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Business & Economic Review 2010年2月号

【特集 世界的危機後の金融】
模索が続くアメリカのリテール金融

2010年01月25日 岩崎薫里


要約

  1. これまで米銀の安定的な収益源となってきたリテール部門が、サブプライム住宅バブルの崩壊、金融危機、それらに伴う景気後退により、一転して収益の下押し要因となっている。住宅ローンおよびクレジットカードの不良債権の解消には時間を要することや、家計部門のデレバレッジングが当面続くことを踏まえると、リテール金融業務の早期の回復は見込み難い状況にある。
  2. さらに、今後のリテール金融の業務環境を大きく変える要因として、消費者保護の大幅な強化が挙げられる。主なものとしては、①クレジットカード業務規制の強化、②消費者金融保護庁の創設、③当座預金のオーバードラフトに対する規制、の3点がある。そのほかにもさまざまな規制強化の動きがみられ、消費者保護規制の強化は今やアメリカで大きな流れとなっている。
  3. 消費者保護規制が強化される背景には、直接的にはサブプライム住宅ローン問題への反省がある。しかしそれにとどまらず、①金融危機を契機に世論が金融業界に対して反発を強めている、②より本質的には、金融商品やサービスが複雑化・不透明化し、時に消費者の理解を超えてしまった、という2点があることも見逃せない。
  4. 家計のデレバレッジングに加えて消費者保護規制の強化により、アメリカのリテール金融業務の収益性は下方にシフトせざるを得ないと見込まれる。米銀はこれまで比較的自由に手数料や金利を設定し、そこからの収入の最大化を図ってきただけに、今後それらの設定に制限が加えられることは痛手となる。規制対応のためのコストも収益の下押し要因となろう。さらに、消費者金融保護庁の介入の程度次第では米銀が萎縮し、新規融資に慎重になるとともに、イノベーションへの意欲が削がれる可能性も排除できない。
  5. こうした環境変化に対応する新しい動きとして、米銀の間ではシンプル志向の強まり、および顧客の質の引き上げが生じている。シンプルな金融商品・サービスを、信用度の相対的に高いプライム層に絞って提供することが、当面のリテール金融の基本戦略となろう。一方、中長期的な課題として、これまで手付かずであったアンバンクトおよびアンダーバンクトの開拓がある。最近では、それらの層をターゲットとした少額融資のパイロット・プロジェクトが実施される一方、シティグループがマイクロファイナンスのNPOと提携するなど、新たな動きもみられる。しかしながら、こうしたビジネスが安定した収益源に成長するまでには相当な時間を要するであろう。

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