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アジア・マンスリー 2015年1月号

【トピックス】
拡大する韓国の家計債務残高

2015年01月05日 大嶋秀雄


韓国政府は14年7月に発表した景気刺激策のなかで住宅ローン規制の実質的な緩和を実施した。韓国銀行も政府に歩調を合わせて2度の利下げを行った。結果、家計債務の拡大に拍車がかかっている。

■家計債務残高は1,060兆ウォンに
膨大な家計債務は、以前より韓国経済のリスク要因として指摘されてきた。家計債務残高は2013年末に1,000兆ウォンを超え、14年9月には1,060兆ウォンとなった。一方、景気の低迷により家計所得の改善は遅れており、家計債務の可処分所得比は9月末で145%に達している。これは、他の先進国と比較してかなり高い水準にある。

家計債務の増加に伴い、利払い・返済負担も重くなっている。利払い・返済の家計所得に占める割合は足元では17.6%に達している。とくに低所得層(家計所得下位20%)では、10年の10.1%から14年には23.7%まで急上昇するなど、負担が増している。

家計債務が増加した背景としては、住宅ローンによる住宅取得の拡大などが指摘されている。足元では、7月に行われた住宅ローンに関する規制緩和と8、10月に実施された韓国銀行による政策金利引き下げが、家計債務の増加に拍車をかけている。

■住宅ローン規制緩和と金利引き下げで、住宅ローンが急増
7月に経済担当副首相に就任した崔氏は、就任早々に景気刺激策を打ち出した。そのなかで、住宅ローンの貸出上限規制を改定した。

これまで住宅ローンの貸出上限規制は、都市部/農村部や金融機関の業態などで基準が異なっていた。その基準が7月に全国、全金融機関で統一され、家計向け融資の約5割を占める銀行などにとっては規制緩和となった。

加えて、韓国銀行が、政府の景気刺激策に歩調を合わせ8月と10月に政策金利引き下げを行った(2.50%→2.25%→2.00%)。これらの結果、足元で銀行の住宅ローン残高が急増しており、10月には前年同月比+9.8%と、リーマン・ショック以降最大の伸びとなった。

政府の景気刺激策を受け、足元で不動産市場に持ち直しの兆しがみられている。住宅価格をみると、13年後半に底を打ち、14年に入って以降は緩やかに改善している。政府は、これまでも不動産市場の活性化策を実施してきた(公共分譲住宅の建設縮小による供給抑制、税控除などによる需要促進など)。それらの政策に加え、今回の住宅ローン規制の緩和、一段の金利低下により、不動産市場は活性化し始め、住宅価格の上昇ペースが加速している。

■ノンバンクから銀行へのシフトがはじまる
住宅ローン規制の改定を受け、これまで高い伸びをみせていたノンバンク(その他金融機関)が足元で伸び悩む一方、銀行が家計向け融資を伸ばしている。

韓国の家計債務は、銀行以外からの借り入れの割合が比較的大きく、ノンバンクが30%強(14年9月、以下同じ)を占めている。家計債務に占める銀行の割合は47.3%、信用組合などの非銀行預金取扱機関を含めても68.2%に過ぎない。ノンバンクが拡大した要因として、①銀行の貸出上限金利引き下げに伴いリスクの高い融資が抑制されたこと、②ノンバンクの住宅ローン貸出上限規制が銀行に比べて緩かったこと、③政府による低所得層の金融アクセス改善策が実施されたこと、があげられる。その結果、ノンバンクの伸びは総じて銀行を上回っていた。しかし、14年9月は銀行の伸びがノンバンクを上回った。背景としては、ノンバンクの急拡大に伴い、政府がノンバンクを抑制する方針に切り替えつつあることがある。とくに、7月に銀行とノンバンクで住宅ローンの貸出上限規制が統一されたことが大きい。これまではノンバンクの規制が緩かったため、貸出金利が割高でもノンバンクから借りる債務者が多かったものの、基準が統一されたことでノンバンクから銀行へのシフトが始まっている。ノンバンクから銀行へのシフトによって貸出金利が下がる一方、銀行にリスクが集中していくことになる。

■家計債務は中長期的な経済減速リスク要因
政府の景気刺激策の影響もあり、家計債務の拡大ペースは弱まる兆しがみられない。現在のところ不良債権問題などは深刻化していないものの、中長期的には、景気や住宅価格、金利などの動向によって、肥大化する家計債務が景気下振れ要因となりかねない。

韓国の家計債務の構造的な問題として、住宅ローンの約7割で元本返済が行われていない点と住宅ローンの7割以上が変動金利である点が指摘されている。前者については、多くの住宅ローンに3年前後の元本返済猶予期間が設定されていること、また、借り換えにより猶予期間がリセット可能であることから、元本返済が行われていない住宅ローンが多い。住宅ローンには貸出上限規制(住宅ローン金額を住宅評価額の7割以下とする規制など)があり、住宅価格が低下すると元本返済を迫られることになる。他方、変動金利の借り入れが多いため、金利上昇により利払いが増加することになる。

現在のところ、住宅価格は上昇、金利は下降トレンドにあり、これらのリスクは顕在化していない。政府は、固定金利、元本返済の付いた住宅ローンの割合をそれぞれ4割以上にする方針を打ち出しており、その効果が期待される。

もっとも、こうした家計債務に内在するリスクを軽減していくには、本質的には家計所得の改善が不可欠である。家計所得拡大には企業業績の改善が重要であり、中国の台頭などにより成長モデルの転換を迫られているなかで、企業がいかに新たなビジネスモデルを構築していくかが問われている。他方、政府は7月の景気刺激策で家計所得拡大策(賃上げを行った企業への税優遇やデビットカードを利用した家計への税控除等)を打ち出したが、その効果は今のところ現れていない。家計債務の問題を深刻化させないために、政府、企業双方での対応が求められている。
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