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アジア・マンスリー 2013年9月号

【トピックス】
ミャンマー開発で強まるアジア地域連携

2013年09月02日 熊谷章太郎


ミャンマーの経済開発により、今後メコン地域の国際分業が進むとともに、メコン地域と南アジア、中東、アフリカなどの西側諸国との貿易環境が大きく改善する可能性がある。

■変わるアジアビジネス環境
2010年後半以降、ミャンマーでは、様々な政治・経済改革が進展しており、アジア新興国を取り巻くビジネス環境は大きく変わり始めている。各国が主導する形で、ベンガル湾沿いやタイ国境近辺に工業団地やSEZ(Special Economic Zone)などを整備する計画が打ち出されている。以下では、今後の経済開発を見る上で重要となる地域を整理するとともに、開発がミャンマーや周辺国に与える影響を展望する。

まず、重要地域として、ティラワSEZが大きな注目を集めている。同地域は商業首都ヤンゴン近郊に位置しており、日本政府が開発に関与している。2,400haの開発計画があり、2015年に第1フェーズ部分(400ha)で企業の入居・操業が開始される予定となっている。

ティラワとともに注目されているのが、ダウェイSEZである。同地域はヤンゴンの東南部約600キロ、バンコクの西350キロに位置し、ティラワ地域の10倍規模と、他の地域と比べても巨大なSEZが計画されている。南部経済回廊のベンガル湾への窓口となる同地域の開発は、メコン地域内の国際分業やメコン地域と西側諸国の物流に大きな影響を及ぼすとみられている。

タイ近辺の開発地域としては、ダウェイのほかにも東西経済回廊沿いに位置するミャワディーや南北経済回廊沿いに位置するタチレクの開発も注目されている。

西部についても、中国向けガス輸出の開発が進められているチャオピューにおいてSEZを整備する計画が中国政府の主導により進められているほか、チャオピューの北西部に位置するシットウェでは、インド政府が主導する形で港湾やインド東北部へつながる交通輸送網の整備計画が進められている。

■他のASEAN諸国と同様の経済発展経路を辿る見込み
次に、ミャンマー経済に与える影響をみると、一連の開発は外資受入・工業化を通じた輸出主導型の経済発展を企図したものであるが、各種インフラ整備には一定の時間が必要であるため、生産・輸出活動の本格化は当面期待できない。むしろ、通信・金融・小売りなどのサービス業のビジネス環境は大きく改善しているため、短期的には第3次産業比率が第2次産業比率に先駆けて高まる可能性がある。しかしながら、中長期的には、他のASEAN諸国と同様、第1次産業から第2次産業への移行が進むとともに、輸出主導型で経済が発展するようになると見込まれる。

ただし、当面貿易赤字の拡大は避けられない。これは、生産・輸出活動が本格化する前段階に建設や生産設備設置に関わる資本財輸入が増加するとともに、これまで経済制裁や国内規制により禁止されていた商品の輸入が大幅に増加するからである。かつてベトナムでもドイモイ(刷新)政策により市場メカニズム・対外開放が図られた後や米国の経済制裁が解除された後に貿易赤字が拡大している。こうしたなか、対外ファイナンスを安定的に確保できるかが、大きな政策課題となるだろう。

■ダウェイの開発が進むかが焦点
最後に、経済開発が周辺国に与える影響をみると、開発地域により大きく異なるものの、ダウェイ地域の開発が最も大きな影響をもたらすと見込まれる。同地域の開発が進む場合、まず、タイを中心にメコン地域内での国際分業が加速すると見込まれる。タイでは、労働力不足と労働コストの上昇を背景に、労働集約的な生産工程を周辺国に移転する動きが強まっている。現在は、多くの労働力を抱え、相対的に産業集積が進んでいる南部経済回廊沿いにあるカンボジアへの関心が強まっているが、今後ダウェイの開発が進めば、ミャンマーはカンボジアと同様に重要な分業先となる可能性がある。

また、物流面でも大きなインパクトがある。現在マラッカ海峡を経由して行われているメコン地域(大半はタイ)と西側諸国の貿易がダウェイ港を経由する形になれば、物流コストが大きく低下する可能性がある。加えて、インドで生産拠点拡大の動きが加速するなか、今後インドを中心とした南アジア向けの資本財輸出が増加すれば、その優位性が一段と高まると期待される。

現在、日本政府は、ヤンゴン近郊のティラワ地域の開発に深く関与する一方、ダウェイの開発については協力の可能性を検討する段階にとどまっている。もっとも、同地域の開発によって大きな恩恵を受けるのは、上述の通りタイの一般機械・電気機械・輸送機械などであり、これらは日系企業が大きなプレゼンスを有する業種である。タイからティラワへの原材料調達・販売ルートの開拓といった観点からも、今後のダウェイ開発への関与をより積極的に検討する意義は大きいといえよう。
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