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アジア・マンスリー 2014年5月号

【トピックス】
拡大するタイ、マレーシアの対外直接投資

2014年05月01日 熊谷章太郎


タイ、マレーシアは、地場大企業を中心に国際化を進めており、両国の経済動向をみる際に対外直接投資動向を分析する重要性が高まっている。

■ASEANの対外直接投資をみる重要性
ASEANのビジネスや経済動向を分析する際のクロス・ボーダー投資に対する関心は、近年大きく変わり始めている。これまでは、主に日本をはじめとしたASEAN域外から域内各国へ流入する「対内投資」にあった。もっとも、2015年末にAEC(ASEAN Economic Community)の発足を控え、ASEAN各国の企業は地場大企業を中心に国際化を進めているため、「対外投資」の動向を把握する重要性が高まりつつある。

対外直接投資は、M&A(企業買収・合併)や新規工場・事務所などの設立に関わっており、投資国及び投資受入国の輸出や雇用を通じて実体経済により大きな影響を及ぼす。ASEANの対外直接投資は、これまでシンガポールからの投資が大半を占めていたものの、2009年以降は同国からの投資が伸び悩むなかでタイ、マレーシアからの投資が急速に存在感を高めている。

■タイ、マレーシアの対外直接投資動向
タイ、マレーシアの対内・対外直接投資を合わせたネット資本流出入は、対外直接投資の増加を受けて近年大きく変化している。タイでは2011年と2012年に流出超過(対外直接投資>対内直接投資)となり 、マレーシアでは2007年以降一貫して流出超過が続いている。これまでの投資の累積である投資残高では、両国ともに依然として対内直接投資が対外直接投資を上回っているものの、徐々に投資受入国から投資国へ転換しつつある。

投資先を地域別にみると、両国ともにASEAN諸国向けが高いシェアを占めている。ASEANの中では、シンガポール向けの投資が多いことで共通しているが、その他の域内の投資先は異なっており、タイでは2008~09年にミャンマー向け、マレーシアでは2008年にインドネシア向けに大規模な投資が行われている。一方、業種別では、両国ともに非製造業、とりわけ鉱業と金融仲介業向けの投資が大きな割合を占めている。なお、両国ともにM&Aが近年の対外投資の増減に大きな影響を与えているが、タイでは一案件当たりの取引金額の急速な増加が主因となっている。

■対外直接投資増加の背景
両国における近年の対外直接投資増加の背景として、まず、経済成長や株価上昇などに伴う企業規模の拡大により、初期投資コストが高い直接投資による事業展開を行える企業が増えていることを指摘できる。実際、各国の一人当たり名目GDPと一人当たり対外直接投資残高をみると、経済の発展段階と対外直接投資には強い相関がある。また、AECの創設に向けた規制緩和や制度の一元化に向けた取り組みも後押ししている。これらは、初期コストを低下させ、直接投資による事業展開へのハードルを引き下げる効果がある。

なお、対外直接投資の主な投資先業種が非製造業となっている要因には、技術導入に向け製造業には開放的な政策をとる一方で、非製造業に関しては地場の大企業育成に向けて厳しい外資規制を行ってきたことを挙げられる。実際、収益性や時価総額などを基に算出される、Forbes誌の「グローバル2000」にランクインしている両国の企業をみると、その大半が銀行や資源関連の非製造業であり、それらの多くに政府や政府関連投資ファンドからの出資が行われている。このうち、鉱業に関しては、国内資源の枯渇を見据えた将来資源の確保が、金融仲介業に関しては周辺国における資金需要の高まりなどが対外直接投資増加の主要な動機となっている。

■両国の対外直接投資は今後も非製造業が中心となる見込み
今後も、ASEAN域内の経済統合が進むなか、後発ASEAN(カンボジア、ラオス、ベトナム、ミャンマー)の成長に伴う消費市場や資金需要の拡大、タイ、マレーシアのエネルギー輸入需要の増加及び国内資源採掘の限界などを背景に、金融仲介業、鉱業、小売・卸売業などを中心とした対外直接投資の増加傾向が続くと見込まれる。

一方、製造業では、①タイ、マレーシアに現地法人を有する国際競争力の高い多国籍企業の多くは、本社所在国から投資を行うと見込まれること、②相対的に国際競争力の低い地場企業は、初期コストの高い直接投資よりも輸出を通じて国際化を進めると見込まれること、などから、短期的には非製造業と比べると直接投資の増勢は緩やかなものになると考えられる。なお、マレーシアでは、ASEAN後発国との地理的な距離も国際分業の制約要因になるとみられる。ただし、国内の労働力不足や労働コスト上昇を背景に、労働集約的な生産工程を移管する重要性が高まっている。そのため、中長期的には、地場製造業企業が成長するとともに、ASEAN域内の物流インフラ整備が進展するなかで、輸出に加えて直接投資により事業展開を進める企業数も徐々に増加していくと見込まれる。
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