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日本総研ニュースレター 2013年3月号

信頼関係の構築が二国間オフセット・クレジット制度を成功させる鍵

2013年03月01日 三木優


新しい排出権取引への途上国・日本企業からの期待
 二国間オフセット・クレジット制度(Bilateral Offset Credit Mechanism: 以下「BOCM」)は、途上国の温室効果ガス排出量のうち、日本の製品・技術によって削減された量を適切に評価して排出権化する新たな仕組みだ。
 BOCMで削減された温室効果ガスは、排出権として販売できる見込みだ。国際的に流通する排出権価格が大幅に下落するなか、新しい排出権の一つとして途上国側の期待は大きい。日本企業側も、途上国に製品・技術を紹介する契機として、インフラ系企業を中心に期待が高い。また、二国間対話の深まりのなかで相手国制度の構築に影響を与えられる可能性もあるだろう。

定まらない制度への不信感
 BOCMの普及を目指す日本政府は、主にアジア諸国との間で具体的な制度構築・運用開始に向けた協議を開始しており、既にモンゴルでは運用が始まっている。一方で、独自の新たな仕組みのために、以下に示すような制度や技術評価が定まらない部分も多い。
  日本政府の温室効果ガス排出削減目標が定まっていないため、どの程度の排出権が必要であるか、その排出権 を調達するための費用の予算化、政府・企業の役割分担などが決められていない。
  従来の排出権とは異なる独自の仕組みであるため、実際に温室効果ガス排出削減プロジェクトを行い、その排 出削減量を算定・検証出来る人材が不足している。
  日本の技術と相手国の技術・製品を組み合わせる場合など、新規の取り組みでは排出量が見積もりにくい。
 上記には、運用しながら決めざるを得ない部分があるのも事実だが、途上国側の質問への回答に窮することもしばしばとなり、制度への不信を招いていることも確かではある。

「信頼関係」が説明しきれない部分を納得させる
 一般的に、相互に興味を持ちつつも、詳細が決まっていない交渉においては、率直な意見の交換などによる信頼関係の醸成が、説明しきれない部分を納得させるために重要な役割を果たす。
 日本総研がベトナムやインドなどを対象に実施したBOCMの招聘・専門家派遣事業では、相手国の政府高官、電力・エネルギー会社幹部、研究機関研究員などのキーパーソンを対象に最新鋭の石炭火力発電所やセメント工場などの見学会を実施したうえで、日本のエンジニアとの技術的な意見交換を行う機会を設けた。
 見学会で一通りの理解を得た彼らの口からは、価格が高い日本製品を受け入れやすい進め方として、単に技術的な効率や優位性を売り込むのでなく、製品・技術とファイナンススキームを一体的に提案すべきという、契約を進めるための助言が出てきた。また、エネルギー消費量に影響を与える外気温や湿度などが地域によって大きく異なることから、データセンター省エネ化による温室効果ガス排出削減量を算定する際には、地域ごとにエネルギー消費量に関するデータを収集する必要があることなど、既にプロジェクトに進んだ場合を想定した具体的なフィードバックを得られた。設備導入について具体的に検討する意思が起きなければ、そうした助言や情報を日本側に伝えることはないはずだ。日本の最新鋭の技術・製品を実際に体感してもらうことで、BOCMへの不信感をも上回るほどの信頼を獲得できたのだ。

相手国のニーズを理解し、BOCMの早期実現を
 今後、BOCMや日本の環境技術・製品への関心を高めるには、人材交流による相互理解を一層促進する必要がある。日本側は伝えたいことだけを話題にするのではなく、相手ニーズを積極的に把握したい。例えば、意見交換の際に聞かれた、「日本の製品・技術の導入には、金融面での支援が必要」といった重要な「本音」だ。
 制度や予算に不明確な部分が残るBOCMへの支持を広げるのは容易ではない。しかし、日本と相手国の人材交流を実施し、信頼関係を強める取り組みを続けることが、制度構築の加速をも促がせて互いを結び付け、BOCMを早期に実現させる鍵となるのだと言える。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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