Business & Economic Review 2010年9月号
【特集 金融システムの将来像】
金融危機後の経済環境の変化と金融機関の課題
2010年08月25日 藤田哲雄
1.はじめに
リーマンショックを発端とするグローバル金融危機からすでに2年近くが経過しようとしている。その後、欧米を中心に金融規制・監督の見直しが行われ、具体的な提案に基づいた議論が展開されている。これまでの金融自由化の流れは一転して金融規制強化の方向へ変化したようにみえる。様々な改革案のなかでも、バーゼル委員会による国際的な自己資本比率規制の改革は、金融機関にビジネスモデルの見直しまで迫るほど大きな影響を与えるものとみられている。このようななか、金融機関はどのように対応すればよいのだろうか。
一方、実体経済に目を転じてみれば、欧米の旺盛な消費に代わってアジアが世界経済の成長エンジンとなることで、世界のマネーフローが大きく変貌することが予想される。近年の経済成長によって、アジアは世界の工場から世界の市場へと変貌しており、わが国企業もアジアの消費に照準を合わせたグローバル戦略を採り始めている。わが国の金融機関はどのようにアジアの成長果実を取り込むことが可能なのだろうか。
また、国内についてみれば、産業の空洞化、人口減少・高齢化の進行、公共事業の削減によって地方経済の疲弊は著しい。ギリシャ問題で世界的に財政問題への関心が高まるなか、わが国においても、公共事業等を通じた中央から地方への分配は今後採り得ない方策と考えられ、地域の自立が喫緊の課題となっている。このようななかで、改めて地方経済浮揚のために何が必要であり、金融機関がどのような貢献が可能なのかが問われている。
このような問題意識のもと、以下では、金融危機後の経済環境の変化と今後の金融機関の課題について、①規制改革への対応、②アジア戦略、③地域金融、という三つの問題に焦点を当てて若干の整理を行いたい。なお、本稿は2010年6月18日に実施した日本総研金融シンポジウム「金融システムの将来像」において、パネルディスカッションに先立ち、事実と論点の整理を目的としたプレゼンテーションをもとに、その後の情報も加味してレポートとして再構成したものである。もとになるプレゼンテーションは、当社調査部金融ビジネス調査グループの各研究員の調査レポートを基礎としている。詳細は書籍『金融システムの将来像』(社団法人金融財政事情研究会、2010年10月刊行予定)を参照されたい。