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【ESG投資の注目点】金融危機で失墜した社会的責任への評価

2012年01月01日 ESGリサーチセンター、岩崎薫里


本年9月にニューヨークの金融街で始まった抗議行動"Occupy Wall Street"(「ウォール街を占拠せよ」)は、一時は全米100の都市にまで拡大した。この活動は金融機関が社会的責任を果たしていないことへの糾弾と意義付けることができ、しかも広く国民の共感を得たことに注目したい。加えて特筆すべきは、糾弾されている金融機関が、いずれもCSRの「優等生」だったことである。

冬の到来に加えて多くの活動拠点が警察によって強制撤去されたこともあり、この活動は現在では下火となっている。一時的なものに終わるか、あるいは来年の大統領選挙を前に再び盛り上がり、1950~60年代の公民権運動や1960~70年代のベトナム反戦運動のように社会変革の一翼を担うに至るかは現時点では不透明だ。

しかし、いずれにせよアメリカを代表する大手金融機関は、返済が到底見込めないサブプライム層に住宅ローンを貸し込んだり、証券化の技法を駆使してリスクを見えづらくした商品を世界中に販売したりといったことで、「目先の利益のみを追求する無責任な経営に走った」と受け止められた。結果として金融危機とそれに続く不況が惹起され、多くの人が家や職を失う一方、金融機関の幹部は引き続き庶民感覚からかけ離れた高給を受け取っていることへのアメリカ国民のフラストレーションが活動に表れたといえる。

それまでに、こうした金融機関は各種慈善団体への寄付や低所得地域での職員のボランティア活動、環境問題への取り組みなどにおいて優れた実績を上げてきた。また、大規模な開発事業を行う際に環境や社会への影響評価を行うことを金融機関に求めた「赤道原則」に署名するなど、本業を通じてESG課題に積極的に取り組んできた。しかし、長年にわたるそうした活動への高い評価も、金融危機を契機に貼られた

「強欲で無責任」のレッテルを前に吹き飛んでしまった。つまり、日ごろどんなに熱心にCSR活動に取り組んでいても、ひとたび社会的責任に反する行動をとると、評価は容易に失墜してしまう。

折しもわが国では本年10月、「21世紀金融行動原則」(正式名は「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」)が採択された。これは、わが国金融界が持続可能な社会を構築するために定めた自主的な金融行動原則であり、これを契機に金融機関の間で社会的責任への取り組みの輪が広がることが期待されている。金融機関のあらゆる意思決定が社会的責任と整合性を持つことが重要である点は、アメリカの経験からも明らかである。ESG投資に当たっても、単に当該金融機関がこの原則を採択したという事実だけに注目するのではなく、実際の行動においても社会的責任を果たしているかどうかを入念にみていく必要があろう。

*この原稿は2011年12月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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