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Business & Economic Review 2011年4月号

【特集 成長するアジアと金融】
第2ステージに突入した中国の消費者信用市場

2011年03月25日 岩崎薫里


要約

  1. 政府主導のもとで中国の消費者信用市場が本格的に幕開けしたのは1998年である。政府は住宅ローンや自動車ローンの法的枠組みを整える一方、銀行に対して消費者信用業務を積極的に手がけるよう要請し、さらに、個人信用情報の整備を段階的に進めた。こうした一連の消費者信用の振興策は、個人消費の押し上げを目的とする。中国では高い経済成長に個人消費が追いついておらず、持続的・安定的な経済成長を実現するには個人消費の強化が不可欠なためである。


  2. 政府の取り組みが奏功して、97年には131億元(約2,000億円)にすぎなかった銀行の消費者向けローンの債権残高は、2009年には5.5兆元(75.9兆円)に達した。このうち住宅ローンが9割近くと圧倒的に多い。


  3. 98年以降の10年間を中国の消費者信用市場の第1ステージとすると、2008年以降、第2ステージに突入している。第1ステージでは有担保ローンが主に銀行によって提供されてきたが、第2ステージではノンバンクによる無担保ローンが新たに加わった。それにより幅広い消費者層の多様な資金ニーズに対応することが可能となり、消費者信用市場の裾野が大きく広がることが期待される。


  4. 「ノンバンクによる無担保ローン」は、「銀行による有担保ローン」に比べて取り扱いがはるかに難しい。とりわけ無担保ローンの難しさは、日米韓の3カ国で近年、これに関連するトラブルが生じた事例からも明らかである。中国政府は無担保ローンの育成を慎重に進めようとしており、貸し手サイドでも今後数年間を試行期間と位置付け、融資に慎重になっている。こうした点を踏まえると、日米韓でみられたようなトラブルが生じる可能性は小さいものの、その一方で、さまざまな制約が抑制要因となって、少なくとも当面は無担保ローンの成長ペースは緩やかにとどまるとみておくべきである。


  5. 所得水準が上昇しているうえ、それが今後も続くという楽観的な見通しが広く共有されているもとで、中国では消費者信用への潜在的なニーズが先行きますます顕現化すると予想される。その一方で、消費者信用市場が普及するにつれて避けて通れない課題も出てくる。主なものとしては、①非合法組織の跋扈の阻止、②融資の返済に支障を来たした借り手に対する救済措置、③救済措置が有効活用されるための消費者への金融教育、が指摘できる。政府が引き続き市場の振興を図るとともに、こうした課題にも取り組んでいくことができれば、中国の消費者信用市場は順調に成長を続け、内需の強化に貢献することになろう。
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