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Business & Economic Review 2004年08月号

【OPINION】
一段の企業アライアンス強化に向けて

2004年07月25日 藤井英彦


(イ)今年に入り、企業間の合従連衡の動きに拍車がかかっている。例えば、M&Aについて1990年代半ば以降の推移をたどってみると、総件数は90年代後半急速に増加した後、2000年以降、ほぼ横ばいとなり、さらに2003年には1,728件と前年比24件減少したものの、2004年に入ると一転して前年比二桁増となった。
さらに細かくみると、増勢がこのところ月を追って加速しており、1月の前年比12.6%増加から4 月には同42.6%増加となっている。そのため、2004 年のM&Aは既往最高水準を更新する可能性が高い。仮に1~4月の前年比24.7%の増勢が今後も続いた場合、2004年のM&A件数は2,000件を超えることになる。
このように企業間の合従連衡の動きが加速している要因を整理すると、主なものとして、次の3点を指摘することができる。
第1は企業間競争の激化である。貿易を通じた市場競争に加え、外国資本がわが国市場に参入するなど、各国企業の海外進出が進展し、国際規模で企業間競争が激化するなか、製造業とサービス業とを問わず、規模の拡大や中核事業の増強を通じて市場支配力を強化し、競争力の維持・増大を図ろうとする動きが強まっている。その一方で、時間や費用がかかりがちなM&Aではなく、プロジェクトごとの協力など、よりスピーディーでコストの嵩まない企業間連携によって競争力の強化を目指す動きも広がっている。
従来、わが国では、研究開発から生産、販売、さらにサービスまで、すなわち、川上から川下に至るすべての関連事業を、人材育成も含め、単一の企業あるいは企業グループがそのリソースを中心に遂行していこうとする、いわば自前主義が一般的であった。こうした経営スタイルの場合、事業に関連する様々なスキルやノウハウを組織内に蓄積し、さらにそれらを活用して新たなナレッジを創出して企業全体として活用することが可能であり、それがわが国企業の強靭な競争力を支える源泉の一つを形成してきた。しかし、IT革命によってスピード競争が本格化するなか、従来型の自前主義では、厳しい国際競争に劣後するリスクが次第に大きくなっている。このようにみると、このところのわが国企業の動きは、従来のフルライン型経営に、スピードを重視した企業間連携型事業スタイルを加味することで、さらなる競争力強化を目指す取り組みと位置付けることができる。
第2は研究開発分野の拡大である。研究開発を、フェーズ別にa.基礎研究、b.応用研究、c.開発研究、の3段階に分けてみると、従来、企業セクターの研究プロセスでは、基礎研究や応用研究よりも、すでに検証された理論や確立された技術を新たな製品やサービスに結び付ける開発研究が重視されてきた。しかし、近年、研究開発を巡る環境は様変わりとなり、企業は研究開発体制の抜本的見直しを余儀なくされ始めている。これは、研究開発の水準が一段と高度になり、新製品開発を巡る企業間競争がますます熾烈となってきたことに加えて、燃料電池など環境技術を取り込んだ自動車の開発やオプト技術を活かした新型半導体の設計、あるいはナノテクノロジーを活用した新素材の発見など、研究開発の分野が飛躍的に拡大し、各企業にとって社内リソースだけで戦略的な研究開発を効率的に行うことが困難になってきたという情勢変化に起因する。そうしたなか、内外企業の研究開発活動を総じてみると、推進スタイルとして次の二つに大別することができる。すなわち、短期的視点からみて新製品開発に重要不可欠なプロジェクトであるほど、現有戦力の転用あるいは社外リソースの取り込みによって社内スタッフを中心に研究開発が進められる一方、プロジェクトが長期的であったり、目指す新市場の登場や台頭が潜在的可能性にとどまるなど、研究開発の緊要性が当該企業にとって希薄であるほど、大学や研究機関への研究委託など、社外リソースを活用して進められる傾向が看取される。
第3は企業業績の改善である。2004年度のわが国企業業績は引き続き増収増益傾向を維持し、経常利益は過去最高水準を更新すると見込まれている。
もっとも、企業間の合従連衡の動きが企業業績に連動するのであれば、深刻な業績悪化に見舞われた2001年度に、企業間の合従連衡の動きは大きく頓挫する筋合いにある。しかし、2001年から2002年までM&A件数はほぼ横ばいで推移しており、特段の変調はみられない。そこで改めて企業業績をより細かくみると、2001年度にとりわけ悪化した項目は当期利益であって、営業利益や経常利益の悪化はそれほど深刻ではなかったという点が指摘される。もっとも、わが国企業全体について、当期利益の推移を時系列でたどることは困難なため、東証一部上場企業を対象に、単体ベースの当期利益と営業利益、経常利益の推移をみると次の通りである。まず2000年度と2001年度とを対比してみると、当期利益は30兆円の黒字から5兆円の赤字に転落したのに対して、営業利益は14兆円から10兆円、経常利益は12兆円から9兆円への減益にとどまっている。そのうえ、2001年度の売上高利益率をみると、営業利益、経常利益とも90年代の平均を上回っている。
こうした点を踏まえると、2001年に企業間の合従連衡の動きが頓挫しなかったのは、まず全体としてみると、時価主義会計の導入が本格化し、含み損を処理する動きが拡大したため、当期利益は大幅な赤字に転落したものの、そうした特殊要因を除くと、本業部分では着実に利益が計上され、資金制約が必ずしも発生しなかった結果と捉えられる。一方、個別企業ベースでみると、含み損の処理コストが小さいか皆無の企業、あるいは強力な競争力をもとに着実に増収増益を果たした企業を中心に、前向きの取り組みが広がった帰結と位置付けることができよう。このようにみると、2004年初来のM&A件数の急増をはじめ、このところの企業間連携の広がりは、含み損処理の一巡に伴って企業業績の改善傾向が一段と力強いものとなり、加えて売上増加傾向が定着した結果、前向きの行動が企業規模と業種を超えて幅広く拡大したためとみられる。さらに、2005年度にかけて増収増益傾向の持続が見込まれるなか、少なくとも当面、そうした前向きの企業行動が変調をきたす懸念は小さい。

(ロ)マクロ的見地からみても、企業間の合従連衡の動きは重要である。中国や東欧諸国の台頭や飛躍的成長によって、汎用品製造分野を中心に価格競争が世界規模で厳しさを増すなか、わが国が中期的に経済成長を実現し、現下の深刻な雇用問題を克服していくためには、新産業や新事業の創出と国際競争力の強化に向け、企業間を中心に多様な組織体相互の合従連衡や新規設立を促す取り組みが不可欠である。
こうした観点から、近年、様々な政策が積極的に打ち出されており、このところ成果が顕在化し始めている。主な実例を示すと、次の通りである。
まず、大学や研究機関の特許を民間に移転し事業化を目指すTLO Technology Licensing Organization :技術移転機関)制度がある。本制度が大学等技術移転促進法に基づいて98年8月に発足した後、技術移転機関数は年を追って増加し、2004年4月28日に岡山県産業振興財団が新たに加わって現在42機関となった。次いで99年1月には中小企業技術革新制度が創設された。これは、アメリカの制度を導入した経緯から日本版SBIR (Small Business Innovation Research )とも呼称され、政府が中小企業の技術開発に対して資金面から補助する一方、債務の保証枠を拡大したり担保や第三者保証人を不要とすることで事業化を後押しする制度である。制度創設以来、次第に予算枠が拡充され、2004年度では300億円とすることが2004年5月25日の閣議で決定されている。さらに、2003年2月には最低資本金特例制度が発足し、資本金が1円でも会社の設立が可能になった。この制度を利用して設立された企業は、制度発足から1年2カ月経過した2004年4月末で1万1,772社に達した。
その後も、経済・産業の活性化に向け、企業の合従連衡を促す制度の整備・拡充を目指す取り組みは引き続き積極的に行われてきた。そうしたなか、現時点での取り組みとしては商法改正がまず指摘されよう。準備作業はすでに昨年から始まっており、2005年通常国会での改正案成立を目標に精力的に進められている。今回の商法改正には、度重なる改正によって複雑化した会社法制度の簡素化や民法をはじめ関連諸制度との整合性の確保など、様々な目的が盛り込まれているなか、企業間の連携強化という観点から整理すると、主な柱として次の3 点が指摘される。
第1はLLC (Limited Liability Company )制度の創設である。これは、a.まず、倒産時などに出資者が負うべき責任については、出資金が上限とされ、株式会社と同様に有限責任性が打ち出される一方、b.税制については、株式会社と異なり、法人課税を受けるか、それとも出資者が納税主体となる、いわゆるパス・スルー課税を受けるか、のいずれかを各LLC が選択できるため、納税負担の抑制が可能であるうえ、c.パス・スルー課税が選択できる会社は組合形態が原則であるなか、組合と異なり、法人格を取得できるため、組合に比べて商行為をはじめ事業展開が容易である、という特徴を持つ。そのため、アメリカでは近年ベンチャー分野を中心に頻用され、法人数は93 年の2万社から2001年には81万社に増加している。
第2は資本金規制の自由化である。上記の通り、わが国でも企業の新規設立を促進する観点から、2003年2月に最低資本金特例制度が発足し、活用されている。しかし、本制度は、あくまでも特例措置であり、資本金規制の免除は会社設立後5年間に限られている。そのため、設立後5年の間に、株式会社であれば1,000万円、有限会社であれば300万円の最低資本金規制をクリアする必要がある。加えて、本制度は2007 年度末までの時限措置となっている。そうしたなか、今回の商法改正作業では、時限措置ではなく恒久的制度として見直すことを前提に、資本金規制については、株式会社についても300万円以下に引き下げる方向で検討が進められている。
第3は企業再編の弾力化である。具体的には、a.まず合併対価の柔軟化がある。これは、株式交換や吸収合併、あるいは吸収分割による企業合併を行うに当たり、消滅会社の株主に対して合併の対価として交付可能な財貨の範囲を、存続会社の株式から、金銭あるいはその他の財産に拡大し、企業合併の機動的・弾力的遂行を促す制度である。b.次いで簡易組織再編の要件緩和がある。これは、合併に当たり、存続会社サイドで原則必要とされる株主総会決議を、合併規模が小さい場合、不要とする制度である。現行制度では、合併に当たって発行される新株が発行済み株式総数の5%以下であり、かつ、合併交付金の金額が存続会社の純資産額の2%以下の場合に限定されており、この条件をどこまで緩和するかが焦点となっている。c.さらに略式組織再編がある。これは、親会社と子会社など、支配関係のある会社間で合併など組織再編が行われる場合、被支配会社側の株主総会決議を不要とする制度であり、被支配会社で株主総会が開かれ合併議案が決議されても、実質的な意義は希薄なことを根拠とする。

(ハ)もっとも、新産業や新事業の創出は経済・産業の行方を中期的に決定するキー・ファクターであるため、各国政府とも今日様々な政策を積極的に展開している。加えて、研究開発投資の支援や租税負担の軽減など、国内資本のみならず、外国資本を国内市場に呼び込み、さらなる経済・産業の活性化を目指そうとする動きが、先進国と途上国とを問わず、ますます各国に広がっており、国際的な制度間競争の色彩が一段と濃厚になっている。
そうした情勢下、わが国としても、TLO 制度やSBIR制度の創設、あるいは商法改正にとどまらず、企業間の合従連衡の動きをさらに積極的に支援し、一段と強力な新産業・新事業創出スキームの整備を目指すべきである。とりわけ、現下のわが国にとって重要なポイントを整理すると、次の3点が指摘される。
第1 はNPO 法制の整備である。わが国ではNPO を地域の相互扶助や介護サービスを提供するボランティア組織と捉える見方が根強い。それに対して、NPO先進国であるアメリカでは、近年、企業セクターあるいは国や地方自治体などの政府セクターのいずれも、単独では担うことが困難な新市場・新産業創出を実現する主体として活躍の場を広げている。これには、次のような事情が指摘できる。
まず、技術革新のペースが加速し各企業にとってフォローすべき研究開発分野が急速に拡大する一方、小売業でのネット販売の増加や通信業への電力系企業の参入に代表される通り、既存市場に有力プレーヤーが新規参入し、従来の事業・産業区分の垣根が低くなるなど、経営環境の抜本的変化が進行するなか、個別企業にとって、さらに一国経済全体にとっても、競争力や成長力を維持・強化するには、中核的な事業や産業への資源集中を図ると同時に、将来有望な新事業や新市場のシーズを可能な限り渉猟し漏れなく確保していくことが不可欠となっている。しかし、新技術にせよ、新たな事業モデルにせよ、構想段階やスタート・アップの段階でどこまで市場が拡大するかについて、先行きを確実に見通すことは容易ではない。そのため、コストの肥大化を回避しつつ最大限幅広く可能性を追求する以外に方策はない。加えて、そうした段階では事業性が乏しいため、推進主体に対してヒト・モノ・カネをはじめ様々な支援を行うことが欠かせないし、技術や市場の変化に応じて機敏に軌道修正を行う必要もある。そうしたなか、NPOは、官民双方から様々な支援を受け入れながら、利益を上げたり収益力を強化する必要がなく、さらに年度の予算や計画に縛られることなく柔軟に事業展開が可能であるため、以上のような様々な問題を克服しやすい特性を備えている。
そこで、アメリカでのNPO の推移をみると、90 年代半ば以降、増勢が加速しており、内国歳入庁が内国歳入法501条c項の非課税団体と認定した団体数は91年の106万から、96年の119万を経て2003年には150 万団体に達している。このうち、寄付金に対する課税免除団体として内国歳入法501 条c 項第3 項が適用される団体数は、2003年で96万団体に上る。ちなみにわが国では、2004年4月末時点で内閣府あるいは都道府県に認証されたNPO 法人が1万6,549件、そのうち寄付金の優遇税制が受けられる認定NPO 法人は2004 年5 月28 日時点で24件にとどまる。
第2は税制の整備・拡充である。主なポイントとして、まず連結納税制度の対象範囲の拡大がある。すなわち、わが国では同制度の適用対象が、親会社たる内国法人と、その親会社が全発行済み株式を保有する内国法人に限定されている。
企業やNPOなど、様々な組織間の連携を通じて新市場・新事業創出をサポートする観点からみれば、連結要件を緩和することによって連結納税制度の適用対象の拡大を図ることも有力な方策といえよう。ちなみに、アメリカの連結納税制度では、連結要件が80%とされている。次いで欠損金の繰延期間延長がある。すなわち、わが国の場合、欠損金の繰延が認められる期間は5年間であるのに対して、他の先進各国についてみると、アメリカでは最長20年、ドイツやイギリスでは無制限であるなど、総じて長期間にわたって欠損金の繰延が認められている。こうした取り扱いは、ベンチャー企業をはじめとして、欠損金を計上せざるを得ない企業では事業基盤が総じて脆弱なため、長期にわたる欠損金の繰延が認められず、ようやく計上できた利益が税負担として社外へ流出すると、経営破綻に陥るリスクが増大するため、そうした事態を回避する観点から設けられた。
さらにコーポレート・ベンチャリングに対する支援税制がある。例えば、イギリスでは2000年の税制改正で、コーポレート・ベンャー・スキーム(Corpoate Venture Scheme )が導入された。本制度は、ベンチャー企業に対して既存企業が行う資本提供をより活発化させることが目的とされ、ベンチャー企業に対する投資額の20%を上限として既存企業に対して税額控除が認められる。もっとも、既存企業がベンチャー企業の経営を実質的に支配することを回避するために、既存企業が保有するベンチャー企業の株式は、当該ベンチャー企業発行株式総数の3 割未満とするという制限が付される一方、ベンチャー企業の株式を短期保有することで税制のメリットだけを享受する等、制度の悪用を防止するために、既存企業によるベンチャー企業の株式保有は3年以上とされている。
第3は現行制度の拡充である。例えば、まずTLO についてみると、上記の通り、着実に制度利用が拡大しているものの、大学の特許取得件数が、2000年のアメリカで3,272件に対して、わが国では2001 年で162 件にとどまるなど、研究開発、さらに事業創出面での成果は依然として小さい。わが国TLO制度をさらに活性化させるためには、TLO の非課税団体化や政府からの支援金の使途制限緩和など、アメリカでTLO制度が成功した要因、とりわけ運営手法を中心に、そのノウハウを導入する必要がある。
次いでSBIR についてみると、上記の通り、2004年度の予算額は300億円へ一段と増額されたものの、アメリカでは2000 年度の予算規模が11 億9,000 万ドルに上っており、依然彼我のギャップは大きい。加えて、アメリカでSBIR プロジェクトが成功した秘訣、すなわち、研究開発段階から事業化段階にフェーズが移ると、連邦政府当局が積極的に当該中小企業からプロジェクトの成果物である製品あるいはサービスを購入したり、各州政府がコンサルティングやマーケティングの支援を行うなどの多様かつ強力なサポート活動を、わが国でも充実させる必要がある。
なお、SBIR類似の制度として、アメリカ連邦政府のSTTR (Small Business Technology Transfer Program )の導入も推進すべきである。これは92 年に創設され、SBIR との違いは、SBIRでは中小企業自身が研究開発推進主体であることが前提とされているのに対して、STTR では中小企業と、大学やNPO など、研究機関とのアライアンスを対象としており、中小企業が必ずしも研究開発を行う必要がない点にある。この制度は、中小企業の経営リソースが限定されているケースが少なくないため、研究開発の推進には研究開発の専門チームとのアライアンスが有効という認識をベースにしており、創設以来、積極的に活用されている。
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