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Business & Economic Review 1997年09月号

【OPINION】
財政自主権の回復によって地方財政の再建をめざせ-地方債改革を突破口に

1997年08月25日  


ここ数年の間に地方財政は急速に悪化し、1997年度末の地方の債務残高(借入金と債券などの合計)は147兆円と91年度末対比2.4倍、GDP比28.5%に上っている。地方財政の再建には、地方自治体が財政運営における責任と自主性・効率性を追求できる仕組みを構築することが必要であり、国による所得再分配システムの改革が急務である。具体的には(1)事務量にマッチした財源の地方移譲、(2)国の介入を招く国庫補助金・支出金の削減、(3)財政責任を曖昧にする地方交付税算定方法の変更、(4)市場原理に即した地方債発行メカニズムの導入、等を具体的な日程に沿って進めるべきである。しかし、この点に関する国の対応は鈍く、6月に閣議決定をみた「財政構造改革の推進について」は地方財政改革の重要性を指摘するのみで具体策を示しておらず、地方税財源問題を扱う地方分権推進委員会第二次勧告においても、税源移譲や地方一般財源の強化等、肝心なテーマの多くは先送りされた。

上記の処方箋のうち地方に財政自主権を回復するうえで突破口となるのが、地方債制度の改革である。90年代入り後、6~7%台で推移してきた地方債依存度は94年度以降急進し、97年度には13.9%に達し、地方財政における地方債の重要性は増大しつつある。また、地方債は、国による所得再分配メカニズムに緊密に組み込まれており(例えば起債所要額の算出根拠として、国の補助金に対応する地方負担額<いわゆるウラ負担>が使われる、地方債の要償還額の一部が地方交付税算定時に基準財政需要額に算入される等)、その改革が地方財政システム全体の見直しに果たす役割は大きい。すでに自治省は地方債発行の原則自由化を表明しており、大蔵省の強硬な反対で頓挫している税源の地方移譲等と比べ実現可能性も高い。市場原理を追求する「金融ビッグバン」がいよいよ現実となるなか、地方債発行の自由化を推し進めることで地方自治体が市場原理の洗礼を受け、そのチェックに耐えうる財政体制を構築することは、地方の財政自主権回復の第一歩となろう。

今後の地方債制度のあり方としては、第1に、起債に対する制限を最小限にとどめ、不足財源の調達方法について地方に選択の自由を与えるべきである。そもそも、住民のニーズに合った個性的な地域経営を実現するには、自治体が責任をもって起債対象事業や起債額、利率等を自己決定する仕組みが不可欠であるが、国による厳しい規制は、財政ひいては行政サービスの水準やまちづくり等地方行政全般について自治体の自主性を奪うものである。今や国に求められるのは、自治体が財政破綻に陥った場合の取り扱い等のルールの整備に限られ、個々の自治体に対する指導・関与ではない。この点、自治省の地方債改革案は財政再建集中改革期間後の2004年を開始期日とするなど対応があまりにも遅いうえ、(1)地方が償還・利払いの財源の手当を受ける場合は事前協議のうえ国の同意が必要である、(2)普通地方税の税率が標準税率未満の自治体に対し起債を許可制とする、など自由化にはほど遠い内容となっており、より踏み込んだ改革が急務である。

第2は、地方債の市中消化を原則とすべきである。97年度地方債計画では、地方債(借入金と債券)の62%を公的資金が引き受け、残りについても、その大半は金融機関が引き受ける縁故債や借入であり、公募債はわずか8%に過ぎない。公募債を発行することができる自治体は30前後に上るが、このうち東京都の発行分が圧倒的に多く、その他の自治体の発行する公募債のボリュームはきわめて限られている。このような現状を市場主導に転換するには、財政運営能力の高い自治体が率先して市場に参加し、積極的に活動することが望ましく、一般の自治体については、これら先進自治体をベンチマークとして資金調達することによって、市場規律が貫徹する仕組みを構築することが必要である。

第3は、公募債の発行条件を弾力化し、自治体の財政運営能力に応じて市場で決定される方式に転換すべきである。現在、公募債の発行条件は、発行体を代表した自治省とシンジケート団を代表した金融機関との間で毎月交渉のうえ決定されており、財政状態の異なる自治体であってもまったく一律の発行条件が適用されている。この点、米国では、自治体のデフォルト(連邦破産法の適用)もありうるという前提に立って個々の自治体の格付けが行われており、こうした格付けや発行条件の違いを映じて各自治体が財政健全化へのインセンティブを持つ状況となっている。わが国でも、徹底した情報開示と市場による格付け・選別の仕組みを導入し、財政運営能力の高い自治体であれば資金調達を有利かつ柔軟に行える仕組みを構築していくべきである。

5月に経済企画庁が発表した「地域経済レポート97」は、「民間企業が規制による保護から解き放たれ、厳しい自己責任による経営を問われるときに、一人地方公共団体がこれまでの安逸を享受できるだろうか」という問題意識を掲げ、自治体にも自己責任を求めており、政府によるレポートとしては出色の出来といえる。われわれもまったく同じ問題意識を共有している。国による地方間の所得再分配の仕組みを縮小し、地方自治体にも一定の競争原理を導入して財政的な自立を目指すことこそ、「地方主権」確立の大前提である。
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