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日本総研ニュースレター 2014年3月号

2020年以降の業界構造を見据えた建設労働者問題の議論を

2014年03月03日 山田英司


震災復興と五輪で活気づく業界を悩ませるコスト高騰
 長らく厳しい環境に置かれていた建設業界が、震災復興需要や先の東京オリンピックの招致などで活気づいている。大手建設業者で構成される日建連98社の統計(2013年4月~12月受注動向)によると、大手では平均で昨年同期比30%程度の受注数増加を見せている。
 一方、建設業界は、近年の受注環境に対して供給が間に合っていない。特に、建設従事者の不足は深刻だ。長らく続いた構造不況によるリストラや他業種への転向で建設従事者は減少しており、残った者は高齢化が進んでいる。さらに、少子高齢化や就業意識の変化で次世代の担い手も不足しており、その結果、労務・資材価格の高騰も相まって建設コストの高騰が続いている。既に五輪や震災復興関連の予算が膨張し始め、中長期的な財政への圧迫が懸念される状況だ。
 建設コストの短期間での高騰は、建設業界にとっても決して好ましいことではない。というのも、受注後に原価が増加しやすくなるため、プロジェクトの採算が圧迫される恐れが高まるからだ。一定のコスト上昇は致し方ないが、コスト高騰については何らかの策を講じる必要がある。

単純な移民受け入れでなく、期間を区切った労働力確保を
 建設従事者の不足はコストの高騰だけでなく、建設品質の低下という問題を併せ持つため、政府も対策の検討を開始している。中でも、移民の容認も含めた外国人労働者の受け入れ拡大については議論を呼んでいるが、どのような施策が有効なのか、以下で考えを整理する。
 まず、国土交通省が毎月発表する「建設労働需給調査」などからも分かるように、建設業において不足しているのは、工事全体を管理する管理技術者と、実際に各種の工程を担当する技能労働者であり、非熟練の単純労働者ではない。その意味で、単純な移民受け入れでは建設業の人材不足を解消するとは言い難い。
 施策には、今後の建設需要の見通しを考慮に入れる必要がある。おそらく、五輪の施設整備と震災復興の進展で建設需要は2017~2019年にピークを迎え、その後は減少傾向に転じると思われる。これを考えると、目先の供給不足に慌てて対応して建設従事者をやみくもに増やし、中長期的に労働力を過剰にさせる事態は何としても避けるべきだ。
 そのためには、不足する人材層を必要な期間だけ確保するという視点からの施策が欠かせない。また、管理技術者および技能労働者に対する施策はそれぞれ異なる。
 まず、先進国の優秀な管理技術者を確保するためには、国内市場の参入要件を緩和する施策が必要だ。具体的には、現在制限がある管理技術者に関する人材派遣についての規制緩和をはじめ、建設技術資格の国際基準との調和、海外建設関連企業の参入要件の緩和などを通じて、管理技術者を受け入れやすい素地を構築すべきである。
 一方で、技能労働者の確保については、主に新興国から期間限定で受け入れる仕組みを構築すべきだ。具体的には、国内建設企業が新興国の建設企業と連携し、連携先企業で雇用し基礎的な教育を施した人材に対して、2017~2020年の間は一定の技術教育を施しながら国内の自社の建設工事現場に従事させることで技能者不足に対応する。また、それと同時に、需要が減少する2021年以降は、連携先企業に帰国させ、帰国先の現場に従事させるスキームも構築しなければならない。
 このスキームは必要な期間に技能者を確保できることに加え、近い将来、建設企業が海外に進出する際の悩みである、進出先における一定の施工能力を有するパートナー企業と技能者の確保にも寄与できる利点がある。

業界構造の再構築の好機として活用すべき
 これらの施策の実現には、国内企業や建設従事者との利害調整、受け入れ従事者の言語など様々な課題が存在する。しかし、現在の状況は、国内における需給の変化や、グローバルへの対応などを踏まえた業界構造の再構築を先送りしてきた結末ということ認識すべきだ。その意味では、将来にわたって健全な業界を構築するための最大の好機が到来したとポジティブに捉え、施策の検討にあたるべきだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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