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Business & Economic Review 2010年6月号

【STUDIES】
経営者報酬決定プロセスと連結会計情報-役員賞与決定メカニズムの実証分析

2010年05月25日 新美一正


要約

  1. 従来、わが国の経営者報酬は海外企業と比較して業績連動性に乏しいと考えられてきた。しかし、近年の実証研究は、わが国企業の経営者報酬に関しても、有意な業績連動性があることを報告している。仮に、わが国においても業績連動的な経営者報酬制度がそれなりに根付いているとすれば、経営者サイドには当然に、裁量的な利益調整行動を行って、自己報酬の増加を図るインセンティヴが生まれることになる。


  2. 以上の問題意識に基づき、本稿では、経営者報酬の主要な構成要素である役員賞与の決定プロセスと連結会計情報との関係性を実証的に検討した。具体的には、まず、役員賞与の業績連動性を検証し、さらに、役員賞与増加型の利益調整行動の存在について、実態に即した分析を行った。


  3. 本稿における分析結果は以下の3点に集約できよう。
    (1)まず、連結ベースの会計情報(営業キャッシュフロー、各種段階利益)は、いずれも役員賞与と有意な正の相関関係を有していた。また、営業キャッシュフロー情報には、役員賞与に対し、利益情報と重複しない、補完的な説明力が含まれている可能性があることがわかった。
    (2)経営者が利益増加型のアーニングス・マネジメント(裁量的利益調整行動)を通じて、役員賞与を増加させているという仮説に関しては、必ずしも立証されなかった。一方、経営者は役員賞与がゼロとなるケースでは、積極的に特別損失を積み増して計上する、いわゆるビッグ・バス(big bath)会計を採用して、将来期の賞与を増加させる戦略を執っていることが裏付けられた。
    (3)役員賞与が当期だけではなく、過去期の業績の影響をも受けて決定されていること、役員賞与の決定に際して、相対的に持続性の高い会計情報がより強い影響力を持っていること、などのファクト・ファインディングが得られた。これらは、わが国企業における「暗黙の役員賞与契約」が、業績評価に際してより中長期的な視点を重視していることを示唆している。
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