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アジア・マンスリー 2010年7月号

【トピックス】
目覚しい発展を遂げる上海市の消費市場

2010年07月01日 大泉啓一郎


過去20年間上海市は目覚しい発展を遂げてきた。一人当たりGDPは1万ドルを超え「先進国入り」の水準に達し、富裕層を中心に消費市場の拡大が著しい。上海市といかに付き合うかは重要な視点である。

■所得水準は「先進国入り」
上海万博が5月1日に開幕した。同万博のテーマは「より良い都市、より良い暮らし(better city, better life)」であり、テーマに相応しく上海市の都市景観は、先進国と比較しても遜色ないものになってきた。上海市は人口1,921万人(2009年)を有する大都市で、古くから中国の生産・貿易の中心的役割を果たしてきた。とはいえ、1949年以降の計画経済下でその経済活動は制限され、1990年代までは、所得水準も低く、低生産性に苦しむ「開発途上国に典型的な大都市」として、先進国の大都市とは異なった見方がなされてきた。

しかし、改革・開放政策のなかで、とくに鄧小平氏が先に豊かになれる地域から豊かになることを認めた「南巡講話」で開放政策が決定付けられたことから、92年以降、上海市への外資企業の進出が加速し、上海市は目覚しい経済発展を遂げた。

外国直接投資受入額(実行ベース)は1992年の12億5,900万ドルから2000年に31億6,000万ドル、2008年には100億8,400万ドルに急増し、一人当たりGDPは92年の1,488ドルから2009年には11,405ドルへ急増した(右上図)。世界銀行の基準に従えば、20年足らずで「下位中所得地域」から「高所得地域」へ移行したことになる。さらに、一人当たりGDPを、為替レートや物価水準の影響を排除した購買力平価レートを用いて計算すると、1990年の2,882ドルから2009年には20,271ドルに増加したことになり、日本との格差は同期間に6.5倍から1.8倍に縮小した。
近年、中国は工業製品を全世界に輸出する「世界の工場」としてプレゼンスを確立しているが、上海市の中心産業はすでに製造業ではなくなっている。製造業の生産拠点の中心は、上海市から近隣の江蘇省や浙江省に移っており、同市の役割は、これら近隣省とから形成される経済圏の中枢機能へとシフトしている。
これに伴い、外資企業も金融、不動産、運輸・通信、流通などサービス産業への投資を増加させており、2008年の外国直接投資受入れ額のうち、サービス業は68億3,500万ドルと製造業の32億3,600万ドルを大幅に上回った。

■上海市の消費市場の量・質の変化
この急速な経済発展のなか上海市の消費市場が急速に拡大している。
上海市の都市部の一人当たり年間可処分所得は、2000年の1万1,718元(1,415ドル)から2009年には2万8,883元(4,443ドル)に増加し、世帯当たり可処分所得に換算すれば1万3,000ドルを超え、購買力平価レートを用いれば2万ドルを超える水準にある。

耐久消費財市場では、2000年時点ですでにテレビや冷蔵庫、洗濯機が、ほぼすべての世帯に行き渡っており、現在は携帯電話やパーソナル・コンピュータ、エアコンが普及する段階にある。とくに携帯電話の普及は急速で、100世帯当たりの保有台数は2000年の29台から2008年には219台へ急増した。消費市場の内容も大きく変化している。2000年を100として家計支出の変化を項目別にみると、2008年に総支出が219に上昇したのに対して、外食費は291、通信費は323、娯楽サービス費は594、自動車の購入費を含む交通費は619に急上昇し、ライフスタイルの先進国化がうかがえる。

そして、このライフスタイルの先進国化の牽引役は富裕層であることに注意したい。富裕層を所得水準上位20%としてみると、一人当たり平均可処分所得は2000年の1万9,992元(1,944ドル)から2008年には5万3,733元(7,787ドル)へ増加し、世帯当たり可処分所得では16万元(2万ドル)を超えることになる。これは、購買力平価レートで換算すれば、わが国の家計平均に匹敵する水準である。

所得階層別に市場の占有率をみると、交通・通信費において富裕層が占める割合は2000年の32.6%から2008年には49.3%へ上昇しており、近年の自動車・携帯電話市場の拡大が富裕層の購買力に大きく依存していることが分かる。同様に、衣料費に占める割合が31.1%から40.8%、娯楽サービス費も30.4%から35.6%へ上昇した。

家計支出の合算を上海市の消費市場規模とすると、市場全体は2000年から2008年に875億元から2,360億元へ2.7倍弱に増加したが、そのうち富裕層は250億元から846億元へ3.4倍増加し、市場に占める割合は28.6%から35.8%へ上昇した。他方、下位20~40%、中位40~60%、上位20~40%を合算した所得階層の市場は500億元から1,263億へ増加したが、人口では富裕層の3倍であるにもかかわらず、その増加分は富裕層の1.3倍にとどまっている。

近年、中国の消費市場について人口比率の高い所得層(ボリュームゾーン)に注目すべきとの主張が多いが、上海市のような大都市では、先進国と変わらない特徴を持った富裕層の市場の変化により一層注意を向ける必要がある。

一段と先進国化する上海市といかに付き合うかは、わが国の成長戦略や企業戦略において重要な視点である。
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