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Business & Economic Review 2001年08月号

【FORECAST】
2001~2003年度経済改訂見通し-改革プロセス継続への戦略

2001年07月25日 調査部 経済研究センター


要約

わが国経済は2001 年入り後から後退局面入りが明確化。1999年以降の景気回復を牽引してきた企業部門が、海外景気の減速、電子デバイス需要の急減などを背景に、製造業を中心に景況感が急速に悪化していることが背景。今後を展望しても、アメリカ経済の減速、世界的なIT需要減少、構造改革に伴うデフレ圧力などの景気下押し要因が残存。

アメリカ経済は、企業収益、雇用・所得環境の悪化などを背景に当面は不安定な状態が続くものの、2001年秋口には、1.金融緩和や減税などの政策効果、2.在庫調整の一巡などを背景に、徐々に持ち直す見通し。 2002年は過剰設備の調整、家計の逆資産効果などマイナス影響が残り低空飛行が続くものの、着実な技術革新の進展とスピーディーな政策調整によって、アメリカ経済は2003年には潜在成長率へ復帰する公算。 IT需要については、輸出向けの電子デバイス分野での調整は当面続くとみられるものの、通信・ソフトウエアなど国内での企業・家計のIT需要は底堅く、今後も景気を下支えする見通し。

構造調整に伴うデフレ圧力は、2001年度後半から2002年度にかけて高まり、わが国経済を下押しする最大の要因に。1.財政改革面では、中期的なプライマリーバランス黒字化という目標に向けて、
(1)2001年度補正予算による従来型公共工事追加は見送られ、(2)2002年度以降も毎年2~3兆円程度の歳出削減に取り組む見通し。

2.不良債権問題の本質は、産業活力の低下。すなわち、不良債権の最終処理を進めても、新規産業の成長が遅れている結果、新規不良債権の発生が止まらない状況にある。したがって、不良債権のオフバランス化だけでなく、経済全体の成長率を引き上げるための成長産業の育成が不可欠。

3.加えて、物価下落圧力がさらに高まり、企業収益圧迫・債務返済負担増などを通して景気を下押しする公算。景気後退に伴い「循環的要因による物価下落」圧力が高まると予想されるほか、内外価格差是正に向けた輸入浸透度上昇などを背景とする「構造的要因による物価下落」圧力も、引き続き持続する見通し。もっとも、このようなマイナス面だけでなく、構造改革が中長期的にはわが国経済を再生に導くとの期待が高まれば、先行き不安の払拭を通じたマインド面でのプラス効果も期待可能。

以上を考慮したうえで、内外需の主要項目を展望すると以下の通り。

【設備投資】2001年度は、 (1)輸出・公的需要減少による売り上げ低迷、(2)電子デバイス部門の調整持続、(3)大店法施行前の駆け込み出店の反動減、などの要因から調整局面が続くものの、 2002 年度後半以降は、 (1)根強いIT 活用による経営効率化の動き、(2)過剰ストック調整の進展、(3)シリコンサイクルの上昇局面入り、などから増加基調に転じる見通し。

【個人消費】一部に明るさはみられるものの、企業収益の改善鈍化を受けて雇用・所得環境が悪化していくことから、総じてみれば低空飛行が続く見通し。

【外需】中国をはじめとする東アジア諸国での技術水準向上を背景に、輸入の増勢や現地生産の拡大は続き、中長期的にみれば外需の景気牽引力は低下の方向。以上のようにさまざまなリスク要因があるものの、今後を展望するうえで最も重要なファクターは構造改革の行方であり、構造改革の成否によって以下の二つのシナリオが予想できる。

【構造改革進展シナリオ】2001年度後半には国内民需の落ち込みに歯止めがかかるものの、2002 年度前半には構造改革に伴うデフレ圧力から再び調整色が強まる。もっとも、2002年度後半には景気は底を打ち、2003年度にはわが国経済の先行きに対する期待感が高まって徐々に明るさが出てくる。 【構造改革頓挫シナリオ】雇用面でのセーフティーネットを整備せずに構造改革を進めるほか、財政改革の数値目標を厳格に適用。この結果、デフレ圧力の高まりが実体経済をスパイラル的な悪化に導き、3年連続のマイナス成長になり、構造改革も頓挫。

【アメリカ経済失速のリスク】さらに、アメリカ経済が失速した場合、輸出減少という実体経済面での影響だけでなく、株価下落という金融面からも下押し圧力が加わる恐れ。

わが国経済の低迷の根因は、成長分野の不足、成熟分野での経営資源の浪費という「資源配分の非効率性」。この意味で、小泉政権の構造改革路線は高く評価でき、実現に向けて全力をあげるべき。そのためには、現在注目を集めている不良債権問題・財政再建という「負の遺産」の処理だけでなく、(1)成長政策を前面に押し出して強力に推進すること、(2)構造改革後の国民生活ビジョンを提示すること、など前向きの政策の具体化・早期実施が不可欠。

さらに、改革を頓挫させないためには、「改革継続への戦術」と「非常事態への対応策」を検討しておくことも必要。 まず、「改革継続への戦術」としては、(1)中期的な基本政策としての「一貫性」と同時に、短期的な政策スピード調整を許容する「柔軟性」も確保すること、(2)緩やかな円安基調によりデフレ圧力を緩和すること、(3)雇用面での十分なセーフティーネットを準備すること、(4)個人投資家育成により株価急落を避けること、という政策の組み合わせにより、橋本改革の失敗を繰り返さないための措置を講じることが必要。

また、「非常事態への対応策」としては、「信用恐慌」、すなわちシステミックリスクのみを対象とすべきで、この場合は、(1)日銀による流動性供給、(2)資金繰り安定化融資拡大などは、躊躇なく実施すべき。公共事業の追加については、長期金利に上昇圧力がかかるうえ、地方での公共事業積み上げ余力が失われている点を考慮すれば、効果は疑問。
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