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Business & Economic Review 1999年10月号

【PERSPECTIVES】
会計基準設定主体の民営化可能性について-後援団体・ガバナンス・運営資金面からの検討

1999年09月25日 調査部 翁百合


要約

現在、わが国の会計基準設定主体は、大蔵省の企業会計審議会である。省庁再編後は、金融庁の中に審議会が位置づけられることが予定されている。

しかし、こうした審議会組織が今後わが国の会計基準設定主体でよいのか、という点については、大きく分けて2つの側面から検討する必要がある。

第1は、国際的な潮流である。国際会計基準委員会(IASC)は、昨年12月発表した報告書で、従来の起草委員会を基準開発委員会に置き換え、各国基準設定委員会の代表をこの基準開発委員会のメンバー(11名)の大半とし、ここで国際会計基準の設定を行っていくことを提案した。一方で理事会については、構成員の数は拡大するものの、従来に比べて権限を縮小することを提案していたが、さらに、最近になって、こうした二重構造自体をやめて、各国会計基準主体や会計士等からなる新設の基準設定機関(新理事会)に権限を集中することが提案されている。こうした組織改革の動きの最終的な決着は、来年5月のIASCの加盟国総会で決定されるものとみられているが、いずれにせよ、新たな基準設定主体に各国の基準設定主体からの代表が構成員として加わることは、大きな流れのように見受けられる。このような国際的な潮流の中で、果たして非常勤メンバーによる審議会組織のままで対応が十分できるのか、といった点が問題になる。国際的な潮流を機敏に読み取り、調査を十分重ねたうえで基準を策定していくうえで、兼業の非常勤メンバーによる組織よりも、常勤メンバーと専門スタッフによって構成された強力な組織が望ましいことはいうまでもない。

第2は、官民活動分担の考え方である。審議会は、所管大臣の諮問に応じて設置される行政府内の組織であるから、公的立場をとるものである。また、メンバーの選任も大臣の任命であるから、メンバーが独立性を有しているものではない。会計基準は、そもそも市場のルールであり、基準づくり自体に行政が関与すべき理由は、それほど強固なものではない。むしろ、民間でも十分対応できることは、アメリカFASB(財務会計基準審議会、ただし民間組織)の例をみても、明らかである。

もともとわが国の会計制度は、トライアングル会計とよばれ、財務会計基準が、税法上の規定や商法上の規定の影響を受けやすい状況にあった。さらに、近年の会計基準の適用をみると、例えば1998年3月に有価証券の評価方法が、金融行政の影響を受けた例(金融機関の保有する株式について低価法から原価法に変更できるという方法に弾力的に変化)もみられる。しかし、こうした配慮は、国内外の投資家・市場関係者からみれば、一貫性のないルール、実態よりも形式主義と映ってもいたしかたない面もあるように思われる。このように考えると、会計基準の設定主体は、独立した民間の主体が望ましいように思われる。

しかし、民間に衣更えする場合、最大の問題の1つは、担い手は誰であり、そのガバナンスをどう設計し、財政面でのバックアップをどうするか、であろう。わが国で、民間の会計基準設定主体を考える場合、いかなる体制を考えうるであろうか。まず、基準設定にかかわるメンバーは、公認会計士、学識経験者、企業の財務担当経験者、金融機関、投資家などであろう。また、後援団体として考えうるのは、受益者負担という考え方をとれば、会計基準という市場のルールを実際に使い、その便益を受けている主体であろう。これらをグループ分けすれば、(1)投資家といった資金供給者、(2)資金需要・調達者である企業、(3)市場仲介を行う証券会社、(4)財務諸表を監査する会計士、(5)これを評価して資金供給者に情報を提供する財務分析担当者、格付け機関、などであろう。

本稿では、こうした問題意識に立ち、歴史の長いアメリカの民間の会計基準設定を支える主体の構造や役割などを検討したうえで、日本の課題を探ることとする。
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