Business & Economic Review 1995年9月号
【戦後50年特集 論文】
ポスト「戦後」における日本外交の課題
1995年08月25日 調査部 高坂晶子
要約
第二次世界大戦の日本外交は、きわめて限られた範囲で展開された。すなわち、安全保障については、いったん下した選択の堅持に終始し、戦後処理を除いては経済関係を専らの課題とした。わが国が国際社会へ復帰したのは1951年、早くも敗戦後6年が経過しており、戦後の枠組みはすでに定まっていた。このため、日本外交は出発点から受け身たらざるを得なかったのである。しかし、戦後50年を経た現在、この「51年体制」から脱却した外交政策の立案が求められている。
国際社会は近年、冷戦構造に代わる新しい枠組みを模索し、仕組みと規則の構築、すなわちルーリングに着手しつつある。前回(第二次大戦後)の場合は既存秩序が徹底的に破壊されたため、短期間にルーリングの終了をみたが、冷戦期の残滓を多数残す中で進められる今回は、実務的な交渉成果の積み重ねによる緩慢な営みとなろう。また、ソ連東欧圏の消滅に際して夢想された「新世界秩序」や「国連の再生」などの壮大な計画は破れ、現在のルーリングは機能的、実務的、技術的、限定的等の特質に彩られている。
世界第2位の経済規模を背景に、日本は今回、主要なアクターとして秩序形成に参加する資格がある。しかし、構想力、表現力・説得力、交渉力、実行力などについて不足があるうえ、ルーリングに不可欠とされるソフト・パワー(文化的魅力)の面でもハードルは高い。自らの社会の透明性を高めて外部との調和を図らなければ、わが国が提唱するプランは国際社会の受け入れるところとならないであろう。
とはいえ、日本が40年来外交の柱としてきたODA分野では、実績と国内の支持を背景に一定の成果を上げつつある。具体的には、「援助疲れ」の目立つ先進国に対する動機づけ、援助効果の証明、NIEs、ASEANの新規援助国化支援等が挙げられる。今後日本がルーリングに注力するに当たり、この事例から引き出し得る示唆は、
●(先進国と途上国のような)相対立する陣営の調整の困難性
●国内支持基盤の重要性
●主張の正統性を裏づける応分の負担の必要性
等である。 これらを認識したうえで、わが国は、
●シンクタンク、研究機関による情報発信の強化と真摯な政策論争
●情報の整備・開示と情報伝達機能の強化
●外務省の政策調整機能の強化
に取り組むことが喫緊の課題といえよう