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アジア・マンスリー 2013年6月号

【トピックス】
中長期的な拡大が期待される南アジアの域内貿易

2013年06月05日 熊谷章太郎


南アジアの域内貿易はこれまで小規模にとどまっていたが、今後、インドの周辺国向け輸出を中心に大きく拡大すると見込まれる。

■南アジアにおける多国籍企業の事業展開
わが国にとってアジアビジネスの重要な拠点である中国やタイは、急速な高齢化や賃金上昇に直面している。このため、生産拠点及び消費市場として有望な新たなアジア新興国を模索する動きが強まっている。南アジアについてみると、関心は域内随一の経済規模を持つインドに集中している。もっとも、豊富な人口を抱えるバングラデシュやパキスタン、人口規模は小さいものの一人当たりGDPが耐久財消費の普及し始める目安とされる2,000ドルを超え、かつ内戦終結を受けて政治的な安定を取り戻したスリランカなどにも潜在的な成長期待がある。そのため、インドに進出した企業や現地地場企業を中心に、インド周辺国への事業展開に対する関心も高まってくると見込まれる。インドから周辺国への事業展開としては、大きく分けて、①周辺国にも生産・販売拠点を設置する、②インドからの輸出を軸に事業を展開する、の2つが考えられる。両者にはそれぞれメリット・デメリットがあるものの、各国への工場・生産設備の投資費用などを踏まえると、当面はインドからの輸出が軸になる可能性が高い。

■インドの周辺国向け輸出と南アジアの貿易構造
そこで、近年のインドから周辺国(バングラデシュ・パキスタン・スリランカ)への輸出動向を見てみると、金額では2000年から増加傾向が続いている。しかし、貿易全体に対する比率は、インドにとっても周辺国にとっても低く、EUやASEANとは対照的な姿になっている。南アジア各国の域内貿易依存度が低い要因としては、①歴史的・政治的な対立関係に起因する関税・非関税障壁があること、②欧米などの主要輸出先と比べて経済規模が小さく、南アジア各国で財の輸出入構造に一定の類似性がみられること、③域内の道路、鉄道、港湾、空港などの物流インフラが整備されていないこと、などが挙げられる。
もっとも、南アジア域内貿易を取り巻く環境は近年大きく変わり始めている。すなわち、①2006年のSAFTA(South Asia Free Trade Area)の発足、SAFTAに先駆けたインド・スリランカFTA、インド・パキスタン間の貿易制度のポジティブ・リストからネガティブ・リストへの変更など、貿易促進に向けた取り組みが進展していること、②リーマン・ショック以降、主要輸出先である欧米の景気低迷が長期化する一方、南アジアは高い成長率が続いており、今後も中長期的な高成長が続くと見込まれること、③域内物流の軸となるインド国内において、ムンバイ・チェンナイ・コルカタ・デリーを結ぶ幹線道路やインド・パキスタン・バングラデシュを横断する道路の整備が進められており、中長期的な物流インフラの改善が期待されること、など、域内貿易環境が大きく改善している。これらを受けて、今後、域内貿易が大きく拡大すると見込まれる。とりわけ、対内直接投資が大幅に増加し、産業レベルの高度化が著しいインドから、周辺国向けの輸出が輸送機械・電気機械を中心に増加すると見込まれる。実際、インドでは、2000年以降、繊維関連製品の輸出シェアが低下する一方、輸送機械・電気機械の輸出シェアの上昇傾向が続いている。

■域内貿易拡大の影響
域内貿易の拡大は、インドにとって、自国と同様、中長期的な人口増加、都市化の進展、耐久消費財の普及率の上昇が期待される周辺国需要の取り込みを通じて成長をより盤石にすると見込まれる。同時に産業構造の高度化を一段と推し進める起爆剤となるだろう。
一方、周辺国にとっては、輸入の相手先が地理的に近いインドにシフトしていくことで、調達コストの低下を通じたインフレ抑制や実質消費・投資の増加につながると見込まれる。また、インドからの資本集約的な商品の輸入増加により、対印貿易赤字は拡大すると見込まれるものの、各国通貨のインド・ルピーに対する減価は、将来的には事業コストの低下を通じてインドや先進国からの投資を招来する可能性がある。
わが国にとっては、インドを輸出拠点とした周辺国への事業展開は、①周辺国に新たに生産設備を設置するのと比べてコストを抑制できる、②事業不採算時の撤退が容易である、③欧米、ASEANからの事業展開と比べて輸送距離が短い、などのメリットがある。したがって、中長期的にはインドの国内需要だけでなく、周辺国需要も睨んだインド向け対外直接投資が増加すると見込まれよう。
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