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アジア・マンスリー 2012年6月号

【トピックス】
グローバル化がつくる日韓の新しい経済関係

2012年06月08日 向山英彦


最近、製造業分野を中心に日本の対韓国直接投資が増加している。この背景には、日本企業にとって納入先としての韓国企業のプレゼンス拡大と韓国政府による積極的なFTA締結がある。

■生産拠点の魅力が増す韓国
グローバル化が進むなかで、日本企業の投資先として韓国の存在感が高まっている。財務省の統計(国際収支ベース、ネット)によれば、2011年の日本の対韓直接投資額が前年比124.9%増となった。韓国知識経済部の統計(申告ベース)では、2011年は前年比9.5%増にとどまったが、2012年1~3月期は前年同期比150.3%増となった。とりわけ著しく増加したのは製造業である。
日本企業が韓国を生産拠点にするというのは、少し前であれば想像しにくかったのではないだろうか。実際、日本の対韓直接投資はプラザ合意(85年9月)後の急激な円高を背景に急増したが、その後に生じた大幅な賃金上昇やウォンの切り上げ、労使関係の不安定化などの影響により急減した。韓国は生産拠点としての魅力を失い、その場をASEAN諸国や中国に譲ったのである。ではなぜ今韓国なのであろうか。
理由の第1は、日本企業の納入先として韓国企業の存在が大きくなったことである。韓国企業は2000年代に入って以降、輸出や現地生産などを通じてグローバルな事業展開を加速させた。日本企業はサプライヤーとして、その生産に欠かせない基幹部品や高機能素材、製造装置を供給してきた。とくに生産が拡大したのは電子部品や情報機器関連である。供給の拡大に伴い現地生産しても採算がとれるようになったほか、現地生産により、①納入先からの情報入手および納入先とのコミュニケーションが容易になる、②共同開発を進めやすくなる、③円高によるコスト上昇を回避できるなどの効果が得られる。
第2は、韓国政府がFTA(自由貿易協定)の締結を積極的に進めてきたことである。EU(欧州連合)とのFTA (2011年7月1日暫定発効)に続き、米国とのFTAが今年3月15日に発効した(次頁表)。これにより、韓国で生産し「韓国製」として輸出した方が、EUや米国市場へのアクセス面で有利となる。つまり、韓国がFTAのハブとなることにより、日本企業にとって韓国が輸出生産拠点としての魅力をもつようになったのである。
第3は、韓国政府(地方自治体を含む)が部品・素材産業を中心に日本企業の誘致を積極化してきたことである。最近では、「部品・素材専用工業団地」を亀尾(慶尚北道)、浦項(慶尚北道)、益山(全羅北道)、釜山・鎮海経済自由区域などに相次いで設置してきた。これらの地域には、韓国を代表する大企業の工場が集積している。


■日韓の生産分業ネットワーク緊密化の可能性
最近の日本企業による韓国投資において注目されるのは、韓国政府が望む部品・素材分野あるいは研究開発分野での投資がみられることである。
最近話題になったのが、東レによる炭素繊維工場の設立(2013年稼動予定)である。炭素繊維に関しては、日本企業が世界シェアの約7割を占める。これまで日本で生産してきたが、韓国に工場を設立するのは、生産コストの低さに加えて、韓国に炭素繊維を使用する自動車や造船産業が発展していることによる。
また、液晶パネルにつぐ表示装置として成長が期待される有機ELパネル関連での投資計画が相次いでいる。電子機器の表示部品が液晶パネルから有機ELへ移行していくと予想されるなかで、韓国企業が日本企業よりも先行して量産化に乗り出しているからである。出光興産は2011年10月27日、韓国で有機EL材料の製造会社を設立したと発表した。さらに製造装置メーカーのアルバックが研究開発拠点を設置するほか、宇部興産は樹脂材料の生産を計画している。
部品・素材企業の韓国投資は韓国の産業高度化に寄与するだけではなく、日本と韓国との間における生産分業ネットワークの緊密化を促す可能性がある。自動車産業を例にとると、まず、韓国企業に韓国国内の生産能力を増強する動きがみられる。グローバルな視点から調達先を選んでいるため、取引実績のない日本企業にも参入の機会が生まれる。つぎに、日本企業の間で、コストパフォーマンスに優れた韓国製部品や鋼板を調達する動きが広がっている。さらに、①複数の日本企業が生産コストの低い九州における生産能力を増強していること、②国内の高い流通コストを考えれば、韓国から輸入した方が安くなること、③日韓双方の企業に供給する目的で、韓国や九州に進出する部品企業が現れる可能性があることなど、九州を中心に日韓の生産分業ネットワークが緊密化する素地がかなり整ってきたといえよう。
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