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Business & Economic Review 2011年3月号:日本総研シンポジウム(スウェーデン大使館後援)

【特集 スウェーデンの「改革」に学ぶ】
スウェーデンの金融危機とその後の金融市場における改革の取り組みについて
政策の透明性向上とグローバル化対応

2011年02月25日 翁百合


要約

  1. スウェーデンでは、1980年代後半から90年代前半にかけて、マクロ経済環境が大幅に悪化し、大手銀行を中心に相次いで金融機関が経営悪化に陥った。このとき、政府は、公的資金を経営が悪化した銀行に大量に投入、一時的国有化も含む大規模なリストラクチャリングを極めて短期間で達成した。この成功の要因は、速やかに明確な方針を掲げ、透明性を持って国民に対し問題の所在の説明を果たせたことである。


  2. スウェーデンの銀行は90年代の危機後、積極的なM&Aにより、グローバル化を果たしている。リーマンショック後も、90年代の金融危機の経験を踏まえて、預金保険対象範囲の拡大、リクスバンクによる流動性の供給、公的資金の投入プログラムの発表などの金融安定化プログラムを相次いで実行し、金融システムの健全性確保に努力し、危機を乗り切った。


  3. 80年代のインフレと経済悪化の反省から、危機後の93年、リクスバンクは本格的なインフレーションターゲティング(IT)の導入を決断した。そのエッセンスは、GDPギャップも勘案しながら、中長期的な物価安定を目指す枠組みである。実際、IT導入後、物価上昇率は低下した。この背景には、企業による情報技術革新投資の積極化と活用、競争激化による著しい生産性の向上により、ユニットレーバーコストが低下したこともあるが、ITの採用が、国民のインフレ期待を安定化させ、スウェーデンの労使による賃金交渉においても好影響を及ぼした点も指摘できる。


  4. 90年代後半に入り、物価上昇率が、リクスバンクがコミットした目標レンジを持続的に下回る時期がみられるようになり、リクスバンクは運用上、金融政策のスタンスを、よりフォワードルッキングな姿勢に変化させ、物価以外の動向にも配慮することを公表して、枠組みを柔軟化することとした。また、2000年以降は、住宅価格など資産価格も、物価上昇や資源配分に影響を与える可能性がある場合には、視野に入れて金融政策を実施していることも公表している。このように、IT導入当初の物価上昇率のコントロールに力点を置く厳格なアプローチから徐々に変化し、柔軟なアプローチに変化してきている。


  5. リクスバンクは国際的に最も透明度の高い中央銀行の一つと位置付けられている。近年も透明化に向けて様々な取り組みがみられるが、とくに注目されているのは、2007年から政策金利であるレポレートの予想パスを公表するようになったことである。政策金利の予想パスの公表を通じてマーケットとのコミュニケーションを高めつつ、さらに新たな効果的な金融政策の在り方を模索している。市場予想と乖離するなどの経験を経て、今後の課題として代替的な将来金利予想パスも公表することも検討している。また、物価水準ターゲティングについても、前向きに検討する姿勢を示している。リクスバンクの透明性を重視する姿勢は、多くの困難にも直面しているが、世界の中央銀行のなかでも注目すべき動きといえる。


  6. 2007年以降の金融危機により、大きな打撃を受けた自動車産業の象徴的存在であったボルボとサーブの2社に対して、政府は直接的な支援は行わず、雇用は大幅に削減され、2社は最終的に中国などの外資に売却された。こうした大胆な事業再生を可能にした背景は金融市場のグローバル化と、再生の鍵となる雇用への対応にあると考えられる。政府は、外資を積極的に導入して雇用を確保しようとしており、すでに2001年の段階でスウェーデンの雇用の半分以上が外資企業によっている。また、人員削減を実施しても、対象労働者が他の企業、産業に雇われるよう、職業訓練と職業紹介に重点を置いたセーフティネットを用意している。窮境企業の雇用を新しい成長産業に移すための、セーフティネットを構築し、グローバル化を推進して外資による雇用創出をむしろ積極的に活用するという構えでいることから、大胆な事業再生が可能となっており、産業の新陳代謝が活発で経済成長を持続することが可能になっていると考えられる。


  7. スウェーデンは国際競争を意識し、常に大胆かつ先進的な政策を志向・実施し、企業も積極的なグローバル化を実現している。その一方でそれを支えるのは、政策の透明性に裏打ちされた国民の政府や中央銀行への信認であり、また国際競争力強化の動きと両立する工夫された手厚いセーフティネットである。日本とは人口や国の規模こそ異なるが、今後一段と進む国際化と厳しい競争に立ち向かわなければならないわが国が参考にすべき点も多くあると思われる。
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