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信頼されるということ

2012年04月24日 三木優


大飯原子力発電所3・4号機の再稼働について、原子力発電所に関する四大臣会合にて安全が確認されたとの結論が下され、いよいよ残りのプロセスは地元の同意のみとなった。四大臣会合(第6回)の資料を見ると福島第一原子力発電所事故後に講じられたさまざまな対策により、仮に東日本大震災クラスの地震と津波が来たとしても炉心損傷・水素爆発に至るような事態にならないように感じる。おそらく、原子力発電所の再稼働に絶対反対と思っている方以外は、この資料を見てなんとなく大丈夫そうだと感じられたと思う。

しかし、この資料を私たちは素直に信じることができない。新聞社が行ったアンケートでは、四大臣会合の再稼働判断には半数が反対し、政府が策定した暫定的な安全基準および電力の需給見通しについては7割前後が信用しないとしている。政治家を含め、多くの人々は原子力について詳しくはないし、深く学ぶ機会もない。そのため、政府や電力会社、原子力の専門家の言葉が信じられるかが、判断基準になっている。

私たちは福島第一原子力発電所事故の前には、政府や電力会社から「日本ではチェルノブイリ原子力発電所と同じ事故は起きない」「原子力発電所は何重にも防護機能が備わっており、苛烈事故は起きない」と説明されてきた。実際には政府・電力会社が想定していたよりも大きな地震・津波により炉心損傷・水素爆発が生じ、日本でも原子力事故が起きることとなった。そして今、再び政府や電力会社は「安全性は確保された」「福島第一と同じような事故は起きない」と言い、原子力の専門家もそれを追認している。

このような状況で政府や電力会社、原子力の専門家の言葉が再び信頼を取り戻すには、どのようにすべきだろうか。私は原子力を推進する側が、原子力発電所は何があっても壊れない、炉心損傷・水素爆発が起きないと言う技術的な完璧性を否定するところから始めるべきと考える。その上で、想定される範囲では原子力発電所の安全性が保たれると見込まれるものの、万が一、炉心損傷・水素爆発が起きた場合には、どのようにして立地地域やその周辺地域の人々の生命・安全を守るかを明らかにし、政府や電力会社として責務を果たすことを約束することが必要ではないか。つまり、安全性の尺度を技術的な対応の強度から、ステークホルダーへの影響度に変え、苛烈事故が起きた場合でも速やかに対応できることが信頼を取り戻す一歩になる。

遠回りをするようだが「絶対安全」の4文字を捨てることが、信頼されるということにつながるのではないだろうか。


※メッセージは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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