はじめに
本稿では、安倍内閣の掲げる「指導的地位に占める女性の割合増加」に向けて、非正規職員のうちパート職員を取り上げて、管理職への登用拡大を目指し、現状把握や企業・政策への期待を述べる。
1.なぜ「パートから管理職」が必要か
総務省「労働力調査」(2013年3月)によると、役員を除く雇用者(就業者のうち、自営業を除く者)5,142万人のうち、女性は44.6%を占める。これに対し、正規の職員・従業員3,255万人に対しては、女性の比率は31.2%に下がる。逆に、非正規の職員・従業員1,887万人に対しては、女性の比率は67.7%と上がる。特に、パートでは女性が88.7%と、突出して女性の比率が高い雇用形態となっている。
表 雇用形態別雇用者の男女比 [単位:万人]
(出所)総務省統計局「労働力調査」(2013年3月)より日本総合研究所が作成
女性管理職の増加を検討するにあたっては、女性雇用者の3分の1以上を占めるパート職員も潜在的候補群として捉えておくべきだろう。パート職員といっても、正規職員の補助業務や単純・定型業務をこなしているだけではない。なかには経営側の視点を持つという管理職に必要な素質を持った人材も少なからず存在する。だとすれば企業からみても有効活用しない手はない。
このように、「女性のパート職員が、管理職へ昇進する」という経路についても焦点をあてることに意義があると考える。
2.パート職員における管理職昇進の課題
厚生労働省「平成23年パートタイム労働者総合実態調査(個人調査)」(以下、「厚生労働省調査」という)によれば、現在の会社で役職についているかの有無別のパートの割合において、「役職についている」と回答した女性は4.2%である。4.2%の内訳は、所属グループのみの責任者等、比較的一般従業員に近い役職(売り場長、ライン長等)が3.3%と最も多く、次に、現場の責任者等中間レベルの役職が0.7%、所属組織の責任者等のハイレベルの役職(店長、工場長等)が0.1%となっている。女性のパート職員においても、役職者がいる状況がうかがえる。
しかし、パート職員で管理職にある女性の存在は、女性管理職の数としての底上げ効果はあるものの、課題もある。その代表は、賃金格差である。一般にパート職員の方が正規職員よりも賃金が低い。女性管理職数の増加という名のもとで、企業が正規職員管理職の代替としてのパート職員の管理職を推進した場合、パート職員のモチベーション向上というよりも人件費削減目的と受け止められる可能性も否めない。この他、例えば職場の安全衛生等に関する細かな処遇のなかでの格差も存在するなかで、パート職員のままで管理職に昇進する経路については「指導的地位にある女性を増やす」ための手段として積極的に推進すべきではない。
2.パート職員から管理職への道筋
「女性のパート職員が、管理職へ昇進する」という経路においては、やはり、「正規職員化」のステップを踏むことが望ましい。厚生労働省調査における、パート職員の今後の働き方の希望と年齢別の割合としては、正規職員を希望する女性は、30~34歳で42.7%と最も高く、25~29歳で41.8%、35~39歳で34.7%に上っている。
その方法として、1つ目には、パート職員からフルタイムの正規職員に転換のうえ、管理職になるというルートの強化が挙げられる。ここでは、管理職に昇進する時点では正規職員という土俵に乗っているため、パート職員が管理職になることに比べれば、処遇上の差は解消されているはずである。非正規雇用から正規雇用への転換は、男女の区別なく労働政策上の重要課題である。道のりとしては長いかもしれないが、パート職員から正規職員への転換施策を推進していくこと(転換ルールの明確化、転換につながる能力開発支援、それらの継続的な取組み、転換後の昇進・昇格における平等な処遇・風土など)が、企業にとっても、より有能な管理職を登用するための種まきとして、女性管理職を増やすことにもつながることになる。女性やパート職員の割合が比較的多い小売や金融をはじめとして、製造業を含め豊富に事例は存在する。
2つ目には、パート職員から短時間正職員に転換のうえ、管理職になるというルートが挙げられる。パート職員から正規職員への転換が、女性管理職を増やすための最初の重要なステップだとしても、みながみな、フルタイム正規職員になることを望んでいるわけではないからである。パート職員には正規職員と比較した「勤務時間の短さ」「柔軟性」を重視してその働き方を選んだという人が少なからず存在する。例えば労働政策研究・研修機構の実施した「短時間労働者の多様な実態に関する調査」(2012年)では3割が「勤務時間や日数が短いから」を選んでいる。
そこで、注目すべきなのが「短時間正社員」というわけである。厚生労働省調査では、平成19年のパートタイム労働法改正後の事業所における、パートタイム労働者をめぐる雇用管理等の実態を明らかにするため、5人以上の常用労働者を雇用する民営事業所のうちから、無作為に抽出した事業所で就業しているパートタイム労働者を対象に調査を実施している。この調査では、今後の働き方の希望として、調査に回答をした女性パート職員のうちの18.0%が正社員になりたいと回答をし、さらに、正社員になりたいと回答した女性パート社員に対して、正社員になった場合に選びたいと思う制度を調査したところ、37.2%の女性が短時間正社員を選びたいと回答している。短時間正社員とは、従来からのフルタイム正規型と比べ、所定労働時間が短い正規型の労働者を指し、無期の労働契約を締結していること、時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法が、同じ事務所に雇用される同種のフルタイム正規型労働者と同等であること、が条件とされている(※1)。具体的には、(1)正規職員から一時的に移行、(2)正規職員から恒常的に移行、(3)パート職員から移行、(4)はじめから短時間正職員として採用 といったパターンが考えられる。
短時間正職員制度の導入企業例をみると、育児や介護支援をきっかけに(1)を採用している企業が多く、調査対象の20%弱である。本稿が注目する(3)「パート職員から短時間正職員に移行」する制度をもつ企業は2%に過ぎない。これを、「パート職員からフルタイム正職員に移行」する施策だけではなく、「パート職員から短時間正社員」というルートについても、潜在的管理職候補者を増やしやすくする制度として、導入を進めるべきである。811万人のパート職員から管理職を探す受け皿として、推奨したい。
なお、短時間正職員でも昇進・昇格できるのかという点については、厚生労働省「短時間正社員導入ナビ」サイト(※1)では、高島屋などでフルタイム正職員と同様の扱いであることが事例として示されている。短時間正職員のまま上級管理職まで昇進できるかどうかは、先行導入企業の例でも「短時間正職員で管理職」は比較的若い管理職が多く、今後の検討課題であろう。短時間勤務を数年以上にわたって行った場合と、フルタイムとを比較すれば、昇進に差が出るのは致し方ないことだろう。そこは無理をせず、上級管理職への昇進を希望する人はフルタイムに切り替えればよいわけでもある。
3.政策への期待
以上、パート職員から管理職へのパスに注目して検討を行い、「短時間正社員に転換、管理職に昇進」ルートをも、特に初級管理職の数を増やす手法として注目した。これらの取り組みを推進するために、まず政策に期待したいのは、統計の整備である。「指導的地位に占める女性の割合を増やす」という目標に向けては、例えばOECD平均並みに女性管理職を増やすとすれば、現状の約3倍が必要となる。こうした数値イメージやその内訳を想定しておかないと、取るべき施策の優先順位も変わってくるはずだ。働き方の多様化に追い付けるような統計・データを整備し、それに基づいて、具体的な打ち手を議論すべきだろう。
ところが現在のところ、パート職員または短時間労働者(短時間正社員を含む)の管理職数は、「賃金構造基本統計調査」のほか、「機会均等基本調査」でも把握することができない。
フルタイム正規職員の女性管理職は36万人(※2)だが、厚生労働省調査や「国勢調査」(2010年)等をもとに類推・試算すると、上述した「パート職員で管理職」は、0.8~5.6万人ほど存在する可能性がある。彼女たちが正規職員に転換すれば決して小さくないインパクトがある。また、短時間正社員については、「もともとフルタイム正職員だった女性社員がフルタイムの間に初級管理職に昇進した後に出産、育児休業からの復職後、職位は変わらずに短時間正社員制度を選択」というケースは、現在は短時間正社員であるため、フルタイム正規職員を対象とする「賃金構造基本統計調査」のから抜けてしまい、管理職が1人減った見え方になってしまう。この辺から、データ整備に着手すべきだろう。
次に、企業単位では、パート職員から正規職員への移行数など、積極的に取り組んだCSRや人材戦略の成果は開示していても、時系列の変化や定着の状況、単純な人件費削減施策ではないことまではなかなか外部から分かりにくい。前稿でも述べたように、例えば雇用機会均等法に基づく報告制度等を新設し、一定規模以上の企業には正規・非正規を問わず管理職に関する男女別の情報(年齢別、職種別、職位別の人数や、賃金等の処遇)を報告させてはどうだろうか。
最後に、本シリーズでは、管理職という、企業の経営側の視点を持つ女性の数がボトムから増えることが、最終的には女性役員の増加にもつながると考え、短期的に「女性役員」の増加させることに絞った施策については触れてこなかった。役員については、企業内部で管理職を増やすのとは別の視点や施策が考えられるため、別途検討することとしたい。
以上
※1厚生労働省「短時間正社員導入ナビ」サイトを参照。本節での事例・数値は同サイトの情報に基づく。
※2厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(平成24年)の一般労働者(短時間ではない正規職員を指す)。