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Business & Economic Review 2003年11月号

【REPORT】
寡占化が進むアメリカ・カード業界と中規模イシュアーの選択

2003年10月25日 調査部 経済研究センター 岩崎薫里


要約

  1. アメリカでは、近年、クレジット・カード発行業界のドラスティックな再編が進行しつつある。中規模イシュアー(発行銀行)がカード・プログラムを相次いで売却する一方、大手イシュアーがそれらを買い取り、規模を一段と拡大していった。その結果、市場の寡占化が進み、上位10行が8割以上のシェアを確保するに至っている。

  2. 中規模イシュアーによるカード・プログラムの売却理由として、筆頭に挙げられたのが、「規模」の不足であった。いまや100億ドル程度のカード・ローン債権残高を有さなければ、大手イシュアーに対抗出来ず、市場での苦戦を強いられることになる。なお、プログラムを売却した中規模イシュアーは、売却先と新たにエージェント・バンク契約を結び、カードの提供自体は続けることが一般的なケースとなっている。

  3. 一方、大手イシュアーは、a.情報技術を駆使した高度なデータ処理設備の導入、b.会員の属性やニーズに合わせた、きめ細かなカード・プログラムの提供、c.会員の多様化を通じたリスク分散など、カード事業の様々な側面で「規模の経済」を働かせることで、優位性を高めている。

  4. もっとも、中規模イシュアーのなかには、近年の再編を生き抜いてきた企業もあり、それらの事業展開をみると、カード発行事業において「規模」の確保は重要であるものの、必要条件ではないことが確認される。こうしたイシュアーは、a.コマーシャル・カードやサブプライム層向けなど、得意分野に特化する戦略を追求する、あるいは、b.カード会員の中心を、自行に預貸金口座を保有する顧客に据えるといった、地域密着型の事業展開を行うなど、大手イシュアーとは異なる競争条件を見いだしていた。

  5. 大手および中規模イシュアーの一連の動きを総合的にみると、その根底には、クレジット・カード事業の携わり方として、二つの大きな流れを見いだすことが可能である。
    第1が、クレジット・カード事業それ自体から高い収益を確保することを目的としたものである。これを実現出来るのはもはや、a.大規模なポートフォリオを有し、規模の経済を働かせることが出来るメガプレーヤーか、b.特定分野に強い競争力をもつ中規模プレーヤー、に限られてきている。
    第2が、カード事業を、顧客との紐帯強化の手段として利用したものである。ここでは、クレジット・カードは自行の顧客のために用意する金融商品のライン・アップの一つ、と位置付けられる。カード事業単独で高い収益性を確保したり、マーケット・シェアを拡大しようとの意図は相対的に薄く、むしろ、カードを提供することで顧客の自行へのロイヤルティーが高まり、ひいては銀行全体の収益向上に貢献することが期待されている。

  6. わが国のカード業界に目を転じると、再編はすでに始まってはいるものの、グループ内や系列内でのものにとどまっている。もっとも、今後、収益環境が一段と厳しくなるなか、わが国でもいよいよ本格的な再編の時代が到来すると予想される。そうなれば、わが国のカード事業もアメリカと同様、a.収益確保のため、あるいはb.顧客との紐帯強化のため、という二つの携わり方に分かれる公算が大きい。

  7. そうしたなか、アメリカの経験のわが国への示唆としては、まず、大手カード会社については、一段の規模拡大のための競争が繰り広げられるとみられる。一方、中堅・中小のカード会社については、明確な強みとなり得るものを有する企業が相次いで新規参入するなかにあって、やはり何らかの強みがなければ、他社に対抗していくのは困難であろう。

  8. これらの点を踏まえると、わが国のカード会社各社としても、自社の事業内容やポテンシャル、さらにはカード事業に携わる目的について、今一度総点検することが重要である。
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