オピニオン
CSRを巡る動き:あらゆる業種で拡がる気候変動への適応策
2014年07月01日 ESGリサーチセンター
WMO(世界気象機関)は今年4月、日本を含む北半球の全ての観測点で二酸化炭素濃度が400ppmを越えたと公表しました。この400ppmという数値は二酸化炭素濃度が産業革命以来40%上昇したことを意味するとWMOは指摘しています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によれば、気温の上昇を2度未満に抑えるには二酸化炭素濃度は450ppm未満に維持しなければなりません。しかし現在のペースで二酸化炭素を排出し続けた場合、20~30年以内には450ppmを超えることが予想されており、温室効果ガスの抑制のための対策は急務となっています。
IPCCは、2013年9月に第1作業部会報告書(自然科学的根拠)、2014年3月に第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)、そして4月に第3作業部会報告書(気候変動の緩和)を公表しました。現在作成中の統合評価報告書が10月に公表されれば、地球温暖化に関する最新の知見が約7年ぶりに取りまとめられることになります。これまで気候変動対策の中心は、気候変動の緩和策、つまり温室効果ガスを抑制するための取り組みでした。しかし、今後どのような気候変動の緩和策がとられたとしても温暖化の進行を止めることはできないため、気候変動に伴う様々な影響への適応策を講じていくことが不可欠とされています。気候変動の影響・適応・脆弱性の評価のために利用できる科学的な公表文献の数は2005~2010年の間で倍以上に増加し、特に「適応」に関連する公表文献の数は急速に伸びており、年々注目が高まっていると言えます。今回取りまとめられた第2作業部会報告書では、新たな知見をもとに、観測された影響と将来の影響及び、脆弱性について地域・分野別に、より具体的に評価するとともに、適応策についても実際の適用を念頭に整理されました。第4次評価報告書からの変更点としては、新しく10の章が追加されたことが挙げられます。この中で特に注目されるのは、適応のリスクに加えて「機会」という観点から章が付け加えられている点です。気候変動の影響で台風や集中豪雨による洪水などの災害リスクや、降水の変動や異常気象に伴う農作物の品質低下、食料不足などのリスクが予想されますが、そのリスクは非常に広範囲に及ぶため、あらゆる分野や地域で適応策を策定できる可能性があるとしています。現在、欧州や米国、アフリカ、アジアなどの国や地方自治体が政策の中で気候変動を考慮し、適応計画を策定し始めています。さらに、公共セクターだけでなく民間企業の間でも、適応をビジネス機会として捉える動きが広がっています。国際連合気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は、適応策に寄与する民間セクターのビジネスを「Private Sector Initiative - database of actions on adaptation」としてまとめたデータベースを作成し、公表しています。食品、化学、建設、情報通信、陸運など、様々な業種で適応を考慮したビジネスの事例が約130近く掲載されています。特に食品業界では、食品の原材料が気候変動の影響を受けやすいと言われています。具体的には、干ばつや洪水などの影響で原材料となる作物の品質が低下したり、これまで収穫できていた地域でも温暖化の影響で収穫量が減るといったリスクがあります。こうしたリスクを低減し、原材料調達を安定的に行うため、コストが増大するにもかかわらず原材料の調達先を分散化する企業は増えています。
一方、気候変動の適応を新たな顧客ニーズと捉え、製品・サービスによってそのニーズを満たそうとする企業もあります。例えば、ドイツの製薬・化学会社バイエルでは、極端な高温や干ばつ、塩害土壌に対して高い耐久性を持つ農作物の開発を注力テーマに掲げ、米の生産性10%向上などの具体的な数値目標を設定し、育種技術の開発や稲の品種改良に取り組んでいます。日本企業でも、災害対策関連の新規製品・技術開発などにより、「新たな顧客獲得」の機会として適応に関連する事業を展開しようとする動きが出ています。
事前に気候変動によるリスク低減策を講じることで、将来何か起こった時の損失を最小限に抑えることから、新たな製品・サービスによる収益機会の創出に至るまで、適応策はあらゆる業種でメリットを生む可能性があり、先駆的な企業では既に取り組みを始めています。他社より一歩先んじて適応策に取り組む企業は、CSRにおいても注目すべき企業と言えるでしょう。