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聞く力を、取り戻そう。

2013年05月28日 井上岳一


日本の社会に今一番欠けているものがあるとすれば、それは話し合うことだと思う。では、話し合いの欠如は、どんな問題をもたらすのだろうか。

例えば、グローバル化やシステム化への対応である。異質な文化や異質な価値観の人々と仕事できなければ企業のグローバル化はあり得ないし、異質な技能や専門分野の人と力を合わせなければシステム化は成功しない。何をおいても話し合うことが、まずは求められる。

あるいは、地域社会の問題である。人口減少と高齢化は地域社会の存続を揺るがしている。もはや行政にも企業に頼れない中で、教育、福祉、保健、介護、防災などのニーズを、住民達自身の手で満たす算段を考えていかない限り、地域で満足な生活を維持することが難しくなっていく。結局、一人ひとりが持てる時間と能力を出し合い、持ちつ持たれつでやっていくことが、地域社会存続の条件となるはずだ。その前提になるのが住民同士の話し合いである。

話し合わなければ何も始まらないのだ。だが、今の日本人の多くは、うまく話し合うことができない。そもそも話し合いの場を持つことすら難しいし、仮に持てたとしても、人の話を聞けない人、自分の主張ばかりを押し付ける人がせっかくの場をぶちこわしにしてしまう。

結局、相手の話を聞くことができない人があまりにも多いことが問題なのだ。では、どうすれば人は人の話を聞けるようになるのだろうか。

聞くために何よりも大切なのは、「無知の姿勢」である。それは、相手の世界を知ろうと純粋な好奇心をもって相手の話を聞くことである。だが、年をとり、経験を積み、専門知識が増えるほどに、そういう聞き方ができなくなっていく。

日本がここまで発展できたのも、実は、この無知の姿勢があったからだと思う。近代化以前は中国や朝鮮、近代化においては欧州、そして、戦後は米国と、常に日本は、当時の最先端の国々のことを虚心に学び、貪欲に吸収してきた。それらを独自に融合・発酵させてきたからこそ、世界からも特異視される独自の文化を持つことができたのである。言い換えれば、日本の文化を作ったのは、聞く力の凄さであったということになる。

その聞く力はどこにいってしまったのか? 今、日本人が取り戻すべきは、その聞く力であろう。

日本の技術を世界に広めたいなら、まずはその国の人々の語りに耳を傾けよう。地域での生活を守りたいなら、地域の人々の話に耳を傾けよう。誰にだって話したい物語はある。まずはその物語を面白がって虚心坦懐に聞こうではないか。そうやって初めてその相手と話し合うことが可能になるのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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