害となって、地域間で機動的な電力融通や多様な電源の活用を行う「広域運用」ができないことが問題となったが、地域独占体制による相互不可侵が原則の大手電力会社には、そのシステム構築を行う発想さえなかった。
1951年以来の硬直的な地域独占体制のままでは、広域運用はまず実現しない。日本の電力市場の改革が求められるなか、広域運用実現の手本の一つとして注目するべきなのが、EUがユーロ統合以来形成を進めている電力統合市場だ。
各国の自立性と統合市場のガバナンスを両立させるEU
EUでは、1996年のEU電力指令以来20年近くかけて、異なる制度・電力システムを持つ国々を広域送電網でつなぐ電力統合市場を構築してきた。このEUの電力統合市場構築での大きな特徴としては、以下の5つが挙げられる。
① EUによるガバナンス
EU電力指令を策定するEU委員会を頂点としたガバナンス構造が明確であり、統合市場の競争環境が徹底されている。
② 広域運用機能の分散化
送電網整備や送電網運用ルールの方針策定と、送電運用調整や連系線市場運用という実行支援の機能が分離されている。
③ 送電会社の競争原理
送電会社は、インフラファンドや海外送電会社などからの出資を受けており、電力会社からは独立している。また、各国の送電会社は、国内における需給調整市場を自主運用している。
④ ファイナンス選択肢の拡大
市場資金を活用しやすい仕組みが整えられている。実際、再生可能エネルギーを需要地に送電し、広域の供給安定性を確保する商業的な送電システム(マーチャントライン)構築において、第三者の投資による事業が採用されるなど、積極的に活用されている。
⑤ 再生可能エネルギーの接続義務化
送配電網への発電設備の接続を、原則として送電会社の義務としている。また、再生可能エネルギー導入については、国ごとに数値目標が与えられ、送電会社はその目標達成に協力する。
広域運用機関は、電力システム改革の礎
2013年秋の臨時国会で可決成立が予想される電気事業法改正案では、広域運用機関の設立がうたわれる予定だ。そこで筆者は、EUの経験に学び、①送電事業の競争環境の整備、②送電運用のガバナンス適正化、③投資家の参入促進、④送配電線利用の開放、⑤賞味期限を見据えた制度設計、を提言したい。
特に①②の整備は重要だ。法案には、地域間連系線整備と電力融通促進、地域内の送電投資と運用、そして新規の送配電線接続促進などが掲げられる一方、競争環境を含む権限構造に焦点をあてた組織作りの方針は不明確だ。そもそも、送電事業にどのような競争環境を作り出すかという視点に欠ける。本来は、広域運用機関の管理・指導の下、自律的な運営を行う複数の電力会社が切磋琢磨する競争環境を整備する必要がある。また、広域運用機関が電力会社の競争促進と管理・指導の機能を両立させるには、機関の独立性の担保と、政府規制機関および電力会社間との指示命令系統の明確化が欠かせない。
電力融通や再生可能エネルギー活用を担う広域運用機関は、電力システム改革の礎となる存在だ。筆者が挙げる要点を含め、整備には幅広い視野からの議論の積み重ねが求められる。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。