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Business & Economic Review 2004年10月号

【STUDIES】
急速な広がりをみせるICカード-その課題と今後の展開を探る

2004年09月25日 カード・システム事業本部 森陽一、調査部 経済研究センター 岩崎薫里


要約
  1. ICカードは、ここにきて交通、金融、公共などさまざまな分野で相次いで導入されるようになっている。

  2. IC カードの主な特性としては、a.記憶容量が大きい、b.演算機能がある、c.セキュリティー性が高い、d.多機能化が可能である、e.非接触型カードの場合は利便性が一段と高まる、の5点が挙げられる。ICカードが今後、本格的に普及していくためには、こうした特性を十分に生かし、磁気カードでは実現できなかった機能や、磁気カードの問題点が軽減される機能を消費者に提供することが重要となってこよう。

  3. ところが、これまでのICカードの利用形態をみると、磁気カードからの単なる代替の域にとどまり、その優れた特性が必ずしも十分に生かされていないのが実情である。とりわけ、ICカードに期待されてきた多機能性について、a.技術・コスト上の問題、b.多機能カードの運営上の問題、c.消費者の意向の問題、などにより実現が難しいことが明らかになってきた。このため、ICカードになってもカード利用時の煩わしさが軽減されないことと相まって、利便性のメリットをユーザーが享受する階段には至っていない。

  4. そうした情勢下、ICカードを多様な分野で本格的に普及させていくためには、以下の三つの課題をクリアする必要がある。
    第1に、ICカードの一段の高機能化である。とりわけ、カード保持者がカードにアプリケーションを自由かつ手軽に搭載・削除する機能を新たに加えることができれば、利便性が飛躍的に向上し、多機能カードの普及が推進されよう。この機能を活用することによって、消費者は携行するカードの枚数を減らすことができる一方、自分の利用状況や意向に応じて搭載する機能を随時選択でき、多機能カードを携行することへの不安が減退するためである。
    第2に、ICカードのなかのIC チップ部分を、携帯電話や装身具にはめ込むことである。それによって、利用する度にカードを鞄や財布から取り出さなければならない煩わしさが軽減されるとともに、カードを常時、手軽に携行できるようになる。
    第3に、システム面での変革である。カード利用の裾野が広がることに対応して、多様な消費者を受け入れるためのシステムの構築が必要となる。

  5. 以上のような課題がクリアされると、ICカードの利用形態は従来のものから大きく変化する可能性がある。とりわけ、金融決済機能では、a.カードを常に携行することが可能となる、b.クレジット・カードのサインレス決済が一般化する、c.カードが通信機能をもつようになる、d.カードで支払いを証明できるようになる、e.利用制限の多彩な設定が可能となる、といった変化が展望される。その結果、ICカードを利用する機会や範囲が従来に比べて広がり、とくに多頻度・少額決済の分野や一度に大勢の人が訪れる場所でのカード事業の展開が見込まれる。

  6. さらに、ICカードの利用の拡大に伴い、新たなビジネス・モデルが形成されていく可能性がある。その一例が、交通分野と公共分野における1枚のカードへの統合である。乗車券機能の搭載によりカードは日常的に携行されることになり、公共サービスでのカード利用の増加が期待できる。その一方で、乗車券を利用して公共施設を訪れると特典を付与するなどの共同プログラムを策定することで、公共交通機関の利用を増やし、自動車交通から公共交通への利用転換を促進することも可能となる。その結果、こうしたIC カードが地域に根付き、市民が日常的に利用するツールとして定着、普及していくという展開も期待できる。

  7. 一方、ICカードの導入は事業会社にとって、これまでの仕組みや商習慣を見直し、新しい発想を取り入れてビジネス・モデルを再構築する絶好のチャンスとなり得る。さらに、ICカードの本格的な普及により事業環境が変化し、事業会社もそれに対応するためにビジネス・モデルの再構築を迫られるという展開も考えられよう。とりわけ、顧客が自らアプリケーションを選択してカードに搭載できるようになるなど、より主体的にカード・サービスを受けられるようになるなかで、顧客に対していかに有効な方法で情報やサービスを提供できるかが鍵となる。事業会社としても、それらを実現するために従来の顧客対応のフレームワークを抜本的に見直すことが必要となってこよう。
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