コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2010年6月号

【REPORT】
リバースモーゲージ普及に向けた一考察
官民協働のサービス提供体制の構築

2010年05月25日 星貴子


  1. 公的年金制度の先行き不透明感や景気の先行不安の高まりを受けて老後の生活資金への不安が増大するなか、高齢者にとって有効な資金調達手段の一つとしてリバースモーゲージへの関心が高まっている。しかしながら、わが国では、厚生労働省のほか、一部の自治体や少数の民間金融機関などが独自サービスを提供するにとどまり、これまでの利用件数は公的サービスと民間サービスを合わせても3,000件強と、潜在市場のわずか0.6%にすぎない。


  2. このように利用件数が伸びない背景としては、商品の性格上リバースモーゲージが融資時期や金額が不確定なことなどから、他の商品に比べ、貸出機関にとってリスクのコントロールが難しいことが挙げられる。加えて、公的部門については、①リバースモーゲージが生活保護の補完として社会保障費の枠内で決められた予算で実施されているため、利用希望者の増加に柔軟に対応できない、②公共性および公益性の観点から、低所得層向けに民間に比べ低い金利での融資が求められるため、低所得者のなかでも比較的高い評価額の不動産を所有する高齢者に対象を絞らざるを得ないといった制約がある。一方、民間部門、とりわけ地方圏の地域金融機関では、取引件数の少なさから、事業展開の初期コストを回収し、事業を採算ベースに乗せることが難しい点が挙げられる。さらに、大数の法則を利用してリスクをコントロールすることが難しい。


  3. 以上を踏まえると、リスクを適切にコントロールし損失を最小限に抑える一方、利用動向に応じ融資原資を柔軟に調整するとともに、規模の経済性(スケールメリット)によって事業化に要する初期コストを早期に回収できる仕組みを構築することが、リバースモーゲージの普及促進のための一つの解決策ではないかと考える。


  4. この解決策としては、公的部門や民間金融機関がそれぞれ独自ではなく、各々の役割や特性を生かし、官民協働でこうした仕組みが構築、運用されることで、対象者層の範囲が拡大され、高齢者への幅広いサービスが可能になると考えられる。
    具体的には、実際の貸出や債権回収などの融資業務を金融機関が行う一方、公的部門が借り手の信用リスクの一部を引き受けるなど普及の阻害要因であるリスクをコントロールするとともにマスメディアや地域自治体を通じたプロモーション・情報提供を行いサービスの周知を図るといった協働システムである。ただし、公的部門の事業には公共性および公益性が求められるうえ、安易な貸出などのモラルハザードを防止するために、信用リスクを引き受ける融資案件には、利用者の年収や融資金額の上限など一定の基準を設定することが必要である。


  5. サービスの提供にあたっては、地価および物価の水準は地域ごとに異なることから、全国一律ではなく、地域の実情に応じたきめ細かな対応が必要と考えられる。スケールメリットを生かしつつ、この要請に応えるには、都道府県単位で実施することは実効性が高いと考えられる。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ