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環境×マーケティング:掛け算で儲けを生み出す(2)

2010年07月07日 紀伊信之


前稿では、従来、「守り」的側面の強かった環境活動にも、「攻め」的要素、すなわち「儲けること」への期待が高まっており、「環境で儲ける」ためには、環境・CSR関連部署と営業・マーケティング系部署との連携が必要であると述べた。
本稿では、この「環境×マーケティング」の連携のあり方を探るべく、筆者らが実施した自主調査「地球環境保護に関する消費者の実態と意識」アンケート結果(2010年03月12日発表)から、注目すべき点を紹介した上で、そこから導き出される「掛け算」のポイントについて考えてみたい。

1.問題意識

「攻め」への期待が高まっている背景として、「儲け」の推進役である営業部門やマーケティング部門からの要請があるようだ。特に国内市場においては、どの産業・業界でも成熟化が進んでおり、各社は、少しでも差別化に寄与するものや、新たな需要を喚起できるものがないかと、必死になってその切り口を探している。「エコ・環境」は、さまざまな業界で、そのための注目株の一つとなっている。実際、数年前に比べて、「カーボンオフセット付き商品」のような環境配慮型の商品・サービスは、間違いなく増えている。
しかし、環境配慮型の取り組みの増加に比べて、それで儲かった=ビジネス的に成功した、という話をあまり聞かない(環境に配慮した商品特性が、顧客側のランニングコストに直結し、エコロジー=エコノミーとなる自動車や家電等はのぞく)のも事実である。
「環境で儲ける」ためには、当然のことながら、より多くの顧客に買ってもらうか、付加価値としてより高く買ってもらう必要がある。いずれにせよ、消費財・サービスであれば、顧客となる消費者の支持を得ることが欠かせない。「環境」がブーム的な様相を呈する中、果たして、どの程度の消費者が「環境に配慮した」商品やサービスを望んでいるのか、そこにプラスアルファの費用を払ってもらえる可能性はどの程度あるのか。顧客である消費者サイドから、環境配慮型の取り組みの今後の可能性を探りたい、というのが、筆者らがアンケート調査を実施した際の問題意識であった。とりわけ、消費者の意識が商材・商品カテゴリーごとにどの程度違うのか、また、環境配慮・貢献の取り組みの内容や消費者の参加の仕方により、消費者の購入・参加意向にどのような差が現れるのかといった点を浮き彫りにすることを試みた。
 
2.ターゲットの明確化

 調査結果の中で注目すべきこととして(詳細は「地球環境保護に関する消費者の実態と意識」アンケートをご参照)、まず「環境に配慮したものを求める消費者は多数派を占めるが、環境負荷への意識や環境配慮型の取り組みへの支持は、商品・サービスごとに大きく異なる」という点が挙げられる。具体的には以下のような調査結果となっている。
  • 商品やサービスを通じた環境・社会貢献への参加に否定的な消費者は、わずか約1割。支出を伴わない貢献であれば、参加すると答える消費者は半数にのぼる。
  • 商品の選択において、「値段が同じなら、環境に配慮した商品を選ぶ」と答える人は、商材を問わず、約5~6割程度も存在する。しかし、「他と比べて多少値段が高くても、環境に配慮した商品・サービスを選ぶ」というレベルになると、自動車・家電を除いた多くの商品カテゴリーでは1割に満たない小数派になる。
  • 環境負荷を意識する商品のトップはペットボトルで61.7%が「環境への影響(負荷)を意識したことがある」と答えている。これは自動車(39.3%)、家電(32%)をも大きく上回る。逆に、衣服(肌着・下着)などでは5%程度と、商材による意識の差が非常に大きい。
  • 「値段が同じなら、環境に配慮した商品を選ぶ」と答える人の割合も、約70%のペットボトル飲料から、50%程度の靴・カバン等のファッション雑貨やTVゲーム機とは大きな開きがある。

ここから言えることは、ターゲット顧客の設定が非常に重要だということだ。マーケティングの(もっと言えばビジネスの)基本であり、出発点はターゲット顧客の特定である。とりわけ、環境配慮型の取り組みにおいては、環境配慮への「本気度」として、どのレベルの消費者をターゲットとするかの決定が肝である。「高くてもよい」という「熱心な環境志向の小数派」か、「それなりに環境配慮はするが、財布は傷めたくない多数派」か、どちらを向いてビジネスを組み立てるのかによって、実施すべき施策は大きく異なってくる。どのような層にターゲット設定すべきかは、その企業やブランドの置かれた状況によって変わるが、整合性のある施策を展開するには、少なくとも、社内でその点において合意形成をしておくことが必要である。
さらに、多数派・小数派といっても、消費者の環境負荷意識の大きさや、環境配慮型の取り組みにどの程度の支持が集まるのかは、商材によって異なるため、自社の商品・サービスに関する、それらの比率・ボリューム感を見極めることが重要である。その点を見誤ると、「環境配慮型の取り組みをやってみたが、思ったほど成果が上がらない」という結果になりかねない。

3.自社商品・サービスに対する「顧客の期待」の見極め

 また、アンケートで「期待する環境配慮」の中身について質問したところ、次のような面白い結果が出た。
  • 消費者が期待する環境貢献の中身は商材ごとに異なる。「ペットボトル飲料」「ティッシュペーパー」などはリサイクル等環境配慮型素材・材料への関心が高く、「家庭用洗剤」などは排出物による汚染の少なさが求められる。また「インスタント食品」「スナック菓子」などの加工食品はゴミの削減面が期待されている。
  • 嗜好性の高い食品やアパレル系の商品では、「商品そのものが環境配慮型であること」よりも「環境に配慮したキャンペーン」の方が支持を得やすい。
    つまり、「商品・サービスごとに消費者が期待する環境配慮の中身、方法が違う」ということである。消費者にしても「環境によければ何でも良い」というわけではなく、その商品・サービスの購入・利用を通じて、「自分が負荷をかけたかもしれない部分をカバー」する環境配慮が求められていると言えそうだ。

従って、自社の商材・サービス一般に対して、ターゲットとなる顧客がどのような環境配慮を期待しているか、もっと言えば、自社や自社のブランドに対して何を期待しているかを把握しておくことが重要である。これらの期待を踏まえ、商材やブランドの特性を踏まえたストーリーが描けるものでなければ、顧客の支持を得ることは難しく、結果として非効率な取り組みに終わる可能性が高い。
それにも関わらず、実際の環境配慮型商品やキャンペーンの多くは、「業界の他社が同じようなことをやっていたから」とか「カーボンオフセットの提案があったから」といったように、必ずしも顧客の期待を精査して企画されているものばかりではないように見える。しかし、TVCMのタレントに誰を起用するかで商品の売り上げが変わるように、どういった「環境配慮」を商品・サービスに付加したり、ビルトインしたりするかによって、成果は大きく変わってくるはずである。それだけ、環境配慮の「中身」については、吟味が必要である。

4.情報発信への適切な取り組み

どんなに良い取り組みであっても、それが顧客に伝わり、理解されないことには、直接的どころか、間接的にすら「儲け」にはつながらない。「誰に向けて、どんな取り組みをやるのか」ということと同じくらい、それをどのような手段、どのような言葉で伝えるのか、ということも重要だ。
しかし、実際は「当社はいい事を色々やっている割に、顧客に伝わっていない」といったご意見をよく耳にする。次のようなアンケート結果をみると、企業側の伝えたい内容・伝え方と、消費者側の知識量・情報への姿勢とがマッチしていないことが、その要因の一つだと言えそうである。
  • 「排出権」「グリーン電力」「カーボンオフセット」といった言葉を知らない人が約4割に達する。
  • 企業の環境貢献について、自ら情報にアクセスする人は小数派であり、広告や商品パッケージ、ニュースといった「受動的なメディア」が企業の環境貢献活動に関する主な情報源となっている。

  • 多くの消費者は、環境に配慮した消費活動に賛同はするものの、環境関連の知識が十分にあるわけではなく、また積極的に情報を取りにいこうとしているわけでもない。こうした消費者の情報量の少なさや受け身な姿勢を考えると、「環境報告書」や「環境活動レポート」を自社のホームページにアップしただけでは、広く一般の消費者に伝わらないことは明らかだ。それよりも、広告やパッケージなど、顧客が自然と目に触れる媒体で、効果的に情報を伝える必要がある。また、その際に、顧客となる消費者の知識レベルにも配慮しなければならない。

    5.おわりに

    以上見てきたように、環境に関する取り組みが顧客である消費者から支持されるためには、「ターゲットをしっかり定め、ターゲットの期待を踏まえた取り組みを行い、相手のわかる言葉・手段でそれを伝える」ことが必要だ。当然のことといえば当然のことだが、実践するのは、環境・CSR関連部署も、営業・マーケティング関連部署も、それぞれにこれまでのやり方や考え方を変える必要があるかもしれない。
    例えば、環境・CSR部門は、顧客について、「ステークホルダーの一つ」といったぼんやりとしたイメージではなく、環境関連活動のターゲットとなる具体的な顧客像を考える必要が出てくるはずだ。また、情報発信についても、「環境報告書」を自社のホームページで公開するといったような、情報に積極的にアクセスする人への対応だけでは不十分だろう。せっかく実施している「良いこと」を、ターゲット顧客を含めた外部に対して、積極的に訴えていく取り組みへの関与が求められる。
    一方の営業・マーケティング部門についても、環境・CSR部門が立案する環境貢献活動に対して、「後付け」で、それをどうビジネスに結びつけるかという受け身の発想では駄目だ。環境で「儲け」たいなら、その環境関連活動の中身を環境・CSR部門任せにしてはならない。「環境に配慮している」ことは顧客から選ばれる「決め手」ではなく、むしろ今後は「選ばれるためのスタートライン」と考えた方がいい。重要になるのは、「環境配慮の中身」である。どういう取り組みであれば他社との違いが出るか、自社のブランド構築や商品の購入に寄与するのか、これらを環境・CSR部門にフィードバックする、あるいは一緒に考えていくことが必要になるだろう。


    ※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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