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「CSV」で企業を視る(7) バリューチェーンにおける共有価値創造―女性従業員と商品開発

2013年05月01日 小島明子


 本シリーズの第1回目では、ポーターの「『共有価値』の創造:Creating Shared Value(CSV)」(※1)の現状と企業価値への関連の可能性について解説をし、その後、5回にわたり具体的な企業の事例を交えて解説している。第5回目では、共有価値創造の手法の1つである、バリューチェーンにおける共有価値創造の事例として、ユニ・チャームが行っているサウジアラビアでの女性の社会進出支援の取組みを紹介した。第7回目では、バリューチェーンにおける共有価値創造の事例のなかでも、国内において、女性従業員のみで設置されたプロジェクトチームが、実際に新しい商品開発に成功している事例を取り上げる。

1.女性の視点を取り入れた住環境の提案
 エス・バイ・エルは、2011年に創業60周年を迎えた最も歴史の長い住宅メーカーである。エス・バイ・エルグループ全体では、全従業員の11.9%(2012年2月末)を女性が占めている。2007年からは「女性活躍推進チーム」を発足し、女性ならではのきめ細かい視点で収納方法を吟味し、具体的に提案する商品開発活動を行っている。第1弾「キッチン収納」(2007年9月)や第2弾「リビング収納」(2008年8月)、更に、第3弾(2011年8月)は、玄関スペースの収納として「おでかけクローゼット」を提案。第4弾となる「美楽洗面収納」は、子育てや仕事で忙しい女性に向けて、家事を楽にし、モチベーションが上がる理想の洗面空間をコンセプトに開発が行われ、2012年12月に販売が開始された。女性従業員の力を通じて、新しい住環境の提案を継続している事例だと考えられる。

2.女性向けに提案された新たな金融商品
 大垣共立銀行は、早くから独自のサービスを打ち出している銀行の1つである。個人顧客の人数と残高は年々増加しており、1998年では個人の顧客数138万人、預金残高17,731億円が、2010年には171万人、26,567億円まで増えている。
 大垣共立銀行では、2007年に、女性を取り巻く社会環境に配慮し、離婚関連専用ローンの“女性版”である「ライフプランRef」や、シングルマザーを応援するためのローン「Tetote」を、全国の銀行で初の商品を発売するなど、女性の自立を応援・サポートするための取り組みを早くから行ってきた。2008年3月3日(ひな祭り)には、女性向け商品の企画・開発をさらに進めることを目的とし、女性による女性のためのプロジェクトチーム「女性応援プロジェクト(愛称:エルズプロジェクト)」を設置。2009年には、「女性応援プロジェクト」で開発された不妊治療関連ローン「ライフプラン『Futari-de』」が、全国の金融機関で初めて提供される。このローンは、不妊治療にかかる費用に利用できるローンで、現在は健康保険の適用外である体外受精や顕微授精等の生殖補助医療にも利用ができるようになっていることが特徴である。2011年には、女性のための会員制サービス「L’Sクラブ」という1つの会員組織まで作り上げ、女性従業員の力を通じて、女性向けの新しい金融商品の開発に加え、女性顧客を囲い込むためのブランド構築に成功した事例だと考えられる。

 少子高齢化が進む日本では、将来の働き手の確保に向けて、女性の活躍を支援していくことが日本の社会的課題の1つでもある。女性従業員が活躍できる機会を企業が提供していくことは、日本の社会的課題の解決への貢献ともいえる。さらに、企業にとっても、女性従業員の力を活かすことが、新しい顧客の開拓や新しい製品・サービスの創出の機会にもなり、競争力向上につながっていくと考えられる。

※1 Michael E. Porter, Mark R. Kramer, “Creating Shared Value:経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の戦略,” DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー, June 2011.
参考資料
各社のホームページ、CSRレポート

*この原稿は2013年4月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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