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アジア・マンスリー 2014年9月号

【トピックス】
拡大するシンガポールのアジア向け直接投資

2014年09月03日 熊谷章太郎


シンガポールでは、政府系投資ファンドや政府関連企業によるものを中心にアジア向け対外直接投資の拡大傾向が続いており、日本の対内直接投資におけるプレゼンスも高まりつつある。

■シンガポールはASEAN最大の対外直接投資国
AEC(ASEAN Economic Community)の発足を2015年末に控えるなか、ASEAN各国は大企業を中心に国際化を進めている。とりわけ、これまで直接投資の受入国としての色彩が濃かったタイやマレーシアは、近年投資国としての存在感も強めており、ASEANの対外直接投資のけん引役となっている(詳細は、アジア・マンスリー2014年5月号「拡大するタイ、マレーシアの対外直接投資」を参照)。こうしたなか、これまでASEANの主たる投資国であったシンガポールは、相対的なプレゼンスは低下しているものの、依然としてASEAN最大の対外直接投資国としての地位を維持しており(右上図)、日本を含むアジア各国の対内直接投資動向をみるうえでも重要な役割を果たしている。そこで、以下では、近年のシンガポールの対外直接動向を整理し、対日直接投資の動向について俯瞰する。

■対外直接投資の動向
まず、近年のシンガポールの対外直接投資残高の推移をみると、中国、香港、インドネシア、マレーシアを中心としたアジア向けが増加傾向にある。業種別では、全体の約4割を占める金融・保険業が全体をけん引しているが、この他、製造業、卸売・小売業、不動産業などでも増加傾向が続いている(注: 残高の変化には、取引要因のほか、為替や時価の変動による影響が含まれるが、同国の投資フローは合計値のみしか公表されていない)。

シンガポールの対外直接投資の主要な投資主体は、MAS(Monetary Authority of Singapore)の外貨準備運用機関であるGIC(Government of Singapore Investment Corporation)と財務省が株式を100%保有するTemasek Holdings及びその関連企業である。まず、GICについてみると、同ファンドの主な資金源である外貨準備の増加を背景に対外投資は拡大傾向を続けており、政府系投資ファンドの研究機関であるSovereign Wealth Fund Instituteによれば、2014年7月時点の運用資産額は約3,200億米ドルとなっている。同ファンドの投資ポートフォリオにおける現金・債券比率は35%程度に過ぎず、大半は株式や不動産などに投資されている。株式投資における証券投資、直接投資比率は不明なものの、大型のM&AやGreen Field Investment案件にGIC及びその関連企業が多く含まれていることからも、同ファンドによる投資は同国の対外直接投資に大きな影響を与えていると判断されよう。なお、2013年4月から採用されているGICの運用方針である「Policy Portfolio」は、今後、現金・債券比率を下げ、プライベート・エクイティや不動産といった直接投資に分類される投資の比率を高めていく可能性を示唆している。

次に、Temasek Holdingsとその関連企業についてみると、近年シンガポール政府とアジア諸国との間で多くの共同都市開発計画が進められていることを受けて、インフラ関連企業や不動産関連企業による投資が目立っている。とりわけ投資額の大きい中国の代表的な都市開発プロジェクトの例として、「天津エコシティ」、「広州ナレッジシティ」、「四川・ハイテクイノベーション・パーク」などが挙げられる。この他、マレーシアではジョホール州政府との共同開発プロジェクトである「イスカンダル・マレーシア」が、インドではタミル・ナードゥ州チェンナイ市で工業団地を中心とした都市開発プロジェクト「ワンハブ・チェンナイ」が進められている。

■対日直接投資の動向
次に、対日投資動向をみる。シンガポールの対外直接投資残高における日本向けのシェアは全体の2%程度と小さく、フローの投資についても大型のM&A案件があった2007年・2008年以降は縮小傾向が続いている。他方、同期間において、ケイマン諸島を中心とした租税回避地や米国などからの対日直接投資額が縮小したことから、対日投資におけるシンガポールの重要性はむしろ高まっている。日本の対内直接残高に占めるシンガポールからの投資シェアは、2013年末に7%と10年前の5倍強に上昇している。

最近のシンガポールの対日直接投資の特徴をみると、各国・地域への投資と同様、政府系投資ファンドやその関連企業による投資が大半を占めている。投資先業種としては、金額では金融仲介業が中心となっているが、近年は急速な高齢化に伴う介護需要の拡大や物流施設の老朽化に伴う更新需要の高まりを見越して、介護業や運輸業などへの投資が広がり始めている。ちなみに、日本への直接投資には含まれないものの、シンガポール政府系企業が進めるアジアの都市開発に関して、日系企業と協業する動きも広がりつつある。

わが国では、旺盛なアジアの需要を取り込んでいくために対外直接投資の拡大が欠かせない。対内直接投資を拡大させていく上でも、製造業ではなく、金融仲介業や運輸サービス、不動産開発などで積極的に対外投資を行い、海外の成長の果実を取り込んでいるシンガポールの投資動向を把握することは重要である。
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