RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年4月Vol.3 No.9
グローバル化のなかで変わる日中貿易構造
2003年04月01日 向山英彦
要約
- 1979年の改革・開放政策の導入以降、中国はめざましい経済発展を遂げてきた。中国経済の世界におけるプレゼンスは着実に大きくなり、2002年第2四半期の中国の輸出額が世界全体に占めるシェアは5.6%となった。アメリカでは対中輸入額が対日輸入額を、日本では対中輸入額が対米輸入額を上回った。
- アジア周辺国も中国の成長のプラス効果を受け始めた。中国の高成長と関税引き下げ効果などから、2002年に各国の対中輸出が大きく伸びた。韓国や台湾では一般機械や電機・電子機器のほか携帯電話やノート型パソコンなどの耐久消費財が、ASEAN諸国でも一般機械や電機・電子機器に加えて、鉱物性燃料や化学製品などが大きく伸びた。東アジア域内での貿易関係の拡大は、将来の地域経済統合の基盤を形成しよう。
- 中国のWTO加盟は国内経済の構造調整を促進させる一方、中国の世界経済への影響力を増大させると考えられる。中国のアブソーバーとしての役割は今後さらに大きくなろう。その理由は、a.外資の一層の流入により東アジア周辺国との国際分業が進むこと、b.所得水準の上昇にともない海外製品に対する需要が増加すること、c.資源分野を中心に開発輸入が増加することなどである。
- 日中間の輸出入構造も大きく変化してきている。とくに著しく変化したのは、対中輸入品目構成である。90年代に入って機械機器分野の対中生産シフトが増加したこともあり、2002年には繊維製品に代わって最大の輸入品目となった。また、産業内貿易が拡大していることも近年の特徴で、工程間分業だけではなく製品間分業も多くなっている。実証分析によれば、基本的に技術レベルの異なる製品が貿易されている。
- 日本の対中輸入が増加した背景には、日本経済の変化も関係している。それは日本経済が90年代に入り、以前よりも輸入する構造に変化してきたことで、このことは日本の輸入弾性値が90年代に上昇したことからも確認出来る。日本経済がかつての「フルセット型産業構造」から、東アジアとの分業にもとづいた産業構造にシフトしていることを表わしているといえる。
- 輸出入構造を変化させた要因の一つに、日本の対中直接投資がある。90年代前半までは逆輸入を目的とした繊維分野への投資が多かったが、後半になると、電機や輸送機器分野への投資が多くなった。最近の特徴は中国市場への販売をめざした投資が増加していることであり、また中国で操業している企業にも、現地販売を拡大する傾向がみられる。中国における所得水準の上昇と規制緩和の進展がこの背景にある。
- 中国からの安価な製品輸入は日本の製造業の空洞化やデフレにつながっているという認識から、「中国脅威論」が台頭した。しかし今後は、日本企業の現地市場をめざした投資の増加や現地での事業拡大により、日本からの部品や資本財の輸出がさらに誘発されることや、中国の購買力の上昇にともなって日本製製品に対する需要が拡大することなどから、日本の対中輸出は高水準で伸びる可能性がある。
- 日本にとっては日中間の関係が基本的に相互補完関係であることを踏まえ、拡大均衡をめざすことが重要である。中国との相互依存を強めながら、国内の産業構造をいかに高度化させるかが日本のこれからの課題となろう。

