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日本総研ニュースレター 2013年2月号

「高年齢者対策」では解決しない「定年65歳問題」

2013年02月01日 太田康尚


65歳までの継続雇用を求める高年齢者雇用安定法
 希望者全員に対し、65歳までの継続雇用を企業に義務付ける改正を行った「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)が、2013年4月1日から施行される。
 年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられることへの対策を企業に押し付けた形といえる。一方で、日本国内の労働人口の減少は長期化し、歯止めがかからないなかで、企業側も労働力確保の一つとして、高年齢者の積極的な活用が迫られているのが現実だ。

「高年齢者対策」では一時しのぎに終わる恐れ
 65歳まで継続雇用する原資を確保するため、賃金カーブを緩やかにして40歳以降の賃金を抑制する等、企業側の対策は既に始まっている。また、技術の伝承者として、あるいは長年培った人的ネットワークを活用する役割等において、高年齢者活用を積極化させた企業も少なくない。
 しかし、これらの対策は現時点の高年齢者をどう扱うかという視点に終始し、企業の将来を担うはずの若手社員のことはあまり考慮されないものも多い。「社員の平均年齢上昇に耐えられる組織作り」という「制度対応」に終われば、特に人数の多い、40代半ばのバブル入社世代が高年齢者になる頃には通用しなくなることが懸念される。
 また、若年層の採用を抑えた場合、企業が永続的に発展させる活力を維持できるのか不安が残る。

人事制度再設計は雇う側と働く側のニーズの擦り合わせ
 今回の制度対応をきっかけに、高年齢者を含む将来の多様な人材活用について、抜本的な検討を行った企業も存在する。
 ある大手ゼネコンでは、事業予測に基づいて、必要な人材のポートフォリオを描き直したうえで、社員ごとに異なるモチベーションを組み合わせながら、人事制度、業務、役割分担等の抜本的な再設計を行った。目的は、各層のモチベーションを維持することにある。
 実は、事前に実施した社員の意識調査で、年代ごと、そして一人ひとりの仕事へのモチベーションの差異が想像以上に広がっていることが分かったのだ。例えば、若年層には管理職昇進や大幅な昇給などは望まず、専門家としての道を望む意見も多かった。これは、今まで当然とされてきた「平等な」キャリアパスが、むしろ社員のモチベーションを下げる要因となり得ることを意味する。そこで、企業は社員に何を求めることが可能なのか、社員はそれぞれ何を求めて働くのか、企業と社員の双方が仕事に求めるもののマッチングを改めて行い、新しい働き方を設計したのだ。
 検討作業の結果、作り出されたのは、社員が自身のキャリアパスを自ら選択できる機会だ。例えば、若年層には、従来からの総合職に加え、技術者として専門性を磨いていくキャリアを目指す専門職を新たに設け、30歳半ばで各自が選択できる制度を導入した。また、高年齢者には、責任の重い管理業務や肉体的負荷の高い業務から外れ、得意な分野に限定した業務とその分野における若年層の育成を担当し、さらに、地域や働く時間などの労働条件を柔軟に選択できる制度を導入した。これにより、企業を通して社会に貢献するというモチベーションの維持と各人の体力に合わせた無理のない働き方を実現している。
 制度が多様化するため、運用の手間がかかることになるが、社員のニーズを受け止めることによるモチベーションの向上や、専門家の早期育成および専門性の深化を企業側は期待している。そして、年齢で区切った階層別の役割分担ばかりでなくなることから、これから迎える大量のバブル入社世代の高年齢化に対する備えも整ったと見ている。

制度改定をきっかけにした抜本的な改革を
 多様な働き方を認め合い、役割に見合った報酬を得るというこの改革は、従来の年功序列モデルと根本的に異なる。きっかけこそ制度対応だが、小手先の法対応にとどまらない、企業戦略と社員のモチベーションを長期的に一致させる「次世代人材活用モデル」に昇華させた好例といえる。
 年代ごと、個人ごとの働くモチベーションが年々変化し、その差異が広がるなかでの定年延長は、企業が受け入れるべき差異が広がることも意味する。上記のような企業が成長するための戦略と社員のモチベーションの擦り合せ作業は、今後一層重要になると考えられる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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