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Business & Economic Review 1999年07月号

【OPINION】
真にスリムで効率的な政府の実現を-求められる省庁再編法案と行政スリム化計画の見直し

1999年06月25日 調査部 湯元健治


4月27日に中央省庁再編法案と行政スリム化計画が閣議決定され、5月18日以降、内閣法改正案、国家行政組織法改正案、内閣府をはじめとする各省庁設置法案など17本の関連法案の国会審議が進められている。同法案およびスリム化計画は、(1)首相の権限強化を中心とする内閣機能の強化、(2)縦割り行政打破のための省庁再編(2001年1月より、1府12省庁体制ヘ)、(3)行政組織のスリム化(公務員数の削減、独立行政法人化など)の3点を柱とするいわば橋本行革の最大の遺産であるが、「自自公」の枠組みの中で大きな修正もなく今国会中に成立の運びとなる見通しである。

ここで重要なことは、何のためにこうした行政改革が必要なのかという原点に立ち返ることである。それは、突き詰めれば市場経済原理の浸透や経済のグローバル化の進展という環境変化のなかで、従来型の政策運営、政策決定プロセス、さらには行政・政府のあり方そのものが限界に突き当たり、問い直されているということに尽きる。その意味で、来たる21世紀に求められる政策運営の基本原則は、次の5点に集約されよう。

第1は、政策運営における市場メカニズム重視のスタンスの重要性である。マクロ経済政策について言えば、これまでの政策運営は常に小出しで市場後追い型(Too Little Too Late)となり、市場の好ましいサプライズを引き起こすどころか失望を誘ってきた面は否めない。その原因の多くは、従来型の審議会や税制調査会などによる政策決定プロセスに帰することができる。

第2に、グローバルな視野からの政策運営の重要性である。財政と金融のポリシーミックスは言うに及ばず、税制改革、産業政策などの面で国際的・総合的視点が求められるのは当然であるが、ともすれば、財政当局と金融当局、税務当局や民間産業界などの利害調整が優先されてきたきらいがある。こうした利害を超越する形での新しい政策運営スタイルが求められる。

第3に、個々の政策の必要性・期待される効果に対する事前評価や、実際に実行した政策の事後評価を行う政策評価システムの必要性である。こうしたシステムがほとんど存在しなかったことが、無駄で非効率とされるバラマキ型公共事業の野放図な拡大につながったことは言うまでもない。

第4は、政策の決定プロセスについて透明性・公平性を高めることの重要性である。官民の癒着に起因する不祥事の多発といった出来事は、政策決定が官僚の裁量行政に負う部分が多く、著しく政策の透明性や公平性を欠いていたことに帰着する。その意味で、行政改革の最大の眼目は裁量行政を排し、政治主導の政策決定プロセスを確立することにあるといえる。

第5は、国家としての政策の総合性や戦略性の重要性である。行政改革を始めとする各種の構造改革が総論賛成・各論反対で遅々として進まないのは、国家としての戦略的な政策立案・実行機関が存在しないためである。経済戦略会議や産業競争力会議の創設は、従来型政策決定プロセスとは一線を画した新たな政治主導のプロセス導入の試みとして評価できるが、その実効性は首相自身のリーダーシップに依存する面が極めて強い。

以上のような観点から、今回の中央省庁再編法案や行政スリム化計画を評価してみると、それなりに評価できる点がある一方で、依然として多くの問題点、課題を指摘できる。

まず最も評価できる点は、各省庁の所掌事務を規定する省庁設置法案に関して、各省庁の「権限規定」が撤廃され、「任務規定」に置き換えられたことである。これによって官僚による裁量行政の根拠が完全に失われたわけであり、政策決定の透明度が格段に向上しよう。今般成立した情報公開法や導入が予定されているパブリックコメント制度を活用していくことによって、その実効性がさらに高まるものと期待される。また、政府委員制度を廃止し23人の副大臣と27人の政務官を各省庁に配置するといったことや、首相補佐官数の増加、内閣官房、内閣府スタッフの一部を首相の直接選任としたり、専門知識のある民間人の登用に道を開いたことも政治のリーダーシップを高めるうえで評価に値する。もちろん、政治家が官僚に取り込まれないためには政治家自身の資質が問われる訳で、形式的に政治の役割が高まるだけでは意味をなさないことは、肝に銘じる必要がある。

他方、今回の法案・計画によって、新時代に相応しい政策運営や真にスリムで効率的な政府が実現できるかどうかは不透明である。とくに以下の4点については、法案の再修正や政令での明確な規定が必要となってこよう。

第1は、内閣府の中に設置される「経済財政諮問会議」を国家としての総合的かつ戦略的なマクロ経済政策の立案・実行機関として明確に位置づけることである。法案では、経済財政政策の基本方針の原案は予算編成方針も含めて「経済財政諮問会議」が作成することとなっているが、他方で、内閣官房が政権の基本施策の企画・立案と総合調整を担うとされている。しかし、このままでは内閣宮房のスタッフ役となる企画調整室(現内閣内政審議室が母体)と経済財政諮問会議の事務局(現経済企画庁が母体)との関係が不明瞭であり、実質的には財務省-内閣官房企画調整室のラインで予算編成の基本方針が立てられるという現在と大差ない構図が温存される可能性もある。現在のような難局に直面するなかで、各省庁や政治の利害にとらわれず、大胆な構造改革や機動的な政策運営を果断に実行していくには、経済財政諮問会議をアメリカのCEA(大統領経済諮問委員会)と同様に位置づけ、内閣官房との二重プロセスを排除していくことが重要である。

第2に、官僚主導色を薄め、政治主導の政策決定プロセスを確立するためには、内閣機能の強化、とりわけ内閣総理大臣の閣議での発議権の明確化を図ることは当然に必要であるが、他方で「利権国家」の色彩が強まらないようなメカニズムをビルトインすることが重要である。そのためには、省庁の再編だけでは十分と言えず、(1)局長級の高級官僚にポリティカル・アポインティーの形で民間人を積極的に登用していく、(2)国土交通省が巨大な利権官庁にならないためにも、省内の各部局や地方の出先機関の統合を進め縦割りのシステムを是正していく、(3)第三者による中立的な政策評価機関を創設することによって政策の透明性を一層高める、などの借置が不可欠である。とくに、政策評価に関しては現在想定されているような自前のチェックでは到底不十分である。「政策評価法」といった新しい法制の整備とともに、総務省内に民間人主体の評価機関を創設し、民による官のガバナンスを強化すべきである。

第3は、金融行政を担う主体を明確化することである。「財金分離」が政争の具となった結果、金融行政は金融機関の検査・監督と国内金融制度の企画・立案を金融庁(2000年7月発足)が担う一方、破綻処理や金融危機管理の企画・立案は、財務省と金融庁の共管という極めて曖昧な形になってしまった。2001年1月からは金融再生委員会が廃止され、内閣府に首相を議長とする「金融危機対応会議」(日銀総裁、金融庁長官もメンバー)が発足することになるが、首相のリーダーシップが強まることは望ましい半面、関連省庁の責任と権限が不明確となる分散型システムが有効に機能する保証はない。金融行政は、金融庁を2000年7月を待たずに前倒しで発足させ、危機管理対応も含めて一刻も早く同庁に一元化する必要がある。

第4は、真にスリムで効率的な政府を実現するために、特殊法人の独立行政法人化・民営化への条件・基準を明確に示し、5年以内に統廃合、非公務員型の独立行政法人化、民営化移行の判断を下すべく中期移行計画を打ち立てる必要がある。まず、その大前提として特殊法人等に関わる公会計制度に企業会計原則を導入することが急務である。今回の行政スリム化計画では、廃止されるのが北海道開発庁建設機械工作所だけであり、民営化移行も食料検査、アルコール専売などごく一部に止まっている。独立行政法人化についても90機関・業務と数のうえでは相当数に上るとはいえ、非公務員型はわずか4機関に過ぎないし、期待された国立大学の独立行政法人化の検討時期は2003年に先送りされるなど、本格的な特殊法人改革は事実上見送りとなったと言っても過言ではない。確かに、国家公務員数や官房・局・課室の数を10年間で25%の削減、審議会の数は概ね3分の1に削減するという方向性が打ち出されているが、こうした数値目標はともすれば、真の行革の阻害要因ともなりかねない。重要なことは数合わせではなく、肥大化している行政機能をスリム化・効率化し、必要最小限の機能に集約することである。その際、中央だけでなく地方行政のスリム化の実現を担保する仕組みを盛り込むことも喫緊の課題である。

現在求められていることは、国民にとって透明で公正な納得性の高い政策決定プロセスを確立すると同時に、民間へのアウトソーシングを通じた新たなビジネス・フロンティアの拡大や経済全体の資源配分の効率化につながる本当の意味での行政改革を行うことである。その意味で、今回の省庁再編や行政スリム化は、行革の終わりでは決してなく、霞が関が乗れる線でスタートしたという意味で最初の一歩を踏み出したに過ぎない。小渕首相は、官の担うべき領域の明確化という行革本来の意義を見失うことなく、省庁の利害や官僚・政治家の利害を超えて、今こそ大胆な改革の実行にリーダーシップを発揮すべきである。
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