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Business & Economic Review 1999年11月号

【論文】
地方自治体の主体的な債務管理のあり方

1999年10月25日 調査部 高坂晶子


要約

近年、急伸する地方の借入金に対して、社会の関心が高まっている。公債費など経常経費が増嵩して財政の硬直化が進むなか、住民の間では行政サービスの切り捨て懸念など地方の財政運営に対する不安感が深刻である。また、地方債を引き受ける公社債市場においても、従来問題視してこなかった地方債の信用度を見直す動きが強まっている。

90年代入り後、抑制基調であった国債の発行を補う形で、大量の地方債が発行された結果、地方債に公営企業債残高(普通会計負担分)、交付税特別会計からの借入金を含めた地方自治体の長期借入金残高は、99年度末で176兆円に達する見込みである。その内容をみると、事業収益で償還を進める公営企業債の比率が低下する一方、公共事業目的の起債が急増している。また、減税対策や税収補填のための特例的な地方債も増加中である。

公共事業を目的に大量の地方債が増発された背景には、国と地方の財政が密接な関係を持ち、地方財政の協力なくして景気対策が実行できない事情がある。密接な国と地方の財政関係は、自治体が自らの責任と負担において事業を決定のうえ資金を調達する自由を制約し、自治体の財政規律を損なう。すなわち、自治体は、起債許可制度によって自主的な資金調達の道を閉ざされ、地方債と交付税・補助金の一体化によって、国の政策誘導に従った事業の選定を強いられている。

一方、地方債制度をめぐる環境に変化の兆しが表れている。2006年度から、地方債許可制度は協議制度へと移行し、政府資金を利用する場合に限り国の同意が必要となる。また、市場が国、地方に共通する財政危機への懸念等を理由に、地方債の信用度を見直し、格付けする動きが出てくるなど、地方債は市場化の波にさらされつつある。

今後、地方への権限移譲が進むなか、自治体の自己決定と自己責任が求められているが、これは債務管理においても例外ではない。自治体は財政規律を回復しつつ、市場への対応力を強化し、主体的な債務管理を行うことが求められる。そのためには、内部管理、地域社会、市場の3つのメカニズムを導入し、重層的なチェックと管理の体制を整える必要がある。内部管理の改革として、(1)国の政策誘導の排除、(2)債務管理のインフラとしての会計制度の抜本的見直し、(3)自主起債を管理する一般的枠組みの構築、が必要である。また、地域社会による自治的メカニズムとしては、(1)地方議会の審議や住民投票による起債統制の導入、(2)市民による地方債の個人消化の推進等が考えられる。さらに、市場における地方債取引の円滑化のためには、(1)発行ロットの大型化、償還年限の多様化など地方債の商品性の向上、(2)金利動向を踏まえた起債時期の決定や償還負担の軽減など、財務の専門家を活用した債務管理体制の整備、(3)IR(投資家に対する広報体制)の強化、等が求められる。

自治体はこれらの措置を早急に講じて、意識改革と債務管理体制の整備を進める必要がある。ただし、地方財政の自立をめざすには、それだけでは決して十分でなく、自治体の財政自主権を阻む補助金、交付金の縮減と地方への税源移譲が必要である。自治体にとって自前の財源を強化し、地域経営に必要な資金の多くをカバーできる仕組みを構築することは、きわめて重要である。今後は、自治体の努力が報われたり、地域住民が税負担と行政サービスの関係を理解しやすくするなど、地方自治の深化に資する地方財政のあり方について、徹底した検討が求められる。
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