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不思議の国のアリスになる仕事

2014年04月08日 足達英一郎


 あるプロジェクトが、世の中にどの程度の影響を与えることができたのか。それは、果たしてポジティブな影響なのか、ネガティブな影響なのか。「企業の社会に対する責任」をテーマに禄を食むものにとって、そうした計測を可能にすることは見果てぬ夢である。いわゆるインパクト評価といわれる仕事の領域がこれにあたる。

企業活動のパフォーマンスを計測する伝統的な手法は、売上高や利益額という指標で、社会からの支持の多寡を計測するというアプローチであった。これを一概に否定する人は少ないだろうが、それが全てと言われると何かしっくり来ないところがあるというのも真理ではないだろうか。「お金では測れないものがあるはずだ」という情念にも似たものが頭をもたげてくる。

一定期間における、投資元本に対する収益の割合を示す投資収益率(ROI)という概念を応用し、「投資に対する社会的成果の比率」としての「社会的投資利益率(SROI)」という考え方が最近、注目を集めているのも、企業の社会貢献活動やベンチャーフィランソロピーやインパクト・インベストメントといった社会的成果を強く念頭に置いた未公開株式投資が活発化している事実が背景にあろう。

 ただし、このインパクト評価に実際に足を踏み入れたとたんに、「万人が同じ価値観を有する」という状況がいかに稀なことであるかということにも気付かされる。「蓼食う虫も好き好き」の諺があるように、一つのプロジェクトの成果をどう見るかは千差万別だ。ある企業財団の関係者が、「インパクト評価は、アリスが不思議の国に迷い込むようなもの」と評しておられたことを思い出す。

それでも、何とかここに客観性を持ち込もうとするのが、我々の仕事だ。世の中にポジティブな影響をどの程度与えられたのかについて合意形成が実現することで、資源配分は必ずや改善されると信じるからである。膨大な数の実施報告書を読み解き、関係者に疑問をぶつけまくるという極めて地道な作業が、今日も我々を待っている。


※メッセージは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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