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Business & Economic Review 2000年07月号

【論文】
郵便貯金を巡る最近の動きと将来像-わが国の金融システムに郵便貯金をどう位置づけるか

2000年06月25日 調査部 翁百合


要約

郵便貯金は、技術革新と市場型間接金融の発展という大きな流れの中で、決済サービスの拡充や金融商品の販売といった方向でその業務の重点をシフトしている。来年度以降は、全額自主運用の段階的移行が始まり、郵便貯金の収益構造やリスクが大きく変化し、金融市場にも大きな影響を与える存在となる。また、郵便貯金の存在意義自体も大きな変質を遂げることになる。激変しつつある金融システムの中で、2003年に公社化が予定されている郵便貯金について、現段階からその将来像をどのように位置づけるか、明確にする必要に迫られている。

郵便貯金事業が官営のまま維持されると、先行き次のような影響が予想される。第一に、民間金融機関との競争条件の不平等が拡大し、その共存をますます矛盾に満ちたものとする点である。今後予定されているペイオフ解禁によって不平等が顕在化する一方、現在急速に拡大している民間金融機関とのATM・CD提携サービスに関しても、郵便貯金の集客力が強まることが予想されるほか、ファイナリティを持つ郵便貯金ネットワークが事実上形成される。また、金融コンビニ化も新たな業種との競合を生む可能性がある。第二に、納税者の目にみえないコストが拡大する点である。第三に、民間金融機関と郵便貯金の間でオンラインでの決済ネットワークのインフラが存在していないため、そのリスクと非効率が拡大する可能性がある点である。

さらに、郵便貯金事業が現状の規模のまま維持されると、次のような点が懸念される。第一に、巨額の資金がリスクマネー供給と信用創造機能を果たせない点である。第二に、全額自主運用開始によって、従来市場金利比高めの預託金利によって受けていた収益補填分が剥離する一方、運用に伴うリスクが拡大するが、そのリスクは潜在的な税金負担である点である。第三に、巨額資金が全額自主運用されることにより、債券市場のみならず、その資金繰りによって短期金融市場にも多大な影響が出ることが予想される点である。

欧米では、郵便貯金は廃止されるか、または民営化といった方向に歩み出している例が少なくない。日本の郵便貯金がここ数年で金融システムにもたらすであろう大きな影響を勘案すれば、官営を維持するなら、ナローバンク的な存在として、その性格を大きく変えるか、民営化して経営を安定させるか、どちらかを選択する必要があるが、現状のネットワークや、イノベーティブな動きを活かす方向で考えれば、分割・民営化という方向を目指して、公社化後の経営の在り方を検討することが自然である。

分割・民営化といっても、経過措置としては、郵便貯金がその資金を既存の地域金融機関などに市場金利で再預金をするなどして、資金仲介機能を徐々に縮小していけば、競争関係について大きな問題は出ないはずである。最終的に、民営化された各地域のポストバンクは、定額郵便貯金といった管理の難しい商品を主力商品と位置づけて資金を集める資金仲介金融機関ではなく、様々な民間金融商品を販売し、決済インフラを提供する民間金融ネットワーク企業として、発展していくことが国民経済的に望ましい。
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