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Business & Economic Review 2001年03月号

【OPINION】
政府債務残高の削減に向けた対策を急げ
-抜本的な財政構造改革と民営化を両輪に-

2001年02月25日 調査部 環境・高齢社会研究センター 河村小百合


わが国の政府債務残高は、2000年9月末時点ですでに511兆円、うち国債残高は361兆円に達している。比較的楽観的な前提に基づく財務省の試算(「財政の中期展望」)においても、14年後の2014年度末には、この残高が国債の部分だけでも773.5兆円に膨れ上がることが示されている。このように、政府債務残高が、わが国として未曾有のレベルまで、同時に現時点における主要国中で、群を抜く最悪のレベルにまですでに膨張している現在、今後の内外経済への影響を最小限に食い止めるためには、今、わが国としていかなる方策をとるべきであろうか。

政府の信用リスクの意味

まず、政府の信用面における特殊性について、整理してみよう。一国の政府は、金融市場における1プレーヤーではあるが、経済主体としては、特殊な存在である。すなわち、国民に対する徴税権という収入確保の手段を有する点が、企業等の民間の主体との最大の相違点である。ただしこの徴税権を発動するに当たっては、民主主義的な手続きを踏むことが必要である。

とはいえ、政府が無制限に債務を増加させることができるわけではない。その際のハードルとしては、次の2つが考えられよう。まず第1のハードルは、一国のISバランス上、政府の債務のファイナンスを海外からの資金流入に依存する度合いがどれほどであるかによって左右されるものである。もしこの度合いが高く、かつ政府債務の規模が一国の経済力からして大き過ぎると海外投資家からみなされるようであれば、為替レート面での自国通貨安という大幅な調整を余儀なくされることになる。このケースに該当するものとしては、1980年代半ばのアメリカが典型例であろう。この時期の同国においては、大幅な財政赤字と経常収支赤字といういわゆる「双子の赤字」を背景とする高金利が維持不可能となり、85年の「プラザ合意」という大幅な為替レート調整に追い込まれたのである。

また、政府債務のファイナンス面での海外依存度が低く、第1のハードルはクリアできるとしても、現実の政府債務の規模に鑑み、国内の貯蓄余剰を用いて、どれほどの期間、どれほどの負担の規模で負債を返済していくことになるのか、その国内経済への影響はいかほどか、という第2のハードルが存在する。現在のわが国が置かれた状況はまさにこのケースであろう。もし政府債務が膨張する当事者となっている国が相対的な小国であれば、あくまでその国の内部の問題ということにとどまるかもしれない。しかしながら、わが国のような大国の場合、話は全く異なってくる。政府の債務を返済するうえでの負担が一国の経済力からして重く、国内経済への影響が長期化することになれば、世界経済へのマイナスの影響という面でも大きな問題になることは必至である。これが現在の日本に対する、諸外国の関心の焦点となっている所以である。

政府債務残高の現状

ここで、わが国が現在抱える政府債務残高の負担の重さを、わが国としてのヒストリカルな面、および主要な諸外国の近年の足取りとの比較の面から確認してみよう。一国の経済力見合いでのその負担の重さを量るため、グロスの政府債務残高の名目GDP比率の推移でみると、わが国の場合、90年代初めまでは60%程度という比較的良好な水準で推移していた。その後90年代半ばの時点では80%程度とやや悪化したが、この時点では他の主要国に比較してさほど目立つ水準ではなかった。しかしながら、90年代後半には急激に数字が上昇しており、2000年時点では112.3%、2年後の2002年には124.7%に達するものとみられている(OECD,“Economic Outlook”,December 2000、以下同じ)。この間の他のOECD主要国の推移をみると、国ごとにレベルにばらつきもあるものの、総じてみれば、90年代半ばをピークに、それまでの増勢が減少基調に転じている。例えば、その政府債務残高の規模があまりにも大きかったため、他国から“Snow-ball Effect(雪だるま効果)”と揶揄されていたベルギーも93年の134.8%をピークに、また、ユーロ発足当初時点での参加がかつて絶望視されていたイタリアも94年の124.0%をピークにそれぞれ減少に転じ、足許の水準(2000年)はベルギーが110.7%、イタリアが112.0%に低下し、2年後にはそれぞれ100.2%、104.8にまで低下するものとみられている。また、その他の主要国の最近(2000年)のレベルをみれば、アメリカが59.5%、ドイツが59.6%、フランスが64.6%、イギリスが53.5%と、いずれも比較的良好な水準にある。こうした点からも、わが国の近年の財政事情の急激な悪化が、主要国の中で際立っていることがみてとれよう。

なお、わが国には、国債償還のルールとして、他の主要国にはほとんど例のない「60年償還ルール」という既定のルールが存在する。これは、毎年度の一般会計の予算編成において、前年度末の国債残高の60分の1に相当する額を国債整理基金特別会計に繰り入れ、国債償還の原資に充当する、というものである。「財政の中期展望」を前提とし、このルールを忠実に適用した際の国債償還に要する費用がどれほどのものとなるのかを試算した、財務省の「国債整理基金の資金繰り状況等についての仮定計算」によれば、利払い費は今後10年間程度は前年比7%増程度の高い伸びが続くことが見込まれている。そもそも現在のような規模の負債残高を抱えながら、それを60年という長い期間をかけて返済しようとするルールが果たして内外の信認を得られるものであるかどうか、という点自体にまず議論の余地がある。しかしながら、もしそれがクリアできたとしても、わが国経済が、高い名目成長率を達成し、つれて税収の伸びも高まるとは当分の間期待し難いなかで、利払い費が実際にこれほどの伸びを続けることは容易ではなかろう。まして、この試算の前提している水準を超えて長期金利が上昇してくることになればなおさらである。また、わが国のISバランス上の貯蓄余剰が今後も続くという保障はない。わが国の財政事情は、すでにこれほど厳しい水域に達していることを、この仮定計算は示しているのである。

今後の政策運営上の方策1:抜本的な財政構造改革による国債償還額の積み増し

こうした状況下で、わが国は今後の財政運営上、いかなる方策をとるべきであろうか。

第1の方策は、各年度ごとの予算編成上、国債償還額をさらに積み増すことである。前述の「60年償還ルール」は現在、建設国債のみならず、赤字国債に関してもなし崩し的に適用されているが、目先の景気対策等の原資として用いられる赤字国債についても、60年という長期間にわたって返済することの合理的な根拠は存在しない。これほどの政府債務残高を抱えている状況下では、今後はむしろ、赤字国債を発行するのであれば、その資金の使途目的に照らし合わせて、各年度における特例公債(赤字国債)発行の根拠法上の明文をもって、償還期限をあらかじめ10年、ないし20年、といった期間に区切るくらいの覚悟が必要であろう。そのためには、現在のわが国に与えられたファンダメンタルズ面での前提のもとで、景気への影響を最小限にとどめるよう配慮しつつ、実質的な歳入増を実現するために、歳出・歳入の両面において抜本的な制度改革を行うことが不可欠となろう。例えば、公共事業に関する予算配分の決定方式、税制の基本的なあり方、国と地方の財政上の関係、といった点が、根本に立ち返った見直しの対象になるものと考えられる。この第1の方策は、いわば正攻法とも言うべきものであり、改革の進め方にもよるが、短期的な面で国民生活や景気全体に少なからぬマイナス影響を与えることは避けられない。しかしながら、財政バランスの大幅な改善を実現したかつてのイギリスや近年のイタリア、といった諸外国の例をみても、国民の理解の下で、短期的には相当な痛みを伴うこうした改革プロセスを通過してきたのが事実である。わが国としても、改革の実施に伴う目先の痛みにとらわれるあまり、こうした財政の構造改革に向けた努力を怠ってはならないであろう。

今後の政策運営上の方策2:政府部門の民営化収入を原資とするまとまった規模での国債償還

しかしながら、この財政の構造改革を実施するに当たっては、その議論を尽くすためには、いかに急いでも少なくとも年単位の時間を要しよう。また、少なくとも短期的には相当な痛みが伴うことは避けられず、この形で政府債務が削減できるとしても、その実現可能な削減幅には自ずと限度があろう。このようにみれば、わが国の政府負債の膨張は、すでにフロー面の政策対応で解決し得る領域をはるかに超えており、今後の長期金利の水準の変動の可能性を考えれば、現在のように金利が低水準にあるうちに可能な限り債務を返済する、というストック面での政策対応をも実行に移すことが必要になってくると考えられる。具体的には、政府部門の民営化という、いわば臨時収入を原資とする、まとまった規模での国債償還がそれであり、これがわが国のとり得る第2の方策である。

政府部門の民営化を検討するに当たっては、本来、その時々の経済環境の変化に則し、何らかの公的な政策目標を有する経済活動を、政府部門と民間部門のいずれに担わせることが最もコスト効果的と考えられるかによって決定されるべき問題である。諸外国の例をみても、欧州の主要国を中心に、民営化による収入を原資に政府債務残高の削減に充当してきた例は多数存在する。例えば、古くはサッチャー政権下のイギリスにおいては、79~87年の9年間に、30社以上の民営化が行われ、総額180億ポンド余りの売却益が国庫に帰属したが、これは同国の一般政府の歳出・歳入の規模に比較すると、9年間の通算でみても約1.5%の規模に相当するものであった。また、東西ドイツの統一により、90年代前半に財政バランスが急激に悪化したドイツにおいても、ドイチェ・テレコムやルフトハンザ航空等の民営化が実施され、91~99年の期間中、その収入は490億マルクと、連邦政府の歳出・歳入規模との対比では約1.2~1.4%に達している。また、同国においては今後、わが国の郵便貯金に相当するドイチェ・ポストバンクの株式公開も近々予定されている。

わが国においても、過去すでに政府部門の民営化がいくつか実施されてきた。85年4月に株式会社化された日本電信電話公社(後の日本電信電話株式会社で、現時点ではさらに分割)や日本専売公社(後の日本たばこ産業株式会社)がそれである。両社の2000年度までの株式売却益は累計で、NTTが10兆5,813億円、日本たばこが7,890億円(いずれも株式管理処分経費を含まず)に達している。これらが一般会計の歳入・歳出規模に占めるシェアは、年度にもよるが、例えば近年では99年度(NTT株売却)が2.0%、2000年度(同前)は1.1%程度に達するものとみられるほか、バブル期の87年度(同前)には約6%程度に達したこともあった。またこれらの売却益が各年度の国債償還額に占めるシェアをみると、ピークの87年度には実に34%に達していたほか、近年では99年度は4.3%、2000年度は1.9%程度に達している模様である。

折しも、特殊法人改革をめぐる動きが本格化している。わが国においては、その政策目標の達成に当たってのコスト対効果を最大化するうえで、政府部門から民間に移行することが望ましいと考えられる事業が少なからず存在すると考えられる。すでに民営化の方針が決定されている帝都高速度交通営団や電源開発について、極力前倒しで民営化を実施する必要があることは言うまでもないが、他にも、例えば金融系財投機関である日本政策投資銀行(政府関係機関であり全額政府出資)や商工組合中央金庫(政府出資比率約8割)、事業系財投機関のなかでは日本育英会(全額政府出資)や都市基盤整備公団等(政府出資比率99.6%)が、民営化の検討対象となり得よう。また、現時点では公社化のみが決定されている郵便貯金についても、日本版ビッグバンの総仕上げとして、最終的には民営化することが望ましいと考えられる。なお、一口に民営化と言っても、諸外国の例からも明らかなように、その形態には政府の関与の度合いに応じて、様々なパターンがあり得る。例えば、アメリカの政府支援企業のように、資本面では完全民間所有としても、設立根拠法を残す、等の方法により、政府による当該民営化企業の監督を残す方法もある。実際に民営化を検討するに当たっては、各機関に課せられた政策目標が、経済環境の変化に即してもなお必要であるかどうかをまず検討したうえで、いかなる形態で業務を運営させることがもっともコスト効果的であるかを検討すべきであろう。
そして実際に民営化が適当であると判断されたとして、各分野における政策運営上のコスト対比での効果を高めることにとどまらず、財政再建にも役立てることができれば、まさに一石二鳥ではないか。確かに現時点におけるこれらの機関の規模や、足許の株式相場の市況に鑑みると、郵便貯金を除けば、これらの機関の民営化による株式売却により、NTTの民営化のケース(バブル期に株式売却を開始)に匹敵する売却益を得ることは難しいかもしれない。しかしながら、仮に目先の各年度の国債償還額の約1割程度であっても、民営化によってその原資が調達できれば、先行きの財政運営の自由度の幅が広がることは間違いないであろう。そして、もし郵便貯金の民営化が現実のものになれば、わが国の財政事情の改善に大きく貢献することになろう。なお、NTT株の売却益については、売却を開始したバブル期の当時、その収入が政府の見通しを大きく上回ったことから、必ずしも国債の償還のみに充当しなくてもよいのではないかという見方が強まり、産業投資特別会計社会資本整備勘定へ繰り入れ、社会資本整備目的での無利子融資の原資として用いる枠組みが設けられ、現在に至っている。その実際の運用状況をみると、NTT株売却益の国債整理基金から産業投資特別会計への繰入残高は2000年度末で7,245億円(予定)と、ピーク時(92年度末)の5兆5,836億円の約13%にまで規模が縮小されてはいるものの、足許の財政事情の深刻化に鑑みれば、政策運営上の優先順位としては、本制度創設当時とは逆に、社会資本の整備よりも政府債務返済の方が上位になっているのが現在の姿であろう。この制度も大きく見直す時期にきていると言えるのではないか。

財政政策運営における債務返済の優先順位を高めるべき

わが国の場合、他の主要国と比較すると、経済政策全般を運営するに当たり、目先の景気対策等に過度にとらわれ、短視眼的になり過ぎるきらいがあるように見受けられる。その結果、国債償還についても、「60年償還ルール」や、決算剰余金が発生した場合、その金額の過半を国債整理基金へ繰り入れることの義務づけ、といったルールが法定されているにもかかわらず、実際の運用上は、目先の景気対策の原資の捻出や赤字国債の発行の回避等の目的を達成するために、特別法を制定することにより、こうしたルールをないがしろにする年度が少なくない。このように、国債償還の財政政策運営上の優先順位を常に低くしてきたことのツケが今これほど大きな形になってはねかえってきていると言えよう。わが国としては、諸外国の例をも参考にしつつ、まず、政府債務の返済の、財政政策運営上の優先順位を高めることが不可欠である。具体的には、先行きの経済情勢の変化によってわが国の置かれた状況が一段と悪化する前に、歳出面・歳入面における抜本的な構造改革を真剣に検討し、同時に民間部門への移行が適当と考えられる政府部門の民営化を待ったなしで実行に移すべきであろう。