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【環境・社会視点のリスク情報】(8) 金融業 高齢者への金融商品販売リスク、訴訟も

2012年09月01日 ESGリサーチセンター、小島明子


 金融業は、製造業と異なり、温室効果ガスの主要な排出者とはならないし、そのサプライチェーン上に児童労働が存在するという状況も想像できない。しかし、そのビジネスが環境や社会の変化から影響を免れるということは決してない。以下では、高齢化、経済格差、気候変動という三点から金融業の環境・社会のリスクを考えてみたい。

●高齢者に対する金融商品販売リスク
 認知症の高齢者に投資信託などを販売して損害を与えたとして、顧客側が大手証券会社、大手信託銀行に対して、損害訴訟を求めていた訴訟のうち、大手証券会社との和解が2012年3月に成立した。金融機関は、今後ますます、リスクの高い金融商品を高齢者に販売する場合、説明が不十分だったとする訴訟に直面することになろう。
 規制緩和の一貫として、銀行の窓口でも投資信託を販売できるようになったのは1998年12月であった。高齢者に対しても、投資信託のようなリスクの高い金融商品が身近なものとなった。その後、毎月分配金が受け取れる分配型投資信託が、高齢者にとっては人気の高い金融商品の1つとなった。ただ、分配型投資信託は、運用成績が芳しくないにも関わらず、元本を取り崩して収益分配金を支払い続けている例が少なくない。高齢者である顧客が事前に商品の特性を理解して購入をしているのか、現在の運用成績を正確に理解しているかといった点が、懸念材料として残る。
 金融庁は、2012年2月15日に「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の改正を行った。元本の安全性を重視している顧客に対して、通貨選択型ファンドなどのリスクの高い商品を販売する場合には、管理職による承認制とするなどの慎重な販売管理を行うことが求められるようになった。しかし、分配型投資信託のような金融商品を既に多く販売してきた金融機関にとっては、高齢者である顧客に対して、適切な説明責任を果たしてきたのかという批判が顕在化するリスクは決して無視できない。

●個人向けカードローン事業、求められる責任
 2010年に貸金業法が改正され、融資上限金利が引き下げられると同時に、年収に応じた総量規制が導入された。個人の借り入れ金額がトータルで、原則年収の3分の1に制限されることになったのである。カードローンによる借り入れも総量規制の対象だが、ただ唯一、銀行カードローンだけは対象外となっている。
 銀行のカードローンでは、利用者及び同居配偶者の安定した収入要件等一定の審査要件をもとに利率と借り入れ金額が提示される。その審査基準は厳しく、安易に貸出が行われているわけでは決してない。
 それでも、日本経済の先行き不透明感、雇用環境の悪化を鑑みると、借り入れ後の利用者の生活環境や資産計画が急変する可能性も決してゼロではない。
 現在、多重債務者の救済を目的に、一時的な債務整理費用や債務整理後の生活費用を賄うためのローンなどを、NPOや一部の生活協同組合が提供している。それ自体が、収益性のあるものとはいえないが、銀行のカードローン事業推進にあたっても、多重債務者の問題を発生させない、もしくは、多重債務者を救済する取組みが、自社のレピュテーションを維持し、事業を安定的に継続実施するための条件となる時代が近々訪れるだろう。

●保険商品における気候変動リスク
 2012年2月、タイの洪水被害で、国内の損害保険会社が日系企業に支払う保険金額は、9千億円に上る見通しになることが報道され、実際の決算でも、各社の業績悪化が明らかになった。今回の支払額が再保険分を含め、東日本大震災の企業向け地震保険金の支払額を超え、自然災害による支払額では過去最大級となった損保会社も出現した。
 今後、世界的に、様々な気候変動の影響が、これまで以上に発生することが予想される。気温の上昇、洪水や干ばつの発生、自然災害の増加、海面水位の上昇などの物理的なリスク、それらの要因がさらには、企業活動や人間の生活にも悪影響をもたらすと考えられる。
 損害保険というビジネスモデル自体が破綻するという見方は、過激に過ぎるが、保険料の高騰は売上拡大への脅威となる。保険に留まらず、従来の金融業では、需要に対して金融商品を開発して、問題点があれば当局が適切な規制を講じるという枠組みが機能してきた。金融機関にとっては、当局のルールに従っていれば問題はないと判断し、逆に一社だけがルール以上の対応を行うということを憚る傾向が強かった。
 ただし、今後は徐々に、環境・社会問題から生じるリスクに、自社はどう社会的責任を果たすのかという個別の見識や判断が、競争力の鍵になることが予想される。


*この原稿は2012年8月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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