コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

CSR室の役割を見直せ

2011年11月22日 八幡晃久


2003年はCSR元年と言われている。CSRへの取り組みが本格化し、CSR担当組織(以後、“CSR室”と称す)の設置が相次いだのがこの年だ。以降、CSRの概念や企業の捉え方は大きく変化した。

まずCSRの取り扱う課題はずいぶんと広がった。当初は、温暖化を中心とした環境問題とコンプライアンスがメインであった。その後、ワークライフバランスを含む労働慣行、差別や社会的弱者を含む人権などに広がり、環境問題においても生物多様性がクローズアップされるようになった。ISO26000の発行は、より難解で広範な課題にどう対応するかという問題を企業に突きつけているといえる。

また、CSRと事業活動を融合する動きも進んだ。これは温暖化対応において顕著に見られる。自社の温室効果ガス排出量の削減、温暖化に配慮した製品開発に多くの企業が取り組んだ。さらには、社会的課題の解決をイノベーションや成長の機会として捉えるという考え方がポーターにより紹介され、広く知られるようになった。もはやCSRを事業活動と切り離した問題として捉えている企業は稀であろう。

このような変化に伴い、CSR室に求められる役割も変わりつつあると考えている。ひとつは、社会との窓口としての役割である。従来、コンプライアンスに関する規制や政府の温室効果ガス削減目標など、事業活動とは対立しがちな「外部の論理」を社内に導入することがCSR室の主な役割であり、政府や同業他社など、特定のステークホルダーの動向こそが重要であった。しかし、CSRの諸課題は難解であり、もはや答えは存在しない。特定のステークホルダーの論理を求めるのではなく、多様な社会の声を聞くことが求められる。

もうひとつは、社会と事業をつなぐ役割である。CSRと事業の融合には、CSRの諸課題を「制約」ではなく「イノベーションの機会」と捉えることが有効である。CSR室はイノベーションの可能性を見極めつつ、社会と事業部門との出会いを仲介する「透明な媒体」のような存在となるべきだと考える。これは、諸課題への対応を決定し事業部門に要請するという従来の振る舞いとは大きく異なる。

社会との窓口として社会の声を事業部門に届け、共に解決策を考える。CSR室に求められる役割はこのように表現できると考えているが、未だに従来の役割から脱しきれていない企業が多いと感じている。CSR元年から約10年。改めてCSR室の役割を見直すタイミングがきているのではないだろうか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ