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Business & Economic Review 2010年2月号

【STUDIES】
経営者の会計数値切り上げ行動による利益調整
ベンフォードの法則に基づく実証分析

2010年01月25日 新美一正


要約

  1. 利益調整行動に関する近年の実証研究は、もっぱら、利益ベンチマークと現実の会計利益との差を統計的に検証する利益分布アプローチに基づき、実証成果の蓄積を行ってきた。このため、具体的な3ベンチマーク(ゼロ利益、前期利益、アナリスト予想利益)の達成とは無関係に、日常的に行われている会計数値操作行動の多くが、研究対象から欠落してしまっている。こうした会計操作のなかには、投資家の認知バイアスを狙い撃ちにした利益水準の大台替えや、軽微な端数切り上げ型の利益嵩上げ行動などが含まれる。
  2. 本稿では、ベンフォードの法則に基づき、こうした端数切り上げ型の利益調整行動に関して、日本企業を対象とする実証分析を行った。ベンフォードの法則とは、作為が加えられない形で自然に生成する数字の先頭からの各桁の数値が従う理論的な出現頻度に関する数学的な法則である。この理論確率と、実際の会計利益数値における各桁数値の出現頻度を比較することにより、その会計利益に人為的な操作が行われているか否かを統計的に検証することができる。
  3. 本稿における実証結果は、以下の3点に集約できる。
    (1)連結決算データを用いた分析では、分析対象期間の後半(2003年3月期~2008年3月期)において、段階的損益項目のほぼすべてにわたり、2桁目数値に切り上げ型利益調整行動を裏付ける結果が得られた。
    (2)個別決算データを用いた分析では、分析対象期間の前半(1997年3月期~2002年3月期)におい
    ては、段階的損益項目のほぼすべてにわたって、2桁目数値に切り上げ型利益調整行動がみられたが、後半期間では、売上高と営業利益に関して、利益調整行動の兆候が消失した。以上の結果は、経営者の意図的な利益調整行動の対象が、個別決算値から連結決算値へと移行しつつあることを反映しているように思われる。
    (3)連結決算ベース会計数値の先頭3桁目数値に注目した分析からは、経営者が、比較的に切り上げ操作が容易なケースにおいて、より積極的に数値切り上げ行動を行っていることを示す結果が得られた。この結果は、会計数値の切り上げが、決して偶然の産物ではなく、経営者の明確な意図に基づいて行われていることを示唆する。
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