アメリカのHerman Miller社(1923年創業)は、1930年代にデザイナーとの取組を開始して以来、デザインを最重要の経営資源として位置付けてきたオフィス家具メーカーである。古くはジョージ・ネルソンやチャールズ&レイ・イームズのデザイン、近年では、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のコレクションとなった「アーロンチェア」等、デザイン性に優れた数多くの革新的な製品を生み出し、20世紀を代表する家具メーカーの一つとなっている。 Herman Miller社では、「人間の問題解決を図る」ことをミッションとし、そのための最重要な手段として、デザインを位置付けている。「素晴らしいデザインは素晴らしい職場環境を生み出すことができる」「人が多大な時間を過ごす職場環境をより良く改善することこそが、人間の幸せにつながる」(Beckwith, 2004)と言った信念に基づき、エルゴノミクス(人間工学)やワークプレイスの研究を援用しながらデザインをすることで、革新的な製品を生み出してきたのである。 前述した「アーロンチェア」(1994年発表)はその好例であろう。メッシュ生地で構成され高次元の調節機能を有するこの椅子が生み出す素晴らしい座り心地は、その近未来的な外観と相俟って、新世紀を予感させるオフィスチェアとして、世界中で熱狂的に迎え入れられたのである。
”People deserve the better, and we aim to provide better for them” (人間はより良いことに値するものである。そしてより良いことを提供することを私達は目指しているのである) - Don Goeman, Vice President of Design and Development, Herman Miller Inc. (Beckwith, 2004)