オピニオン 日本におけるスマートグリッド実現に必要な推進力 2010年10月26日 瀧口信一郎日本のスマートグリッドを推進するための経済産業省の次世代エネルギー・社会システム実証プロジェクトが始まっている。5年間で約1,000億円が投入される一大プロジェクトである。今年8月に横浜市、豊田市、京都府(けいはんな学研都市)、北九州市の4つの地域が、そのマスタープランを公表した。太陽光発電大量導入に備える取り組み、自動車を系統につなげて自動車を蓄電池とする取り組み、エネルギーの利用データを情報通信ネットワークに取りこんでエネルギーマネジメントを行う仕組みなど、今後スマートグリッドで想定される取り組みが網羅的にカバーされている。今後、世界市場をにらんだ場合、数十兆円の市場規模といわれるスマートグリッドは、国の「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」においても重要な位置を占め、日本が経済成長を維持していく上で大変重要な領域であり、この実証プロジェクトの成果に期待がかかる。しかしながら、関係者の話を聞いていると、事はそれほど簡単でない。電気事業法の問題である。経済産業省は、スマートグリッドをスマート「コミュニティ」という名前で推進しており、地域エネルギーマネジメントなど地域の取り組みを想定している。実証プロジェクトでは、地域内で電気のやりとりをする電気の融通が行われることになっているが、通常とは反対に、ユーザーから送配電網へと電気を流す「逆潮流」に対して制約があるため、現在の送配電網ではほぼ対応不可能である。地域エネルギーマネジメントは、エリアを区切っての取り組みに限定すれば、制度上不可能ではないが、そのためには、電力会社を始めとして関係者の合意を取ることが必要となる。推進する自治体、参加企業、対応する電力会社など、どの主体の問題かはわからないが、電気事業法の制約を乗り越える推進力が生まれていないのが、実態のようだ。そのような中で、北九州市の取り組み姿勢は興味深い。北九州市は、八幡東田地区という新日鐵のお膝元で、電力の特定供給地域という特区的なエリアを設定して、実証実験を行っている。ここでは、地域での電気の融通を実行可能である。北九州市は、環境局を中心に、環境モデル都市として、先端的な取り組みを目指して前例を覆すのもいとわない姿勢だ。北九州市には、日本を牽引するぐらいの勢いで、有意義な成果の実現に向けて邁進してほしい。※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。