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RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年10月No.51

【特集:アジアの産業集積III】
タイにおける自動車産業集積の形成と発展

2000年10月01日 さくら総合研究所 副主任研究員 森美奈子


要約

タイは、ASEAN最大の自動車生産国である。タイでは、産業の基盤がほとんどない状況で自動車生産が開始されたため、日系完成車メーカーが、日本の部品メーカーの進出や技術供与を促し、部品の現地調達を拡大させることで、集積が形成されてきた。

自動車関連企業数の多い地域を集積地ととらえると、タイの集積地は、古くからの工業地域であったバンコク首都圏から、新興工業地域である東部臨海地域、およびアユタヤに広がる地域である。

集積地の形成は、1980年代までと90年代以降の2つの期間に分けて特徴付けることができる。80年代までの主たる集積形成要因は、完成車メーカーによる国産化政策への対応で、完成車メーカーの立地するバンコク首都圏を中心に集積が形成された。しかし80年代半ばまで自動車市場は年間10万台レベルで低迷し、各社は多品種少量生産を余儀なくされたため、日本の部品メーカーの進出も限られていた。いわば、国産化政策に基づいて必要最低限の集積が形成された。

90年代に入ると、市場の拡大を見込んだ新工場の建設や、消費者ニーズの変化に対応した新モデルの投入など、完成車メーカーの競争力強化策に対応して部品メーカーの進出が急増し、東部臨海地域に新しい集積地が誕生した。さらに、フォードとゼネラル・モーターズ(以下、GM)が生産拠点を設置したことで、米国の部品メーカーも進出するなど、集積地はバンコク首都圏から東部臨海地域へ地域的な広がりと厚みを増していった。

東部臨海地域の集積形成には、政府の果たした役割も大きかった。投資優遇策の付与やインフラ整備によって、当時タイへの進出や新工場建設を検討していた完成車メーカーを誘致できたことが、集積が集積をよぶ好循環を生み出した。特に、国際港および道路網の整備が、物流面での利便性を重視する完成車/部品メーカーの進出を決定付けた。

タイの自動車産業は、集積を生かしてASEANにおける優位性を高めている。ASEAN自由貿易地域(AFTA)実現を念頭においた各社のASEAN戦略は、タイを軸に組み立てられようとしている。

タイの集積は、現在のところ、外資系企業の生産拠点が多数集まったという段階である。今後は新しい分業の形成など、集積の効果が発揮されることが期待されるが、その一方で、地場企業が参入し成長することがますます難しくなるという、ASEANの産業集積の限界をも暗示している。