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【環境・社会視点のリスク情報】(2)空運業 気候変動、感染症など収益圧迫要因に

2012年03月01日 ESGリサーチセンター、足達英一郎


経済のグローバル化の進展で、世界の航空旅客需要は、大きな伸びを遂げてきた。1990年から2009年までの20年間で年平均4.1%の伸びを実現。2010年~2029年までの20年間では、年平均5.0%の伸びとなって、2029年には現在の2.5倍の11兆7560億人・キロの規模に達するという。ローコスト・キャリアの参入も予想され、新興企業の台頭も予想される。ただ、「環境」「社会」の視点から見ると、気になる事業等のリスクも見えてくる。

●CO2規制によるコストの上乗せ
飛行機は、化石燃料を多量に消費する。このため空運業の業績は、石油価格に大きく左右される。燃油価格が1米ドル値上がりするたびに、航空業界は全体で16億米ドルのコスト増に直面するとも言われている。加えて、現実のものとなってきたのが、排出量取引によるコスト増だ。EUは、域内の空港を発着する全ての航空会社に炭素排出量取引制度に基づく支払いを課す措置を2012年1月1日から導入した。例えば、中国航空運輸協会の試算では、EU線を運航する中国の航空会社のコスト増は8億元(2012年)と見込まれ、路線拡大を織り込むと2020年には年間30億元のコスト増になるという。中国は、こうした影響に反発し、国内航空会社にこの規制を無視するよう通達を出したが、長期的に見れば、空運業がCO2排出源として規制の対象となる傾向は免れないだろう。

●気候変動による欠航などの影響
それでも気候変動は進行する。その結果として局地的集中豪雨が発生したり、大型台風やハリケーン、竜巻が猛威を振るう事態は避けられなくなるだろう。飛行機の離発着が強風に対して脆弱なことはよく知られている。このため、異常気象により空港が閉鎖されるといった状況の起こる可能性は、今後、徐々に高まっていくと考えられる。また、豪雪などの影響も見逃せない。昨年、今年と米国や欧州では、豪雪の影響で航空旅客に大きな影響が出る日が相次いでいる。このように、気候変動による欠航などの影響も、航空会社の利益を圧迫する要因となろう。

●観光地の衰退
また、気候変動の進行は、スキー場における積雪量の減少、珊瑚の白化現象の進行、観光資源としての自然現象等への影響といったかたちで、観光需要を減退させていく影響を与えることになると言われている。長期的にみると、生態系の変化による自然景観の毀損や希少な動植物種の生育環境への負荷も深刻となるだろう。例えば、オーストラリアでは、ロックアートの遺跡や希少な動植物が観光資源となっているが、山火事の頻発がそうした遺跡や生物の生息環境を脅かしている。航空旅客需要は、ビジネスと観光のふたつに支えられているが、後者については必ずしも長期的に需要の伸びを楽観視できるわけではない。

●感染症の深刻化
1997年からの高病原性鳥インフルエンザ、2002年のSARSについては、複数の国や地域にわたって多くの感染症患者が発生するパンデミックの懸念が高まった。この時期、アジアの航空会社各社が大きな需要減少の影響を被ったことは記憶に新しい。現在でも、東南アジア諸国で発生している高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1型によるトリインフルエンザによるパンデミックの懸念は払拭されていない。世界保健機関が警戒する感染症はこのほかに、コンゴ出血熱、デング熱、エボラ出血熱、ラッサ熱など19疾病に及ぶ。今後、数十年の間に、こうした感染症が世界的流行に発展する可能性は否定できず、そうなれば自由な人の往来は制限され、空運業にとっては致命的な打撃なるだろう。
国際航空運送協会(IATA)は昨年6月、2011年の航空業界全体の純利益について、見通しを前年比78%減の40億米ドルに下方修正した。2011年3月時点では86億米ドルを見込んでいたが、燃油価格の高騰、東日本大震災、中東・北アフリカでの政情不安などによる影響が修正材料となった。最後にあげられている地域紛争の頻発やテロの激化といった要因も、空運業にとっての大きな脅威となろう。空運業の成長機会は、環境・社会の健全性に大きく左右されるということに、改めて留意したい。

*この原稿は2012年2月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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