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Business & Economic Review 1997年05月号

【シンポジウム】
産業集積メリットの再構築による地域産業空洞化への対応
-シンポジウム報告を中心に地域産業政策のあり方を考える-

1997年04月25日 武山尚道、三橋浩志


1.はじめに産業空洞化の問題点

わが国の各地域で活動している製造業は、産業経済全体の要である。それは、海外から所得を獲得する力が強いということのみではない。むしろ、わが国の産業が高度化し産業経済の活力を維持していくには、生産とサービスを結びつけることで新しい成長産業・成長分野を創造することが必要であることからもいえる。わが国の産業構造が高度化し、産業経済の活力を維持していくためには、製造業は不可欠な役割を果たしている。しかしながら、経済のグローバル化、ボーダレス化に伴うメガ・コンペティション(国際大競争)の時代となり、企業の海外進出や輸入浸透度の高まりによる産業(製造業)の空洞化現象が各地域で生じている。これは、マクロ経済的にみれば、自由競争の必然的な結果としての産業構造の転換として収斂することになる。しかし、産業の空洞化現象は、個々の地域にとってはもちろん、わが国全体にとっても、単に経済のグローバル化に対応した雇用シフトや産業構造転換の一過程としてとらえるだけではすまされない、重大な問題をはらんでいる。すなわち、産業空洞化は次のような深刻な問題を引き起こすことが危惧される。


1.産業調整が進む間に、技術、人材・企業家、資本等の面から、わが国を支える製造業の存立基盤そのものが崩壊してしまうおそれが強い。
2.労働力の地域間・業種間移動の困難性により、地域における集中的な雇用問題を引き起こして、地域社会の崩壊に結びつくおそれもある。
3.以上の1)2)に関連して、わが国の各地域が育んできた産業集積、特に基盤的技術とそれを担う人材が空洞化することによって、将来に向けた産業高度化や、新たな産業創造の芽が失われるおそれが強い。


こうした状況に対処していくためには、これまでのような地方分散型の産業立地政策に頼るのみでは限界がある。各地域がそれぞれ世界的な視野に立って、自らの強みを発揮しながら産業振興や新産業の展開を図る地域産業政策が、いよいよ不可欠な状況になってきた。この地域産業政策の中心となるのは、これまで培ってきた産業集積を活かし、そのメリットを再構築していくことであろう。そして、立地行動のフットルース化(後述)に耐え得る立地環境の整備、企業活動の広域ネットワーク化、地域の官民が協力した産業創造活動を推し進めるための仕組みづくり等を進めることが必要である。

国でも、これまでの産業振興施策の点検・評価を行うとともに、新しい施策を展開しようとしており、特定産業集積活性化対策、地域型提案公募型研究開発等が新たに本年3月国会で制定されようとしている。施策の実施対象である地域としては、これらの施策を自らの地域産業政策にどのように活用していくかという視点も重要である。

日本総合研究所では、このような問題意識に基づき、大阪市内において地域産業の空洞化を超えて~産業集積メリットの再構築を目指す地域産業のあり方~と題するシンポジウムを開催した。本稿では、この紹介を中心として、これからの地域産業政策を考える視点や方向性を検討したい。

2.シンポジウム概要

シンポジウム地域産業の空洞化を超えて~産業集積メリットの再構築を目指す地域産業のあり方~は、基調講演とパネルディスカッションの2部に分けて行われた。その概要は以下の通りである。

開催日時:1997年3月11日(火) 午後1時30分~5時
場所:大阪東急ホテル

問題提起:
・日本総合研究所 研究員 三橋浩志

基調講演:
・通商産業省環境立地局地域産業高度化室長 黒岩理氏
・奈良産業大学教授/大阪府立産業開発研究所長 田口芳明氏

パネリスト:
・財団法人中小企業総合研究機構 常務理事 木村忠夫氏
・東大阪市経済部経済企画課主幹 木村潤一氏
・および上記2名の基調講演者

司会
・日本総合研究所 主任研究員 武山尚道

1)日本総研からの問題提起

本テーマの問題意識として、わが国の産業立地の動向や政策上の課題を整理するとともに、地域産業政策を考える視点を日本総研より提示した。

イ)フットルース時代を迎えたわが国の産業立地

経済のグローバル化の進展等により産業構造が高度化するなかで、個々の企業は、高付加価値型のものづくりへと転換しつつある。高付加価値型の企業の立地要因は、これまでのような原材料の分布や物流コストへの依存度が低下し、労働力の質や研究開発情報等の比重が高まってくる。したがって、わが国の産業構造が高度化することで、企業は輸送費指向性が低い地理的制約を勘案しない土地に縛られない立地行動を採用することとなる。いわゆる産業立地のフットルース(foot-loose:足場がしっかりと定まらない)時代を迎えつつある。

さらに、経済のグローバル化の進展と情報化の進展が相まって、企業の立地行動は国際的な展開をみせつつあり、海外への工場進出は急増している。これからの産業立地は企業の立地に対する制約がなくなる時代、企業が地域や国を自由に選ぶ時代といえる。

ロ)フットルース時代の地域産業の現状認識

産業立地のフットルース時代を迎えた地域産業の特徴や課題として、次の点が指摘できる。

(1)力のある企業から始まる産業空洞化

-元気な企業ほど国際展開し、地域雇用の減少を引き起こしている-

個別企業は、グルーバルな視点で各種機能配置を検討し、各機能に最適の立地点を選択している。地域の雇用に縛られた経営を行っていては、国際大競争のなかで企業は生き残れない厳しい状況にある。したがって、例えば、組合の役員企業等の中核企業であっても地域へのお付き合いで漫然と生産拠点を現在地に残すことはあり得ないといえる。むしろ、元気な中核企業ほど、積極的に国際展開を繰り広げ、それが雇用の減少を引き起こすきっかけとなっている。

(2)企業ライフサイクルの短縮化

-事業所の開設から閉鎖までのサイクルが短くなっている-

経済のグローバル化の進展により、企業の国際競争が激化しており、最適コストの地点を求める企業の立地行動が世界スケールで迅速に展開している。この企業行動を地域側からみると、事業所の開設から閉鎖までのサイクルが短縮している。したがって、仮に工場団地等への企業誘致に成功しても、企業が立地当初の機能を長期間にわたって継続するとは限らない。むしろ、国際的視野に立った機能の再配置に絶えず取り組む経営でなくては、企業は生き残れない厳しさがある。企業の要望に応えられない地域は、短期間での事業所の閉鎖というケースも十分考えられる。

(3)マクロとミクロの視点の乖離

-マクロ経済政策と地域産業政策にギャップが生じつつある-

個別企業が国際競争力を高めるためには、企業活動を構成する各種機能を高度化し、最適なネットワークを世界規模で構築することが重要である。マクロ経済政策としては、このような企業の高度化を支援する政策を展開する必要がある。

一方、地域は住民の生活の場であり、その生活を支えるのが地域産業である。地域は、地域産業が生み出す雇用をもとに形成されている。したがって、豊かな地域を形成するには、地域産業を活性化することで地域内に雇用を確保し、地域経済の好循環を形成する必要がある。そのための政策が地域産業政策であり、政策目標はあくまでも地域雇用の確保を中心とした地域住民の生活の向上であるといえよう。

しかしながら、マクロ経済政策は、経済のグローバル化に対応した経済構造の改革を推進する立場から、付加価値の低い機能の海外流出を助長しがちであって、必ずしも地域産業政策の目的である雇用の増大につながるとは限らない。このように、産業政策、産業構造改革を推進するマクロ経済政策と、地域の雇用増大による地域住民の豊かな生活の実現を目指す地域産業政策との間にギャップが生じつつある。

(4)集積メリットの再構築

-固定化された集積メリットを支える調整能力の変革が求められている-

地域産業は、専門分野に特化した多数の企業が集積することで、各工程間の分業体制を構築し、集積全体として高い付加価値の製品を市場に提供してきた。このような工程間分業を成立させるには、工程間の調整能力が不可欠の要素である。従来は産地問屋や大企業等がその役割を担っており、企業間の協力・連携も固定化されたものであった。しかし、機能の改良を超えた新しい製品開発や新分野への進出を実現するためには、柔軟かつ水平的な新しいネットワークを構築し、地域内に存在する各企業が有する個々の技術やノウハウを組み合わせることが重要である。このように、地域では新しいネットワークを構築できる調整能力を有するコーディネイト機能が求められている。また、地域の枠を超えて他の企業や大学、研究開発機関との連携を図ることの重要性も高まっている。

ハ)地域産業政策のあり方を巡るいくつかの論点

このような点を踏まえ、フットルース時代における地域産業政策のあり方を考えるいくつかの論点を整理すると、以下の通りである。

(1)新しい産業集積のあり方と地域産業政策の視点
・ 地域における集積の評価と再構築の方向性(図表1)
・ 地域の枠を越えた広域ネットワーク型集積の必要性
・ 企業の新しい立地行動や産業創造活動に即した立地環境
・ 産業集積全体の活性化から脱却した、個々の企業への着目

(2)施策展開のあり方
・ 地域が培ってきた産業集積、支援機能集積、都市機能集積等の産業創造インキュベーターとしての再構築と活用
・ 企業の産業創造活動、コンソーシアム活動、ネットワーク活動が活発化するような仕掛けづくり

(3)産業振興施策の変遷と新しい国の施策
・ これまでの産業集積の活性化施策や地方の産業立地政策の評価
・ 国の新しい施策を地域が活用する方法、考え方(図表2)
・ 産業政策における地方分権の推進
・ マクロ経済政策と地域政策のギャップを埋めるコンセプト

2)基調講演-1産業空洞化を乗りこえる地域産業政策のあり方(黒岩理氏)

イ)産業空洞化の概念

製造業の海外生産比率は、85年度には3.4%であったものが、90年度には6.4%になり、95年度には10%に達したものと予測される。このような企業の海外事業活動の展開が国内に与える影響は、国内生産について2.8兆円の減少、雇用に対しては11万人の減少となって表れている(いずれも85年度と95年度との比較)。

また、企業の開業、廃業率をみると、かつては、開業率が廃業率を相当上回る状況が続いていたが、91年から94年までは開業率4.6%に対して、廃業率は4.7%となり、逆転した。民間における研究開発投資も、海外活動の増大等によって、91年度の9.7兆円から94年度には9.0兆円まで減少しており、憂慮すべき状況となっている。

ロ)地域産業政策の定義と評価の視点

地域産業政策を定義づけるとすると、地域住民の雇用量の確保と質の向上を目的とした一連の施策と表現するのが最も適切である。その成果を雇用の質に着目して評価すると、工業出荷額ではなく、付加価値額で評価する必要がある。例えば、テクノポリス地域となっている岩手県北上地域では、工業出荷額では大幅に増加したものの、原材料や部品を購入して安価な労働力を活用してアセンブルする生産構造であったため、付加価値額はあまり増加しなかった。工業出荷額に対応する雇用の量では成果は上がっているが、安価な労働力に依存した生産構造であったため雇用の質が向上せず、反省すべき点となっている。

また、経営者の視点では企業の利益額で成果をみることが重要であるが、雇用の量と質の観点に立てば、付加価値額が重要である。

ハ)地域産業政策が目指すべき方向

(1)企業誘致

地域産業の活性化については、即効性やインパクトの大きさから、企業誘致が最も効果が大きい。特に、地方圏で若者が流出しているような地域では企業誘致は重要である。産業界の全体の趨勢として海外立地が指向されているが、国内での企業立地がなくなることはない。力があって国内生産でやっていける企業は多数存在する。

また、消費地をにらんで市場の近くに生産基地をつくる動きが強まっている。人材の面でも、消費者への対応等に工夫しながらモノをつくっていこうという場合、そのための技能や労働力は日本でなければと考えている経営者は多い。さらに、基盤技術集積のない海外では、すぐに試作をするということができない。わが国には基盤的技術を有する産業集積があるということが重要である。

企業誘致を成功させるには、トップセールスも大切であるが、従業員の生活環境づくり、大学との共同研究をやれる環境づくり、下請企業ネットワークをつくっていく等のサポートを、自治体サービスとして行うことを目指すべきである。

わが国は市場、人材、基盤産業集積という点で、企業立地の優位性は未だ失われてはいない。しかし、この3つの強みのうち、市場はなくなることはないが、人材と基盤産業集積は失われてしまい、メリットが発揮できなくなるおそれもある。

(2)新産業の創造

次にあげられるのは、新産業の創造である。地域の中で新しい商品が出てきて、新しい産業となっていくということは、地域産業政策の重要なポイントである。そのためには、まず、域内産業の活性化に向けた広い意味での事業環境の改善が重要である。

事業環境の改善については、規制緩和、社会資本整備等、多くは国レベルの問題であるが、ワンストップ・サービス等行政窓口の総合化や、連絡強化等が必要である。また、道路整備等も、自治体が戦略をもって実施していく姿勢が重要である。例えば、岩手県では県単独事業で高規格道路をつくり、企業立地が伸びたという経験がある。

企業相手の行政にも、サービス精神が重要である。また、成功はさらなる成功のもとである。産業支援センターを強化・拡充することで良い結果が出た場合は、さらにニーズが存在するようであれば、もっとやってみるべきである。研究開発で1つのテーマで成功したら、さらにその周辺に成功の芽がないかどうか探していくことが必要と思われる。

研究開発については、これまでの例をみると、他人のできないレベルの高いことを行っても、すぐには産業化に結びつかない。むしろ、他人の気がつかないアイデアを拾っていく姿勢が大切である。また、研究開発に失敗しても、それをやったという経験が企業に残すものは大きい。研究開発に対する助成の対象を探すために、いろいろなアプローチを工夫することも必要であるが、芽となるものを経営者がもっていることも多く、経営者へのアプローチは大切といえよう。また、公設試験研究機関、大学、専門学校の先生も芽を持っているので、県等、行政の担当者としては、地元の大学の先生が何を研究しているのかは知っていることが必要である。

公設試験研究機関については、工業技術センターといった形で研究機能を中心に集約化、高度化を目指す向きが多いが、研究機能もさることながら、企業の身近な存在として、指導や試験等がおろそかになっている懸念がある。

インキュベーターや貸工場については、初期投資を軽減する効果を持つが、自治体が設置するインキュベーターや貸工場は、そこに入居している企業の信用力を高める効果もある。また、大学との共同研究の期待もある。

一方、ベンチャー育成支援は重要だが、マニュアルはない。

ニ)国の支援策

国の支援施策としては、中核工業団地の整備、研究開発への補助、ベンチャービジネスの育成、テクノポリス等のモデル事業等がある。このうち、中核工業団地については地域振興整備公団を活用して整備しているが、条件のあまり良くないと思われるところが多いにもかかわらず、90%くらい埋まっている。テクノポリス地域についても、付加価値額等は他の地域よりも増加しており、地域がいろいろ工夫した成果が表れていると思われる。

研究開発への補助金等については、中小企業庁等を中心とした支援施策があるが、最近では、地域の大学が入って行う研究支援制度を大幅に拡充している。また、ベンチャーの育成については、中小企業事業団も参加し各県にベンチャー財団が設立されてきたほか、個人投資家に対しても、過去の損失を相殺できる制度を導入する等、力を入れてきている。

こうしたなかで、新しい施策として特定産業集積活性化対策がある。中小企業の集まりである産業集積は日本の強みである。そこで、新産業の創出につながるものづくり基盤としての産業集積の確保と活用に向けて、現国会に新しい法案を提出しているところである。

この新しい施策の特徴は、解釈面で非常に柔軟性のある施策として打ち出したことにあり、いろいろなことができるようになっている。新しい施策では、まず地元の各自治体で支援施策を考えてもらう。そして、そのなかで、国の支援を得なければやれないような大きなプロジェクトについては、国が支援していくというものである。いろいろな支援施策やプロジェクトを地域がまず考えることが必要であり、通産省としても地域の相談に乗っていきたいと考えている。

(今国会に提出中の法案については、図表2を参照)

3)基調講演-2空洞化克服の課題と地域産業集積の新しい育成策(田口芳明氏)

イ)産業再配置政策と実態との乖離

これまで、わが国では大都市から地方圏への産業再配置が推進されてきた。これについては、大都市の側にもかつては迷いがあった。しかし、今では、大都市圏に集積した工業を国土全体に分散させることには問題がある。大都市圏がもつ産業集積を確保し、さらに新しい産業集積につくり変えて行かねばならないという認識が高まっている。産業再配置の流れを修正するのに30年を要したということができよう。

この正月の新聞日本経済を外から見ればという特集シリーズがあったが、このなかで、中国の国家計画委員会の王建氏が中国でも日本型産業発展を指向し、9大都市圏をつくった日本のように、2025年までに25個の都市圏をつくりたいと述べていた。このように、大都市圏の集積は産業発展にとっても非常に重要だという認識をもっている。

ロ)わが国工業の特異性

わが国の大都市圏工業の構成も、また特徴的である。大都市圏の国際比較を行うと、日本の大都市では2割程度が製造業に従事しているが、ニューヨークをみると製造業は淘汰されてしまい、すでに1割を切っている。しかも、その3分の2は印刷やアパレル等の都市型産業である。これと比べて、わが国の大都市では機械金属部門や軽工業がかなり残っている。つまり、まだフルセット的な構造が残っているということができる。例えば、大都市には強力な産業が集積しているという点については、大阪府が白書を出しているので、是非これを見て欲しい。

こうしたわが国の産業集積がどうなるのか、消え去るとみるのか、消えがたいものとみるのかが問題である。これについて、やはり外国人がどう考えているかをみると、マレーシアの研究所の責任者が、日本が情報面でリーダーシップをとるのは無理である。しかし、工業の高質化の面でリーダーシップを発揮してもらいたいといっている。日本を見る目は、ASEAN等、外からの方が公平であろう。頼るべきところを頼ろうという視点に立って発言しているASEANのこうした見方は、正鵠を得ていると思われる。

このように、わが国の工業集積は大きな強みであり、また世界はわが国の工業に対して期待していることがうかがえる。裏返して考えれば、わが国の工業集積は国際公共財ともいうべきものといえよう。しかし、何もやらなければ、アメリカのニューヨークで起こったことは日本でも起きる。

ハ)在来型都市型産業集積の一体何が危機なのか

中小企業に関しては、かつて二重構造論があった。その後、日本的経営論の中で、中小企業が経済を支えていて、それがわが国の強みになっているという主張が現れた。つまり、中小企業と大企業との一体化による強みが発揮されてきたといえる。しかしながら、この20年くらい続いてきた状況に、ついに変化が生じてきた。日本の中小企業が持っていた定位置が崩れつつあるといえるであろう。在来の地域産業集積では相当の淘汰が進んでいる。ほぼ完全雇用が崩れ、失業率もこれまでの3%程度から今後は2倍程度に増えることが予想される。

ニ)新しい都市型産業群創出のための取り組みを

企業レベルのベンチャー育成は今ブームになっている。しかし、それだけでよいのだろうか。企業レベルと並行して、産業レベルの育成策を考えていかねばならない。今までは、産業育成を大都市圏で行うのは、産業再配置のなかで思いもよらなかったという状況であったが、在来集積だけではわが国の経済的プレゼンスを保つことはできない。また、このままでは大都市圏も集積の規模を保つことはできない。

産業集積の新規創出政策はこれまで存在しなかったが、今後はシリコン・バレーのように、新しい集積の創出を考えることが必要であろう。ただし、シリコン・バレーとは異なったものとならざるを得ないが。新しい産業集積を創り出すためには、企業間の対等なネットワークや産業集積を取り巻く育成システムによって、今持っている産業集積を活性度の高いものに移行していかねばならない。そのためには、ある程度の範囲へ集中投資する、すなわち、複数のアクション・ゾーンを特定し、そこに政策を集中させることが必要だろう。

そして、高度な産業の時代においては、用地造成に偏った施策は限界がある。情報やネットワークにもっと配慮した施策が必要である。

ホ)これからの産業集積の形 これまでの集積メリットは、同業種の集積による経済効果が中心であった。しかし、これからはこれに加えて、ネットワークの利益というものも重要になってきている。つまり、単なる同業種集積だけでなく、異業種間・関連業種のネットワーキングの上に成り立つ集積が求められている。また、これからは、都市の経済の介在も必要となる。すなわち、産業間だけでなく、研究開発機能、文化機能等、都市の持つ機能とリンクした集積が求められているといえる。

もう一つの視点は、国際化した集積のあり方を求めねばならないということである。これまでの内需指向を脱却し、内需の高品質化を目指すとともに、国際分業の上に成り立つ集積としていくことが必要であろう。さらに、大幅な規制緩和のうえに、集積を新たに形成する視点も重要である。大幅な規制緩和をもとに都市内居住を推進し、新しい産業ゾーンを複数創り出すことが必要であり、このなかで、官の役割、民の役割が出てくる。官としては、受け皿の用意、ネットワーキングの支援、接触密度を高める環境づくり等を担うことが必要であり、政策も変わっていくべきである。

最後に大阪をイメージした新産業のイメージを掲げたい。通産省の有望12業種というのがあるが、大阪では環境創造、バイオ、テーマパーク、規制緩和にもとづくベイエリアでの住宅開発等を挙げることができよう。

4)パネルディスカッション

イ)パネラーからの話題提供-1(木村忠夫氏)

(1)地域産業集積に対する(財)中小企業総合研究機構の活性化支援事業

(財)中小企業総合研究機構の主要業務として、地域産業集積の活性化支援がある。産地集積の振興との関連で、当機構がどういう仕事をしているかということをまずお話ししたい。

当機構は、特定中小企業集積活性化のためにさまざまな産地支援事業を展開している。当初は活性化法担当者会議(ブロック交流会議)、活性化シンポジウム、活性化計画策定のための調査研究協力事業の3本の柱で行ってきた。また平成6年度からは、全国各地の支援機関の要望に応じて、該当分野の専門家を派遣する活性化スタッフ派遣事業と、支援機関連絡会議の2つの事業を加えた。さらに平成8年度からは、集積活性化法の中で地域産業集積の活性化を推進する主体(活性化支援機関)として明確に位置付けられている公設試験研究機関や地場産業支援センター等に関する台帳(便覧)の作成や、インターネットを活用した支援機関どうしの情報ネットワークの構築も手がけている。そして、集積地域に存在する支援機関のネットワークを構築することで、各企業の新分野進出等を促進することを目指している。

このように、当機構の地域産業支援事業は、主として特定中小企業集積活性化法(集積活性化法)の実施展開のために行われており、これとは切っても切れない関係にある。

(2)地域産業集積の活性化に向けた問題提起

次に、現場サイドから感じたことを述べたい。各種支援機関が一堂に会して意見交換するブロック交流会等で出てきた意見を集約すると、地域産業集積の活性化に向けて、次のような問題点が挙げられている。

第1に、現実をみると、都道府県が策定する活性化計画に記述された支援機関を中心とした活動にとどまっており、個別企業の新分野進出等に関する進出計画、円滑化計画がなかなか具体化しないということが挙げられる。集積活性化法に基づく活性化計画の承認地域は、96年度までで94地域に及んでいるが、このうち進出計画があるのは34地域にすぎない。それは、支援施策が手薄なことが原因と考えている。つまり、政策融資において担保要求がきついために動かないという声が多い。無担保保証枠のようなものが新集積法では検討されているので、期待したい。また、手続きが煩雑なことも問題となっており、当機構では進出計画ガイドブックをつくる作業を進めている。

第2は販売面の問題である。当機構では支援機関の活性化支援事業を支援しているが、そうした中で技術開発、新商品企画、情報化、人材育成・研修、およびマーケティング・販売促進などを進めている。ただ、新商品開発の結果は出てきているものの、なかなか浸透しない、売れないということが問題となっている。これに対して、事業化促進にせよ、販売促進にせよ、どのようなことをしていくかが問題である。個別企業の商売ベースの話になると純粋民間の話かもしれないが、その前段階の試作・普及段階あたりの話は支援可能と思われる。例えば、展示会やインターネットでの情報発信やネットワークの構築が求められている。また、人材育成の要望も出されている。そもそも企画段階での売れる商品づくりをしなければならない。

第3は、いわゆるリストラ法創造法等の様々な支援施策があるなかで、集積活性化法は、活性化計画をつくって、そのなかで進出計画や円滑化計画等を策定するなど、手間がかかる。一方、リストラ法は売り上げ減少要件があり、売り上げの減少が足りないために施策の対象とならないという若干皮肉なことが生じている。しかし、集積活性化法についてはそういう要件はない。むしろ、伸びている、元気な企業を応援していく、つまり、進出計画を実施する企業を核に集積・産地全体を引っ張ってもらうことを期待している。中小企業近代化審議会でも、集積の活性化を図るためにはイノベーター企業いわゆる革新的中小企業の役割を非常に評価している。これを核にしていくことが大きなポイントになっている。

第4に挙げられるのは、ブロック交流会を通じて、市町村の役割が重要だという指摘が多いことである。活性化計画は県がつくって通産大臣が承認することになっているが、集積の活性化を進めるうえで基礎自治体をどう考えるかは重要である。当機構としては、地元意見交換会で市の参加をいただいたり、情報誌を市町村に配布するなどの活動を行っている。

(3)これからの施策展開の視点 次に、調査研究協力事業や地元意見交換会のなかで印象に残った議論を中心に、施策展開の視点を整理してみたい。

第1は、産地集積と企業との関係である。集積活性化法においては、活性化を図る直接の対象は産地集積であるが、究極の目標は個別の中小企業の発展と、国民経済の発展である。この両者は通常は一致するが、一致しないケースもある。交通情報通信の発展は企業の行動範囲を広げ、企業が産地の枠を超えた取引や活動が増える。何から何まで産地内取引にこだわるのはおかしい。せっかくある集積のメリットが発揮されていないとすれば、いかにしてこれを十分発揮させ、どのように企業の発展に結びつけていくかという視点が重要である。

第2は、産地は転換しながら発展する場合が多いということを十分に認識することである。例えば、昨年12月、三条市で機械業種別会議を開催した際の印象であるが、機械産業の集積地をみると、もとは繊維産地であったところが多い。主力産業であった繊維が衰退しても、新しい機械産業が発展するというケースをどのように捉えるかは大切な視点である。産地の枠組み、人材、インフラなどがかなり貴重なものであり、これを活用しつつ、産地として転換・発展していくことが重要である。

第3は、空洞化・下請け系列取引の動向がどうかという点である。先の機械業種別会議の印象とすると、これについてはそうとうばらつきがあるという気がした。企業城下町的なところは、親企業が海外に出て空洞化し、下請け系列関係が崩れている。そこで、中小企業間のネットワークをつくっていくという動きがかなり出てきている。逆に地域中小企業が歴史的に集積をつくってきているところは、空洞化による下請け系列取引の変化は少ない。

このように実態は様々であり、それを踏まえた施策展開が求められる。すなわち、大企業中心の企業城下町型の産業集積と、それ以外の産業集積との差異を踏まえた政策展開が必要である。大企業の下請けとしての中小企業集積地域では、従来型の中小企業施策を充実することの有効性は極めて高い。しかし、多様な業種や規模の集積した都市型の産業集積では、中堅企業の中からイノベーター企業が現れることが期待される。したがって、中小企業施策の実施対象そのものを再検討することも必要である。

第4は、中小企業と地域・都市との関わりである。これまでの施策は、個別中小企業を対象に、主としてその設備投資を支援するところにポイントがあった。せいぜいその対象を組合などに広げるのが限度であった。しかし、幅広く産業インフラ、地域インフラの整備までやらないと、中小企業の集積の維持、発展はできないと思う。今回の特定産業集積活性化法(新集積法)ではこの趣旨が入っていると聞いているので、大いに期待している。すでにファッションタウン構想などの例もあるので、参考となるだろう。

ロ)パネラーからの話題提供-2(木村潤一氏)

(1)東大阪市の産業集積の特徴と産業政策の位置づけ

東大阪市は人口約52万人、約8,900の工場数を誇る産業都市であるが、約8,900の工場のうち99%は中小企業であり、中小企業の街となっている。また、税収関係から中小企業の東大阪市における位置づけをみると、95年度の法人市民税の43%は製造業関係事業所からの徴収であり、市内中小製造業の活性化が財政規模、ひいては市民サービスの水準を規定しているといえる。また、市民の4人に1人は市内の工場に勤務しており、市内製造業の活性化は市民生活に直結した課題である。したがって、東大阪市役所は都市経営としての産業振興の重要性を踏まえた政策展開を実行している。

東大阪市の中小企業は、数社の大企業を中心とした企業城下町型とは異なり、ニッチ市場をターゲットに一定のシェアを有する中堅企業が100社以上存在し、これら中堅企業を核とした小さなピラミッド型が複数存在し、これらの小さなピラミッド間での重複した取引が成されている。また、業種的にも機械・金属系の業種が多いものの、東京都大田区とは異なり、プラスチック成形や印刷等の生活関連型業種も多数存在し、特定の業種に特化していない。

(2)産業政策の重点

市の産業振興政策としては、このような東大阪市の製造業が持つ特徴を踏まえ、以下の3点を中心に進めている。第1は、公的金融の充実である。国や大阪府の制度融資に加え、市単独の制度融資を拡充することで、資金ニーズの補完、拡充を図っている。

第2は営業支援である。企業情報のデーターベース等を整備し、取引交流会や情報発信と連携させることで、市内企業の取引拡大を支援している。ネットワーク型企業への転換を基礎自治体として支援している。

第3は技術支援である。大阪府立産業技術総合研究所の跡地に、市立産業技術支援センターを97年4月オープンに向けて整備中である。最先端の研究開発を実施する府立産業技術総合研究所と役割を分担し、市立産業技術支援センターでは、市内中小企業の身近な技術相談等を地域密着型で実施することが狙いである。

(3)第1回中小企業都市サミット

一方、全国の中小企業集積都市の首長と商工会議所の会頭(支部長)が一堂に会する第1回中小企業都市サミットを97年5月に東大阪市内で開催する。全国の中小企業都市が連携することで、広域的な企業間ネットワークを形成するきっかけとなることを期待している。同時に、サミットに併設して中小企業フェア・イン・東大阪と中小企業都市異業種グループ交流大会等も開催されるため、広域的な企業間交流が具体化する可能性は高い。

また、地域産業政策の主体は、地方自治法では都道府県とされており、市町村はなんら規定されていない。したがって、中小企業都市サミットでは、基礎自治体が産業政策に取り組む方向性等を探ることも重要な課題となっている。

ハ)討議

(司会)

ここまでの議論やフロアーからの質問を踏まえると、論点を以下の4つに整理することが可能である。

(1) 集積のあり方(従来とは異なる集積とは何か、シリコンバレーモデルと日本の新しい集積のあり方とはどう違うか)

(2) 地域産業政策の方向性(企業誘致をどう捉えるか、伸びる企業をいかに支援するか)

(3) 官民の役割分担、官のなかでの国、都道府県、市町村の役割(特に、これまで明確な位置づけのなかった基礎自治体の役割は何か)

(4) これからの具体的な施策(市場開拓の支援等、これまで取り組んでこなかった分野をどうするか、どこまでが地域産業政策の範囲か)

第1の論点については田口教授に、第2の論点は黒岩室長に、第3の論点は木村常務理事に、第4の論点は木村主幹にそれぞれコメントをお願いしたい。

(田口芳明氏)

アメリカ合衆国のシリコンバレーモデルと、日本の産業集積の望ましい姿は、かなり性格が異なっている。その理由は、日本の産業集積がローテクを含めた集積であり、複合的かつ雑多な性格を併せ持ったものであることに起因している。日本の産業集積は長い歴史を引きずっているため、シリコンバレーとは異なり、安定した経済関係を構築している。

新しい産業を生み出す新しいネットワークは、企業間の新しい接触機会を高めることで構築される。しかし、例えば卸商や商社を介して安定したネットワークを構築している日本の中小企業が、自ら新しいネットワークを構築する必要性は低く、自ずと既存のネットワークをいかに改良するかを志向することになる。既存のしがらみがないシリコンバレーでは、大学を中心に新しいネットワークが形成されたが、安定した経済関係を構築済みの日本の産業集積にシリコンバレーモデルを持ち込むのは無理がある。

(黒岩理氏)

企業誘致も重要であるとの論点を提示した背景として、地域産業政策の定義が重要である。地域産業政策とは、地域における雇用の創出政策と考えている。雇用の量に着目した場合、地域資源を活用した内発的な発展のみを支援しても、1,000人を超えるような雇用創出は困難である。企業の国際展開は今後も進展するが、国内での企業立地ニーズが無くなるわけではない。したがって、地域産業政策の目的を実行するには、雇用の量を増大させる企業誘致も忘れてはならない重要なテーマである。

また、雇用の質に関しては、ある程度の集積が形成されれば、研究開発、新しいアイデアを生み出すこと、従業員の工夫を引き出すこと、等に目を向けていくことである。

一方、今回の特定産業集積活性化法では様々な支援メニューを提示しているが、通産省の基本スタンスとしては、活性化計画を策定することよりも、むしろ地元自治体が要望するプロジェクトを最大限反映した支援を講じる予定である。したがって、各地域が希望する事業については、極力希望通り実行できるように支援していきたい。

(木村忠夫氏)

地域に集積が形成されていることは、すなわち地域が技術的ポテンシャルを有していることを意味している。したがって、技術ポテンシャルと市場ニーズをいかにに結びつけるかが重要であり、そのためには市場ニーズに敏感に反応するイノベーター企業を中心に新しいネットワークを形成する必要がある。問題は、イノベーター企業をいかにして育成するかである。

その際、イノベーター企業になれそうな企業を発掘し、積極的に支援することが基礎自治体の役割である。したがって、地域産業全体の底上げに対する支援と、元気な個別企業への支援は、二律背反ではなく同時進行するものである。イノベーター企業の育成を中心とした地域産業政策を基礎自治体が展開することが、結果としての地域全体の底上げにつながるといえる。

(木村潤一氏)

行政の公的支援として、従来は仕組みづくりや業界団体への支援、場の提供等が実行されてきたが、個々の企業のビジネスへの支援は一部先進的な研究開発への助成を除いては実施されていなかった。しかし、都市政策として産業振興を考えると、公平性を確保していれば、個別企業への営業支援まで踏み込むことで、支援の効果を高めることができる。

例えば、東大阪市では市内製造業者約2,000社のデータを市役所と商工会議所が共同で冊子もうかりメッセ東大阪にまとめ、全国の主要企業約3,000社に配布した。また、トップシェアを誇る市内企業約100社についてもいちばん鑑東大阪として同様にまとめ、配布した。このような行政の動きは、市内企業のイメージアップに役立っており、情報発信力の弱い中小企業の営業を側面から支援している。

したがって、基礎自治体であるからこそ、都市政策としての産業政策の重要性を勘案し、個別企業の営業を支援することが重要である。

(司会)

各論点に対するコメントを頂いたが、本シンポジウムのテーマでもある集積メリットの再構築に関してコメントをお願いしたい。

(田口芳明氏)

集積メリットの再構築を考える際に、現在の集積活性化法では、既存の産業集積をベースに指定業種が単位面積に何工場集積しているかという視点で地域指定してきた。しかし、この地域指定の基本にあるこの集積地域に持ち込めば、何でもたちどころに完成するといった集積の強みに対する認識が、今後の産業集積を考えるにあたっても有効か否かは、ケースバイケースである。

安定した経済関係を構築している既存の産業集積に対して、新しいネットワークを構築することで地域産業を活性化するのであれば、むしろ集積の現状をベースに地域指定するよりも、国際的にみてもユニークな産業集積を地域自らの手で創り上げることが重要である。そのためには、産業分野や地域の範囲を明確化し、新しい産業集積を形成するための新しい企業ネットワークをコーディネイトする仕組みが必要である。産業集積メリットの再構築を目指した地域産業政策とは、現状追認型の政策からコーディネイト機能を中心とした未来創造型の政策への転換である。

その際、個別企業には量産型のものづくりシステムからの多品種少量型のものづくりシステムへの転換が求められる。技術面での問題点は解決可能であるが、大企業を中心とした社会システムを維持したままでは多品種少量型生産は困難であり、社会システムとしての転換をいかに図るかが求められる。

(木村忠夫氏)

新しい集積のあり方、再構築のしかたという点については、従来の集積は高度成長期において量産型システムが形成されたのだと思う。今まではこれでよかったが、これからは変わる必要があるということだと思う。具体的に、高級化・高付加価値化、ユーザー・消費者ニーズへの即応ということがポイントであり、このため、新商品開発・マーケティング重視が課題となる。この観点から3点ほど述べておきたい。

第1に、製品開発力・販売力の強化ならびに情報収集力の強化が求められる。ここでは、イノベーターを中心とした製品開発体制、販売体制の構築が重要な課題となる。第2点は、効率的なクイックレスポンス(QR)、多品種少ロット生産体制の構築である。しかし、これについて現場サイドで対応するということは容易でない。産地ぐるみでの対応も重要である。

第3点目は、公的機関の支援体制の強化である。集積活性化法では指定支援機関制度があり、施策を推進していくうえでの強力な要素である。支援機関の広域ネットワークを構築し、さらには地域においては支援機関を核としたイノベーター企業の育成を中心とした各種政策の総合的展開をはかることが重要である。特定産業集積活性化法(新集積法)でも同様の仕組みが考えられていると思うので、期待していきたい。

さらに、ファッションタウン構想などにおいて、まちづくりと一体となった産業振興が推進されつつある。今回の新集積法では、さまざまな施策展開が可能であり、先ほどの黒岩室長からの発言にもあったように、地元の熱意を汲み上げるスキームである。したがって、今こそ地域産業政策を国、都道府県、市町村、支援機関などが連携して実行することが求められている。

3.終わりに-今後の課題

以上のシンポジウムの結果をまとめると、次のような点が特徴的であったということができよう。

まず、地域産業政策の意義としては、国の講師から地域に於ける雇用、基礎自治体のパネラーからは都市経営という視点が提示されたが、いずれについても、マクロ産業政策だけでなく、地域の視点というものが大きく意識されていることがわかる。また、マクロ的な国土レベルの産業再配置政策の流れに対して、フルセット的な性格をもつ都市の産業集積を維持し、さらに新しい産業集積に衣替えをしていくべきであるという意見が強かったのも特徴的であった。地域産業政策という場合には、企業誘致も含め、地域の雇用確保の観点から総合的に推進することが重要であることが強調されたのは、ともすればベンチャービジネスや新産業創造という新しい視点に目を奪われがちな状況のもとで、むしろ新鮮に思われた。

目指すべき産業集積の姿、新しい集積に転換させるための具体的な方策等については、時間の制約もあり、論議を尽くすまでには至らなかった。しかし、地域の枠にとらわれないワールドワイドなネットワーク型活動を包含した地域産業集積が重要であること、地域のリーダーとなり得る中核的企業を育てることの必要性等は、今後、地域産業の空洞化を乗り越える上で具体的に検討しなければならない大きな点である。また、企業に対する支援を進めるに当たって、民間企業との距離の取り方というものも、具体的な施策の検討に当たって重要な問題といえる。

このような地域産業政策の具体的な点については今後さらに検討を深めていく必要があるが、全体を通して最も重要といえることは、次の2点であろう。

第1は、地域の特性に合った取り組みが必要であること、それ故に、地域の主体性の発揮や創意工夫が不可欠になっているという点である。国の新しい施策である特定産業集積活性化法でも、地域が考えた施策に対して支援をしていこうという姿勢に大きな特徴がみられる。地域としては、この新法をいかに活用していくかが当面の課題であるが、コンソーシアム活動の活性化のために何をするか、産業プラットフォームの考え方をいかに具体化するか、広域ネットワーク形成の支援やリーダー企業の育成等をどう具体的に進めるか等が地域の実情にそって検討されなければならない。これは、大きくは地方主権にもつながる問題もいうことができよう。

第2は、これまで産業政策の担当主体としての位置づけがなかった基礎自治体が何をするべきかということである。特に、これまでの組合等を対象とする支援施策と異なり、企業単位の活動を支援していくなかでどこまで踏み込むかという点、およびどのように県や国と連携を進めるかという点が大きな課題となっている。

当研究所としても、これを機に、産業空洞化を超えた地域産業政策に関する具体的な議論を進めていきたい。
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