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Business & Economic Review 1995年12月号

【論文】
産業高度化と日本企業-産業空洞化を超えて-

1995年11月25日 調査部 翁百合、調査部 高坂晶子


要約

産業空洞化現象については、様々な議論がこれまでに行われてきているが、国際競争条件の変化に伴う比較劣位産業の淘汰は産業高度化または国際分業の進展と捉え、これを区別する必要がある。また、わが国製造業の流出という現象だけでなく、海外企業が参入できないこと自体も空洞化をもたらす、と考えられる。

80年代のアメリカや70年代のドイツでも、自国通貨高に伴い産業構造変化を余儀なくされたが、結局は、規制緩和と摩擦的失業対策を講じて産業高度化に結びつけていった。

産業空洞化の原因は産業高度化とは異なり、為替相場のオーバーシュートに伴ういわゆるヒステリシス(履歴)現象、および規制等の人工的要因に伴う国内産業の高コスト体質である。一方、空洞化を加速するものは、技術集積産業の海外移転である。技術は企業内部の部門間の交流や「生産による学習」効果によってそのシーズが生まれること、また不断の商品開発要請といった企業間の交流、ネットワークが「イノベーションの源泉」となっていること等から、これが一旦分断されると、日本経済全体としての成長の芽がそがれる可能性がある。

わが国の実情をみると、本年前半までの円高で業種別にみても技術集約的な産業を中心に雇用がかなりの影響を受けていること、また製造業の多くの業種において生産性が低下しており、今後雇用に対して下方圧力がかかる可能性があること、大都市圏中小企業を中心に今までの企業集積効果が失われ始めていること等から、産業高度化ではなく、産業空洞化の状況となっている可能性が高い。

産業空洞化を回避し、産業高度化に結びつけていくためには、まず通信情報分野、土地関連分野などの規制を緩和して内外価格差の解消を図り、わが国の高コスト体質を解消していくと同時に、この規制緩和を新規市場創設に結びつけることが重要である。技術空洞化対策としては、大企業内では本拠地と海外生産地間のコミュニケーションの強化を図ると同時に、大都市圏中小企業などについてはネットワークを構築し、集積地域外への情報発信を行ったり、ソフト機能を強化し市場ニーズを自ら作り出していくことが求められる。加えて、わが国が、積極的に海外企業に門戸を開いていくことも重要である。特に、海外企業の誘致などは、いずれも地域ニーズと地域独自の技術シーズに即した地方主体のきめ細かい行政の支援が求められるところであり、地域間での競争原理を取り入れていく必要がある。さらに、雇用に対するマイナス影響については、雇用の流動化にふさわしいインフラを整備し、真の生産性の高い業種に雇用が調整されていくメカニズムを構築する必要がある。
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