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【「CSV」で企業を視る】(16)紙パルプ業におけるCSV:素材と売り方で製品差別化を図る

2014年02月01日 ESGリサーチセンター、村上芽


 本シリーズ16回目となる今回は、共有価値創造の手法の1つ目にあげられる「顧客ニーズ、製品、市場を見直す」及び、3つ目にあげられる「企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスターを組成する」例として、原材料に竹を使った紙を大規模に扱う中越パルプ工業株式会社を取り上げる。

(1)紙パルプ業における原材料調達
 紙パルプ業にとって、紙の原材料の安定的な調達は重要な経営課題である。2012年の業界全体の内訳をみると、「古紙とその他」が63.8%、「パルプ」が36.2%を占めている[1]。パルプについては、大手各社は「責任ある調達」を掲げ、単に海外から安く安定的に購入するだけではなく、森林認証材パルプの比率を高めようとする動きを強めている。国産材や間伐材にシフトしようとする動きも出ている。ただ、各社の取り組みが進んできたため、業種内で比較した場合、森林認証材パルプというだけでは新しさは感じられなくなってきたというのが最近の状況である。

(2)中越パルプ工業株式会社の事例
 中越パルプ工業は、富山県高岡市に本社を持つ中堅製紙会社である。古紙の調達割合が比較的小さい(チップ:古紙=7:1)同社[2]では、新素材として非木材原料のパルプ化に注力しており、特に竹材の有効活用を進めている。竹を使った紙「竹紙」は、経営計画のなかでは「生産品種の構造転換」という戦略のなかに位置づけられているが、竹を使用する契機は、竹林の多い鹿児島県薩摩川内市に工場を有していることにある。タケノコ農家において、タケノコ育成の生産性を上げるために間伐された竹を活用できれば、地域貢献にもなるという効果も期待された。竹は生長が早いものの、空洞であることから、木材よりも加工の効率が悪いという難点があるが、タケノコ農家やチップ工場の協力を得ながら竹の集荷体制を築いていったという。その結果、2009年には国産竹100%の紙の製造販売を開始。竹100%の紙を大規模に生産・販売している製紙会社はほかには見当たらないなか、「竹紙」は2013年に「第3回 生物多様性日本アワード 優秀賞」や「第15回 グリーン購入大賞 優秀賞」を受賞するに至った。同社の生産活動において、非木材チップは木材チップの100分の1にも満たないが[3]、原材料を見直し、かつ地域を支援する「竹紙」に対する外部からの評価の高さや注目から、その何倍以上ものポジティブなインパクトを同社に与えていると想像できる。
また、里山保全活動にも取り組む同社では、「里山物語」という印刷用紙のブランドを有している。これは、紙としては国産間伐材を活用しているものの一般の紙と変わらないが、販売手法に特徴を持っている。それは、紙の代金の一部を里山保全・再生活動団体への寄付に回しているところだ。寄付のついた商品というだけでは驚かれない昨今であるが、差別化の難しい印刷用紙という製品においては、その名前で売ろうとする動き自体が珍しいと言える。この商品も、「顧客ニーズ、製品、市場」を見直した例であり、現時点ではこれだけで同社の売上・利益を大きく伸ばすというレベルには至っていないと想像されるものの、独自の環境配慮型製品として販売価格の維持等に一定の力を発揮しているものと考えられる。
 製紙業界は、2008年に古紙偽装が明らかになり、「共有価値」とはほど遠い業界体質をあらわにしたことが記憶に残るが、新たな動きも出始めていることに注目したい。

[1] 日本製紙連合会資料に基づく。
[2][3]中越パルプ工業株式会社「CSRレポート2013」

*この原稿は2014年1月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。

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