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Sohatsu Eyes

創発ごころ/扉をたたく

2003年08月26日 足達英一郎


「99年11月23日。薄暗い中に街はすっぽり白い雪に包まれていた。まだ初冬だというのに、スイスと南西ドイツは記録的な大雪に見舞われた。空港に着くと、案の定、ミュンヘン行きは欠航だという。「鉄道なら行ける。ただ、何時に着くかは分からない」。対応の中年男は、ぶっきらぼうに答えた。その前月、日本で環境配慮の先進企業に投資する「エコ・ファンド」をスタートさせ、次の目標を海外金融機関への情報提供と定めた。ならば海外の同業者を訪ねてみよう。海外文献やインターネットから欧州で同種のサービスを行う機関のリストを作って、片っ端から面会を申し込んだ。

そのひとつにドイツのイーコム社はあった。当時から「環境格付」という言葉を掲げて、世界400社を調査していた。社長は、極東からの突然の訪問依頼にやや戸惑いながらもアポイントメントをくれた。出張最終日だが、飛行機なら午後一にミュンヘンでミーティングして、夜にはフランクフルトから帰国できるという目論見だった。

「鉄道でも行こう。」こう決めて、自分は彼らのオフィスの留守番電話に状況を伝えるメッセージを残した。まだ見知らぬ相手。さらに午後は別の予定があるかも知れず、彼自身オフィスに来ることを断念しているかもしれない。本当なら4時間でミュンヘンに着く国際特急も、この日ばかりは、途中で度々立ち往生した。ドイツ語のアナウンスは意味不明。ここで運休となったら・・・。

本当に気を揉みながらミュンヘンに到着した。そして30センチもある積雪で、ズボンの裾をずぶ濡れにしてオフィスの扉を叩いた。「ハロー、ミスター・アダチ」。出てきたのは、自分と同い年ぐらいの精悍なドイツ人、それがロバート・ハスラー社長だった。

今でも、ロバートは、この日のことを笑って口にする。「君がオフィスに居た時間は、たった40分だった。40分のために日本からやってくるなんて!」。

ミュンヘンからフランクフルトへも鉄道を使わざるをえず、14時48分の特急に乗らないと飛行機に間に合わなかったのだ。再び5時間。しかし、自分の気持ちは満足だった。「世界には自分と同じ目標像を持ち、必死にインキュベーションに取組んでいる仲間がいる」。

その後の信頼とパートナーシップは、あの日、扉を叩かなければ始まらなかったに違いない。
 
※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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