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【ESG投資の注目点】OECD多国籍企業ガイドライン、「人権」の追加が意味するもの

2011年07月01日 ESGリサーチセンター、足達英一郎


OECD多国籍企業ガイドラインが改訂され、5月25日に公表された。この国際行動規範は、1976年、多国籍企業の行動に関し、OECD加盟国政府が責任ある行動をとるよう勧告する指針として作成された。企業の社会的責任をめぐる議論の進化とともに、これまで4回(79年、84年、91年、2000年)の改訂が行われ、今回は5回目。10年ぶりの改訂となった。

ガイドラインには、「企業は、情報開示、会計及び監査に質の高い基準を適用すべきである」、「児童労働の実効的な廃止に貢献すべきである」、「当該企業に適した環境管理制度を設立し、維持すべきである」などの記述がならぶ。2000年版では、「情報開示」、「雇用・労使関係」、「環境」、「贈賄防止」、「消費者利益」、「科学・技術」、「競争」、「課税」が対象だったが、今回、「人権」が新たに加わったことが改訂の最大の特徴である。

「人権」の項目は、「企業は、他者の人権を侵害することを回避し、自らが係わる人権に関するマイナス影響に真正面から取組んでいくという意味で、人権を尊重すべきである」、「企業は、人権尊重を誓約する方針を作成すべきである」、「企業は、人権デューデリジェンスを実施すべきである」などの記述で構成されている。「人権デューデリジェンス」は新しいキーワードで、企業が自らの活動が人権に与える実際的あるいは潜在的な影響を定期的に評価し、その結果を事業活動に取り込めるよう内部統制システムを構築し、実行状況を追跡・報告して、改善措置に結びつけることだとされる。

「人権侵害」というと、日本企業では、たとえば従業員の出身などに起因して差別するといったことが連想されやすいが、多国籍企業には、紛争地域への事業活動の関与、保安要員(例えば途上国の工場における警備員)の行動、原材料を調達する鉱山における先住民配慮のあり方までが問われる。例えば、欧州の公的年金のなかには、中国トラックメーカーが国連のスーダンに対する武器禁輸決議に違反する行動をとったとして、そのトラックメーカーに出資する日本企業を投資対象から除外するケースも生まれている。

OECD多国籍企業ガイドライン自体には、なんら法的な拘束力はない。しかし、国際投資宣言という当該ガイドラインの前提となる宣言への参加国政府は、ガイドラインの普及、照会処理、問題解決支援のため、「各国連絡窓口」(NCP:National Contact Point)を置くことになっている。第三者(NGO、労働組合等)が企業行動について問題提起をすることも可能なのである。各国連絡窓口は必要に応じ、企業への勧告を行う仕組みである。

OECD多国籍企業ガイドラインで「人権」の項目が強化された結果、こうした「各国連絡窓口」に対して問題提起される企業の行動事例は増加するであろう。日本政府は、問題提起を受理した事実の公表に消極的であるが、海外では積極的な情報開示か潮流となっているし、欧州では「連絡窓口」の構成主体にNGOが参加するケースも見られる。日本企業にとっては、グローバル・サプライチェーンにおける人権配慮が死角にならないよう、視野を広げる必要がある。問題提起されるような企業行動が、公知となれば企業のレピュテーションが大いに毀損するという意味で、「人権」はESG投資の新たな注目点である。

*この原稿は2011年6月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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